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天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
29/72

仲直り

後半を付け足しました。

 散々街中を振り回されて屋敷へ帰ったのは、既に日が沈もうかという所。腕には付き合わせた礼だと、戦利品の山が抱えられている。


「久しぶりに楽しかったぞ、リアナ。また時間のある時は付き合ってくれ」

「暇なら仕事してください」

「何か言ったか?」


 呟いた小さな本音はどうやら届かなかったようだ。またなと、挨拶代わりに頬に唇を落としてヴァリアスは暗闇に融けていった。リアナは不可抗力とはいえ無断で家を出て行ったことを怒られるだろうと覚悟して、足取り重く裏口の扉を開いた。


 そして前述に戻る。


 事情を聞き終えた後、室内は不気味なほどに静まりかえっていた。勘違いとはいえリアナを傷つけてしまったことに変わりはない。


「……リアナは愚かな兄を許してくれるでしょうか」


 頭が冷えた今、改めて自分のしでかした仕打ちに頭を抱えたくなる。大切にすると言っておきながらこの様か。さぞ呆れているだろう。


「リューグ様。自己嫌悪に陥る前にお嬢様に謝ればいかがかと。お嬢様とリューグ様の絆はその程度で壊れるものではないでしょう?お二人は家族なのですから」

 家族。

 昔、自分がリアナに告げた言葉だと気づき、苦笑いする。


「相変わらずシェイスは厳しいですね」

「何年お側に仕えているとお思いですか?善は急げですよ。早くお行きください」

「ああ、判ったよ。だから押さないでくれ」


 どこか吹っ切れたようにリューグはリアナの部屋へ足を向けた。



 合図をしてから扉を開ける。部屋は灯りもつけず真っ暗だった。明るい月の光を頼りにリューグはうつ伏せているリアナの姿を見つける。

 ベッドが音を立てて軋んだ。伏せったままのリアナに迷いながらもそっと手を伸ばす。ぴくりと一度身体が震えたがそれだけだった。


「すまなかったリアナ。君の言い分を聞きもせず勝手に決めつけた挙げ句、決して許されないことを口にした。本当にすまない」

「…………」

「私達が強引にリアナに枷をつけた。リアナが私達を詰りこそすれ、私達がリアナを責める資格はないんだよ。そのことを忘れてはいけなかったんだ」

「……謝らないでください」

「リアナ?」

「わたしが自らこの道を選んだんです。決して囚われたわけではありません。あの時お義兄さま仰いました。私達は新しい家族だと。家族内の規則を守るのは当たり前のことで、破った私が反省すべきことです。それとも私は他人ですか?だからお義兄様は私に何も相談してくださらないのですか?」


 曇りのない紫の双眸がリューグを射抜く。ここ数日、思い悩んでいたことにリアナは気づいていたのだ。氷の仮面がふっと緩み、華奢な身体を抱きしめる。


「違うよリアナ。君は私の大切な妹だ。大切だから守りたい。父もジュードも同じ気持ちなんだ。君は自慢の妹だよ」


 不安だったのだろう。優しく接するのは大事な政治の駒だから、とでも賢いこの妹なら思っていたのかもしれない。確かに初めはそんな理由だったかもしれない。

だが彼女と言葉を交わし、共に暮らしていくことでいつの日か公爵家のかけがえのない存在になっていたのだ。この自分が無条件に手放したくないと思える程には。


「ほんとうに?」


 感情が少し高ぶっているせいか少し舌足らずだ。


 リューグを見上げる瞳は潤んでいても涙を流した跡はない。どこまでも気丈なリアナに思いきり泣かせてやれない自分の不甲斐なさを感じながらも本当だよ、と頭を撫でる。絹の服が皺になる程強く握られた拳が精一杯リアナの感情を映しているようで。


 可愛すぎる。思いきり抱きしめて頬擦りしたい。流石に状況を鑑みて辛抱するが、背中に回された指がわきわきと動くのは仕方ないだろう。リューグの不穏な動きに気づかずリアナは滑らかな頬に唇を押しつけた。


「では、仲直りの印ですお義兄様」

「仲直りの……そうだね」


 お返しとばかりにキスの嵐を顔中に降らせたのは言うまでもない。



 次の日。


「おはようございます、ヴァリー」

「ああ。昨日はお前の妹に世話になったな」

「彼女から聞きましたよ。随分強引だったとか」

「リ、リトル?」


 顔はいつも通り穏やかに笑っているのに、声が1オクターブ低い。静かな怒りを前にヴァリアスの背中に冷や汗が滲む。


「この際ですから言わせていただきます。貴方にとっては僕の妹でしょうが、彼女は貴方のことを何も知らないんですよ。突然知らない人に連れて行かれて人攫いと間違われてもおかしくないんです。日頃から口を酸っぱくして言っているつもりですが、立場を弁えてくださいよ。彼女だから今回は良かったものの、皇弟が人攫いなんて洒落になりません。そもそも女性に対する扱いが為っていない。いいですか。女性というのは……」


 この調子で二刻程小言を言われ続け、ヴァリアスは改めてリアナに謝罪の手紙を送ったという。対照的にリトルはいつもの三倍増し爽やかオーラを振りまいていたそうだ。


最後はやっぱり兄ちゃんが甘めです。リューグ兄ちゃんは書きやすいんだけどなぁ。ジュードさんは難しいです。

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