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相思相愛未遂  作者: ゆー
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送別会

清掃が終わり、事務所に戻るゆかりと天野。


営業メンバー全員が出払っているため

なぜか事務所に二人っきり。

今までこんなことなかったのに…

誰かの策略だろうか…

と疑いの念を巡らせるゆかり。


ゆかりの隣席で座る天野。

事務所はそれなりの広さがあるのに、二人が並んで隣に座っている為

なんだかスペースの無駄遣いをしているみたいだ。


隣で背筋を伸ばし、息を吐きながら左腰をさすり続ける天野。

非常に左腰が痛そうな仕草をしている。

天野の顔色を窺いながら上目遣いで天野に話しかけるゆかり。



ゆかり「天野主任?大丈夫です?痛い??病院行った方がいいんじゃ…」


天野「大丈夫です。なんとか粘ります!」


ゆかり「無理しないでくださいよ。せめて病院に行ってもらってもいいですか?」



天野から視線を反らし、少し涙目になるゆかり。

片手で頭を抱え、綺麗にセットしているゆるいパーマヘアをわしゃわしゃと頭を掻く。

二人きりの事務所に少しだけ沈黙が訪れる。

そして息を吐き、口を開く。



天野「そうですね。じゃぁ、営業が帰ってきたら病院に行きます。」


ゆかり「よかった!それが一番いいです!」


天野「…すんまへん」



頭を項垂れ、後頭部を掻く天野。

ゆかりには敵わないなという気持ちを体現しているようだ。



10分くらいして店長の安西がニヤニヤと満面の笑みで店舗に出勤してくる。



安西「おはようございます!堂本さんすみません、今日は皆、出払ってて。」


ゆかり「全然かまわないです!」



チラリと天野を見る。

天野は立ち上がり安西に話かける。



天野「安西さん、ちょっとみぞおちが痛くて…ちょっと病院行かせてもらってもいいですか?」


安西「えっ?お前大丈夫か?早く病院行ってこい!」


天野「すんまへん。」



ジャケットを羽織り、病院にいく天野。

今度は安西と二人きりになるゆかり。

天野と二人きりの時はドキドキしてどう振る舞っていいか分からなかったが

他の人と二人きりになっても自分らしく振る舞えるのが不思議だ。




ゆかり「安西店長、今日って本当に営業さん全員予定があるんですか?今までそんなことなかったのに…」



すっとぼけた表情で、ポリポリと頭を掻き始める安西。

そしてなぜかとんちを考える時の一休さんのように、両方のこめかみに人差し指を当てて何かを考えだす。


安西「……は、はい。き、今日は皆予定が入ってます。」


ゆかり「そ、そうですか…」



安西が吃りながら話している。

いつも溌溂と、営業なので言葉がつらつら出てくる安西が吃っているのだ。

明らかに何かが変だ。



ゆかり(まさか。みんなで示し合わせて二人っきりにされたんじゃ…?)



そうこうしているうちに加瀬が出勤してくる。



加瀬「おはようございます!」



いつもより不自然なくらいニヤニヤしていて溌溂としている加瀬。

やはり、何かが…違う。



ゆかり「おはようございます。今朝は何の予定があったんでしょうか?」


加瀬「あっ!今日は物件案内に行ってましたよ!」


ゆかり(あっ!ってなんだ…?)



やはり何かが怪しい。

ゆかりの女性の直感が鋭く警鐘を鳴らす。

そんなやり取りをしているうちに、川田と西田がセットで出勤してくる。



川田&西田「おはようございます!」



ゆかりの尋問が始まる。



ゆかり「おはようございます。今朝皆さん予定があったみたいですけど、川田君と西田君は何の予定があったの?」


西田は川田に話の主導を委ねるように川田を見つめる。

いつも目を合わせてしっかり話す川田が、目線を右下に反らしながら口を滑らす。



川田「今日はですね、銀行さんとの話し合いで出てまして…」


ゆかり「そうなんだ。皆成長してますね。すごい、えらい!」




ゆかり(こいつら。絶対なんか示し合わせてるな。いつもと違いすぎる)


周囲にばれないように息を吐くゆかり。

ふと一つの考えが思いつく。


ゆかり(ちょっと待って。これ皆に好きバレしてるってこと?)



周囲の営業メンバーの顔を見回すゆかり。

なんだか恥ずかしくなり女子トイレに飛び込む。

鏡の中に映った自分をまじまじと見つめる。



ゆかり「もぉー!皆のばか!二人きりにするならあらかじめ言ってよ~!」




12時前。

天野が病院から店舗に帰ってくる。

ゆかりはびくっと肩を震わせたが、胸の鼓動を深呼吸してごまかす。

無言でゆかりの隣の席に着席する天野。

また胸がドキドキし始める…が…



ゆかり「天野主任?大丈夫でした?」


天野「あ~結局検査結果待ちになりまして。血だけ抜かれて痛み止めだけもらいました(笑)」


ゆかり「そうですか。顔色も悪いし、早退した方がいいんじゃないですかね…」


天野「いや!今日は送別会あるんで。粘ります!多分身内に頼んだら迎え来てもらえるし、何とかなります!」


ゆかり「ダメです!そんなん私、気を遣うでしょ!それが原因で倒れたら、私、辛いです…」



天野を見つめるゆかりの大きな目が涙ぐみ、より多くの光を集める。

天野は息を吐き、やれやれと言わんばかりに頭を掻く。


それを見ていた店長の安西が口を開く。



安西「天野、今日は早退しなさい。無理はあかん。」



男社会で縦社会の昭和企業だ。

先輩に言われるとどうしようもなく鵜呑みにするしかない天野。

肩を竦め、静かにうなずく天野。



天野「すんません、帰らしてもらいます。」


ゆかり「天野主任、ちゃんと休んでくださいね。あんま飲みすぎないようにしてくださいね?」


天野「はいっ!」




自分の送別会に天野がいないのはとても寂しいし、天野も出席したいという強い願望は確かに嬉しかった。

ただ天野自身の体調を考えると厳しい言葉で早退させることが、彼にとって最善だと思った。

天野への申し訳ないなという気持ちと、天野の体調への心配で胸がいっぱいだった。

そう、天野でいっぱいだった。



退勤時刻になり、ゆかりの送別会会場へ向かう。

店舗の営業メンバー、安西・加瀬・川田・西田と本社の中野が出席してくれていた。

お酒を酌み交わし、楽しい時間を過ごすが、天野がいないため心の中に物足りなさを感じていた。

そんなゆかりの表情を悟ったのか、安西がゆかりに話しかける。



安西「天野はあいつ…今までずっと一人で戦ってきたんですよ。17年一緒に過ごしてきたから、僕はあいつの考えてる事は何となくわかるんですよ。」


ゆかり「ふふっ、誕生日も一緒ですしね。」


安西「そうですね、誕生日も一緒でした(笑) あいつはずっと一人抱え込んできたけど、でも堂本さんとなら…ちょっと違うかも。変わるかもしれんね。」


ゆかり「え!!!!それどういう意味!?」



驚きの発言に思わず敬語を使うことを失念してしまうゆかり。



安西「アハハ。ご想像の通りですよ!あいつ意地っ張りですけど、優しいと思います。だから応援してますよ!」


ゆかり「あはは~バレバレですね(笑)困ったな。」




ラストオーダーの時間になり、1年ほど一緒に戦ってきた戦友たちと別れを惜しむ。



ゆかり「大丈夫!皆さんなら出来る!1億?それ以上の粗利を出せる力があるから、頑張ってください!」




その帰り道。

天野にLINEメッセージを送信するゆかり。



(ゆかりからのメッセージ)

【天野主任、体調どうですか?悪化されてないといいですが…

そして今までお世話になりました!

今度は二人で飲みに行きましょうね!】



すぐに既読がつき、天野からの返信が来る。



(天野からのメッセージ)

【今日はすんません…本当はとても行きたかったんですが…

また行きましょう!8月10日なら大丈夫そうです!

それまでに体調復活させます!】



ゆかり(……?8月10日?淀川花火大会の日だ…。あれ?私が花火いいですねって言ってたの覚えててくれたのかな…)



偶然なのか意図的なのか分からないが、天野がきちんと次回の約束をしてくれたことに

胸がじんわりと温かくなる。



(ゆかりからのメッセージ)

【8/10ですね!空けておきますね!お忙しいと思うのでまたお店ピックアップして送ります♪】



(天野からのメッセージ)

【よろしくお願いします!】



スマートフォンを両手で大切そうに握りしめ、温かいため息を吐くゆかりだった。


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