ポンコツ…?
3日後。8/21新店舗オープンの日。
オープン初日ということもあり、接客席はすでに満席で後日予約を取るなどの対応が続いていた。
ゆかりの仕事は、
来店したお客様を席まで通し、担当社員を割り振り、お茶出し等が主な業務内容だった。
天野は相変わらず仕事を休んでいるが、業務指導を遠隔操作で行っていた。
ただ、休養中の天野を気遣ってゆかりから指示を仰ぐことはなかった。
そわそわし、ぎこちない様子で接客していくゆかり。
営業担当の、安西店長、加瀬係長、川田を順番にローテーションで接客テーブルにつけていく。
接客席に向かう営業さんを励ますゆかり。
ゆかり「川田君、頑張って!」
川田「はい、いってきます!」
ドアを開け加瀬係長が接客席から戻ってくる。
加瀬「堂本さん、この3枚の物件カードの作成をお願いします。」
堂本「承知しました!早く作るんで、決めてきてくださいね!」
加瀬「おおっ、決めてくるわ!」
急いで物件資料をカードにまとめるゆかり。
その間川田は胸を張り、背筋をピンと張り、お客様用のドリンクのおかわりを準備する。
堂本「うんうん、堂々としててかっこいいですよ!頑張ってください!」
そこに安西店長が事務所に帰ってくる。
安西「堂本さん、この3つの物件資料の作成をお願いします!」
堂本「OKです!すぐやります!」
サクサク物件資料を作成していくゆかり。
安西は自席に戻り、一休さんのようにこめかみに指を当ててどういう風に話を持っていくかを考えだす。
安西「あ、堂本さん、アイスコーヒーのおかわりもお願いします!」
堂本「OKです!物件資料完成しましたよ!店長、頼りにしてますよ!」
そこに川田が事務所に帰ってくる。
まだ物件資料の作成やドリンクオーダー等、事務所はめまぐるしく人の出入りが行われる。
ゆかり(みんな契約取れるといいな。こんなに盛況なんだから大丈夫だよね。)
不動産売買の契約は、金額が大きいため当日に決まることはほとんどない。
契約までのスケジュール感としては
1度目の来店:希望ヒアリングの上、次回物件見学予約。売主とスケジュールが合って見学できそうなら実際に物件見学。
2度目の来店:物件見学
3度目の来店:契約
大体2-3回目の来店で売買契約まで締結するイメージなので2週間後くらいから契約が取れるスケジュール感で、全社が新店舗の動向に注目していた。
営業終了後、来客されたアンケートに記入された顧客情報をフォーマットに入力していく。
それを確認しながら、終礼ミーティングで各営業の顧客属性や次回アポの有無や手応えを共有しあう。
その内容を議事録のように記録していくゆかり。
なんだかうまくいきそうな空気感が出ていた。
ゆかり(早くて安西店長のA様辺りが一番早く契約できるのかな。)
オープンより10日後。
朝礼後、取引先から送られてきた花が枯れかけていたので安西店長に撤去を推奨するゆかり。
安西「んー、それは週明けに撤去しましょう」
安西店長は忙しさと新店舗を軌道に乗せないといけない重圧感で、細かいところまで考えられなくなってしまっていて、面倒なことは後回しになっていた。
ゆかり「え、でもお客様から見て清潔感なく見えますよ!?」
安西「でもこれからお客様が来るので…明日にしましょう」
その日も来客は多く、大盛況だったが、まだ契約を決められる営業は誰一人としていなかった。
営業メンバーの3人は疲労と焦りが見えていた。
営業終了後。
社長「おー、お疲れさん!」
颯爽と社長が新店舗にやってくる。
ゆかりの頭の中でダースベイダーのテーマ曲が響き渡る。
ゆかり「お、お疲れ様です!」
ゆかり(いつも思うけど、すごい存在感だよな、社長って…)
社長は一番奥の席に座り、いつものようにデスクの上で足を組む。
社長「営業いいか?安西ぃぃ!お前から進捗教えろ!」
営業メンバーは背筋がピンと伸びるとともに肩を竦める。
特に係長の加瀬は俯き始める。
安西「はい!まずA様の進捗ですが…」
進捗報告を始める店長の安西。
社長「お前、物件こんなに紹介しといて…まだ契約取れんのか?」
安西「申し訳ありません。今週中に決めます…」
そして加瀬の進捗報告が始まり、社長のダメ出しが始まる。同じく川田も…
営業3人の進捗報告が終わり、社長が深いため息を吐く。
社長「オープンして1週間以上経つけど、お前らなんで1件も契約取れてないんや!契約取れてない営業は人間ちゃうぞ!?今週中に1件あげろ!」
営業3人が口を揃えて返事をする。
「はい!」
社長が退店しようとする間際、社長が枯れた花の前に足を止める。
社長「安西、これなんや?花枯れとるのになんで放置してんのや。お前、あほか?こんなんで契約取れると思ってんのか?」
安西「申し訳ありません、これは明日撤去しようとしてまして…」
社長「見てみろ!コバエたかっとるやないか!家族連れも来とるやろ!お客さんがどういう風に思うか考えろ!」
安西「はい、すみません!」
カツカツという足音とともに去っていく社長。
それを見ていたゆかりは…
ゆかり(だから朝相談したのに…)
翌日。
朝礼で枯れた花の件が安西から共有される。
朝礼が終わると本社からゆかり宛てに電話がかかってくる。
お局的キャラクターの高木からだった。
ゆかり「お疲れ様です、堂本です。」
高木「あんた!何やってんの!社長が言うてたわ、枯れた花飾ってたって!」
ゆかり「え、私昨日の朝、安西店長に撤去した方がいいんじゃないかって話したんですけど、翌日にしようって話になったんですが…」
高木「あのな、そういうんは女の堂本さんがうまいことやらなあかんやろ!ほんでな、花は切るねん!そしたら長持ちするから!あんたそんなんも知らんの!?」
ゆかり「それはやってましたけど、1階の路面店でエアコンの効きもよくないので枯れやすいんです…」
高木「それは分かるけどな?営業さんは大変なんやからあんたがしっかりせなあかんやろ!」
ゆかり「……わかりました。気を付けます…。」
ガチャッと乱暴に電話を切られるゆかり。
ゆかりの腹の中はどす黒いもので埋め尽くされていた。
川田「高木さんはそんな感じなんで気にしなくていいですよ。見返してやりましょ!」
ゆかり「川田くん、ありがとう…」
安西「堂本さんすみません、僕がちゃんと昨日の朝撤去して置いたらよかったですね。本当にすみません。」
店舗のメンバーで枯れた植物を撤去し始める4人。
そしてまた電話が鳴り始める。
ゆかり「お電話ありがとうございます。エフスタイルでございます。」
天野「堂本さんお疲れ様です!色々聞きましたけど大丈夫ですか!?」
ゆかり「天野主任。花の事ですよね。お休みの天野主任の耳にまで届いてるなんて、お恥ずかしい。」
天野「あのね。実はそこに寄せ集められる営業メンバー、ほんまにポンコツなんですよ。だから奴らの話は気にせんでええです(笑)」
ゆかり「撤去とか取引先からいただいてるものだし、許可必要かなと思ってたら社長が来ちゃいました…」
天野「ハハッ。それは運が悪かったですね。高木さんの事も気にせんといてくださいね。
あの人特に、若い女性社員とか入ったらキツいんですよ。だから気にせんといてください。」
ゆかり「天野主任、お願いだからやめないでくださいね…早く戻ってきてください」
天野「……。」
無言になる天野。
その静寂に緊張感が漂う。
天野「また復帰しますよ。大丈夫。堂本さん、それまでやめんといてくださいね。」
ゆかり「はい、待ってます。」
そういってそっと電話を切るゆかり。
花の撤去の作業に戻るため、振り返らずに事務所を後にした。




