分かりくい優しさ
数日後。
朝礼を終え、ゆかりの元にやってくる天野。
天野「堂本さん、今日は施主検に行きましょう。」
ゆかり「え?せしゅ、けん…って何ですか?」
天野「店舗の内装が出来上がったんですよ。その出来上がりを施主が検査するのが施主検っていうんですよ。安西店長と3人でいきましょっか」
ゆかり「店舗って歩いていくんですか?」
天野「いや、自転車で行きます!」
ゆかり「え?自転車…ですか…(笑)」
天野「ハハッ、そうなんですよ。」
天野の端正な顔が、クシャッと崩れる。
きゅっと上がった口角に、笑った時の笑いジワ。
天野の目が、窓から差し込む日差しを受けキラッと輝く。
ゆかり(あ…天野さんて笑うとこんな感じなんだ)
天野「予定としては11時頃ここを出発します。内装業者が仕上がりが甘いところとか、インテリアとかを女性目線でチェックしてもらいますか?」
ゆかり「はい、承知しました!」
11時。
ゆかりは、自転車の借り方やある場所等を天野と安西からレクチャーを受ける。
ゆかり「あ、安西店長は自前の自転車なんですね」
安西「そうなんです。これはランボルギーニなんですよ」
天野「ハハッ!社長からもろたんですよ、この自転車。年末の忘年会の抽選でね!」
柔和な雰囲気にわくわくするゆかり。
真夏の日差しが眩しい。
天野「僕らはこれとこれとこの自転車ですね、鍵が合うやつを選んでください」
ゆかり「はい!」
自転車に乗り、安西と天野の後をついていくゆかり。
だが、ペダルを漕いでも漕いでも進まない。まるで亀のようだ。
そもそも自転車に乗ってる意味がないほどのスピードだ。
ゆかり(これ、空気入ってない、よね?)
そんな中、安西は自慢のランボルギーニに翼を生やしたように後ろを振り返らずに遠くに消えて行ってしまう。
ゆかり(え!安西店長、私店舗どこにあるかわかんないのにそんなに早く行っちゃうの?)
必死で自転車を漕ぐが、本当に進まない。
真夏の暑さなのか、置いてけぼりの予感からの冷や汗なのか、汗が止まらない。
ゆかり(天野さんは…あっ)
天野は10mほど先をゆったりとペダルを漕いでいる。
膝と足先を逆ハの字のようにしていて、オッサンの自転車の漕ぎ方だが
時折、後ろをチラチラ気にかけているようだ。
ゆかり(あ、天野さんは待ってくれてるみたい…よかった。でも早くいかなきゃ)
なんとか店舗に到着するゆかり。
安西店長は先に店舗に入っていたが、天野はゆかりが到着するまで暑い中外で待っていた。
天野「大丈夫でした?空気抜けてますかね…帰ったら入れましょうか」
ゆかり「あの、遅くなってすみませんでした」
天野「ハハッ。堂本さんが悪いわけじゃない、気にせんといてください。」
ニカッとくしゃっと笑う天野の笑顔が眩しい。
その笑顔にホッとするゆかり。
内装が完成したばかりの新店舗に入店するゆかりと天野。
安西はすでに入店している。
3人で様々な個所をチェックする。
どこをどうチェックしていいか分からないゆかりだが、自身の感性でチェックしていく。
ゆかり「素敵な店舗ですね。ここで働くのが楽しみです!」
安西が仏の笑顔でニコッと笑う。
安西「そうですね。僕たち営業はたくさん契約取らないと、ですね!」
ゆかり(こいつ…私を見捨ててランボルギーニでビューンと行きやがって)
天野「ハハッ!安西さん頑張らな!」
数日後、お盆期間を利用して本社から新店舗への引っ越しの日。
引っ越し作業は男性社員が行い、女性社員はお盆期間は休暇取得をしていた。
お盆休暇が明け、出勤したゆかりだが
そこに天野の姿はなかった…………。




