表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天と地と  作者: aaa_rabit
第三章
25/72

仮装舞踏会 中編

タイトル変更。三部作でいきます。

 最後の方に足を踏み入れたリアナは、大広間の賑やかさにぽかんと口を開ける。

 入場は基本的に位の低い貴族から始まって、高位貴族は遅くに入るのが慣習だ。当然皇帝入場までには会場入りしていなければ締め出しを食らうのだが。今回はヴァリアスの付き添いなので、順番は後ろから数えた方が早い。というか、ほぼ最後だ。


 真昼にも勝るとも劣らぬ何百もの眩い光が広間を照らし、それぞれが贅を凝らした仮装で着飾る。この日ばかりは女性も足を大胆に見せたドレスやズボンを穿き、男達は時折鼻を伸ばしながら話しかける。位の垣根も取り払い、誰もが対等に話すことを許された。

 そして今宵注目の一人であるヴァリアスが会場に足を踏み入れた時、彼の妻の座を欲する貴族達がさり気ない視線を送り絶句した。

 傍らにはいつもの見目麗しい騎士ではなく絶世の美女が立っていたのだ。背を向けていた貴族達も話し相手が後方に釘付けになっていることに訝しみ、同じように目を見張る。

 この場を支配しているのは、豊かな栗毛を複雑に編み込み、兎を模した衣装を着た美女だった。そんな周りの反応も知らず、いや慣れているからこそ当の本人は周囲を見渡す余裕を持っていた。隣ではライオンに扮したヴァリアスが紳士らしくエスコートしている。


「さすがリトル。恐ろしい奴だな」

「ヴァリー、あの絵が有名な”ルトナ光臨”ですよね!ガドラング最後にして最高傑作」


 天井を見上げていたリアナはヴァリアスが止まったことに気づかず、軽くぶつかってしまう。


「やあ可愛いうさぎさん。あんまり余所見をしていると狼さんが食べちゃうぞ?」

「お義兄……リューグ様!」

「しーっ。ここでは本名は御法度だよ」

「あ」


 ぱっと可愛らしく手の平で口を塞ぐリアナにでれでれとリューグの顔が緩む。隣にはスフェンネル公爵本人がいた。

 挨拶を返しながらヴァリアスは冷や汗を掻く。リアナを気遣ってか二人とも始終笑顔でありながら、ヴァリアスに鬼気迫るような気配を発していた。その眼はなぜリアナがここにいるんだと怒っている。リアナはまだ未成年で、本来招待されるような年齢ではないからだ。リアナの身を預かっているヴァリアスにその怒りが向くのは当然だった。


 そして、三人の無言の攻防を余所に、またも周囲にどよめきが奔る。あの氷の貴公子の異名をとるスフェンネル家の嫡子が、ヴァリアスが連れている女性を前にして笑っていたのだ。にこやかに会話する様子から、それなりに付き合いがあることが察せられる。


 筆頭公爵家と皇弟が懇意にしている謎の美女として、一夜にしてリアナの噂は宮中に駆け巡ったのは言うまでもない。なんといってもどちらも未婚男性の優良株。すわどちらかの許嫁かという話まで囁かれた。周りの思惑はともかくその中心である少女は何も知らずに、義兄と義父との会話を喜ぶ。


 時に周囲を巻き込み、ベイルやリュードがさり気なく二人の仲を妨害しつつ歓談していると、皇帝及び皇族の入場の合図が鳴り響く。一瞬で静寂に満ちた中を皇族が堂々と進んでいく。正面にそれぞれ座り、最後に皇帝が座る。そして彼が舞踏会の開催を告げ、音楽が流された。

 最初の一曲は秋と春の装いをした皇帝と皇后が中心で踊りそれ以降は貴族達も混ざっていく。

 壁際には贅を尽くした料理と酒がふんだんに振る舞われ、休憩室も開放されている。この日のために庭師が力を込めて整えた庭は等間隔に篝火が焚かれ、恋人達の密事を隠すよう適度な暗がりが作られていた。


 バルコニーで火照った身体を冷やしていたリアナにふわりと上着が着せられる。松明の炭が爆ぜ、二人の影を揺らした。


「先程の踊りは素晴らしかったよ。淑女同士の踊りに皆目を丸くしていた」

「本来なら僕は冬の方のパートナーですから当然です。気づかれた方もいるのではないでしょうか」


 女性にしては少し大柄な冬の衣装で着飾っているキエリファが女側を、可憐な美少女が男側を務めるダンスは大きな拍手で終えた。宴もたけなわとなり、面白い趣向だと思われたかもしれない。


「まさか。今頃躍起になって公爵やヴァリーに君の素性を探っているだろうよ。それよりいつまで休憩しているつもりだい。僕と踊ってくれる約束だろう?父上や母上とも踊っているのに私だけ踊ってないのはずるいじゃないか」


 約束を破るわけじゃないよね?低い声がリアナの耳を擽る。


「ジード様のパートナーの方が探していらっしゃるようですが?」

「放っておけばいい。勘違いされても困るから」

「勘違い?」

「リトルは知らなくても良いよ。まだね」


 態と垂らされた髪を梳きながら後ろへ流される。手袋越しとはいえ素肌に指先が掠り、リアナは少しだけ身を竦ませた。

 開かれた襟刳りに噛みつきたい衝動を抑えながらジェラルドは涼しい顔で手を差しだした。そして剣を握るとは思えないたおやかな手がおずおずと乗せられる。

 逃げられないように強く腕を握り、音楽の洪水へと身を乗り出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ