退職の朝
翌週月曜日。
7月は毎週月曜日は天野と同じ会社に引継ぎを目的として出勤していた。
現勤務先は週5+週1で天野の会社に勤務していた為、週に1日休みがあるかないかだった為
一時期血尿が出ることもあった。
派遣でやって来た女子スタッフにテキパキと引継ぎをしていく。
その段取りの良さに営業メンバーと天野は驚いていた。
天野「アマゾネスやな…」
ゆかり「えっ!?私?ちょっとアマゾンの女って辞めてもらっていいですか?くすくす。」
天野「ハハッ!なんか女戦士っぽくて!」
ゆかり「もぉーやだー(笑)」
二人のやり取りを温かい目で見つめる、店長の安西と主任の加瀬。
カレンダー表が盛り込まれたホワイトボードを見て、天野がつぶやく。
天野「もうすぐ淀川の花火大会やな…」
川田「お、天野主任行かれるんですか?」
天野「まさか!行くわけないやん!人多いし!」
じゃれ合いながら明るくクシャッとした笑顔で話す天野。
その笑顔が眩しい。
この笑顔がこの場所で見られるのも、あと数日…
胸がギュッとなる。
ゆかり(そういえば天野主任に花火いいですねとかメッセージしてしまったな。そのこと覚えてくれてるのかな…ないよな…)
そしてゆかりの最終出勤日がやってくる。
8月以降の出勤は、もうない。
この日が天野と働ける最後の勤務日になる日だ。
皆にどうお礼を伝えよう。
今日は送別会も予定しているし、どのような1日になるのか寂しい気持ちもありながらワクワクしながら出勤するゆかり。
初夏の朝の空気と街路樹の青々しい緑の色彩が、とても清々しい。
店舗に出勤し事務所に入室すると
そこには天野の姿だけがあった。
ゆかり「おはようございます!珍しいですね、天野主任だけなんて。皆さんは?」
天野はよそよそしく口を開く。
天野「今日はみんな予定があるみたいで。それで朝の時間だけ僕が手伝いに来たんですよ」
ゆかり「え、嘘!?営業全員が出払ってるんですか?ちゃんと予定を作って…?そんなの今まで一度もありませんでしたよ!」
天野「ハハッ!彼らも成長しているってことですよ(笑)」
ゆかり「えー…嘘ー…」
天野「…」
変な話だ。
営業メンバーの中には2年目のボンクラ社員も含まれている。
今まで1人2人が朝にお客様との予定を入れていたことはあったが、全員に予定があるのはどこか変だ。
ゆかりは首をかしげながら、自席に腰を落とし、パソコンの電源を付ける。
返す言葉もなく、ゆかりの隣の席で俯き笑みを作る天野。
天野は相変わらず、左腰をさすっている。
なんだか顔色がどす黒く見える。
ゆかり「あの…天野主任?まだ腰痛いです?」
天野「これね…また飲みすぎてしまって。多分膵臓なんですよねぇ…」
とても痛そうに腰をさする天野。
ゆかり「朝の清掃、私一人でしますよ?相当しんどそうですが…」
天野「いやいや、堂本さん一人で清掃させるわけにはいきませんよ!ちゃんとやるんで。」
ゆかり「じゃぁ、楽な所だけやってください!テーブル拭きとか、ね?」
大きな瞳で心配そうに天野の顔色を窺うゆかり。
バチッと視線が合う。
ゆかりはたじろぎはしなかった。ただただ、天野が心配だった。
ゆかりのキラキラと光を集める瞳の眩しさに、思わず視線を反らした天野は…
天野「わかりました。じゃぁ、お言葉に甘えて!」
9:30になり清掃開始の時間になる。
天野と2人きりのため、ぎくしゃくしながら距離を開けて清掃を開始するゆかり。
そのゆかりの近くに天野が不自然に距離を詰めてくるが
なんだかドキドキしてしまい、つっけんどんな態度で無言で女子トイレの清掃に行ってしまうゆかり。
ゆかり(ふぁぁ、ダメだ。二人きりだと…お酒も入ってないし、どうしていいかわかんないんだけど!)
ドキドキする胸を押さえ、素直になれない自分が悔しい。
このまま天野と終わりたくない、そんな気持ちもありながらも社内という場所での立ち居振る舞いを考えていた。




