敵意…?
後日。
ゆかりの退職を控え、社内はバタバタしていた。
特に、後任の人選に天野は奔走していた為、ゆかりは今後上司になる野口に紹介できる人材ができないか相談していた。
今日は野口が店舗を訪れ、人事担当の天野と直属の上司になる安西と面談をする予定だった。
本社勤務の天野だったが、この日は野口の話を聞くため店舗に出勤していたが
左の腰下をずっとさすっていた。
ゆかり「天野主任?どうされたんですか?痛い?」
天野「いや、ここ数日飲みすぎてしまって。」
確かにふんわりアルコールの臭いが漂ってくる。
ゆかり「え、天野主任大丈夫です?もしアレでしたら無理せず早退してくださいよ…」
天野「大丈夫です!」
店舗にやってきて深々とお辞儀をする野口を受付で出迎えるゆかり。
ゆかり「野口支店長、お疲れ様です。今日はよろしくお願いします。店長と人事担当を呼んできますね。」
野口「よろしくお願いいたします。」
事務所に戻り、安西店長と天野主任を呼ぶゆかり。
天野「堂本さんも同席してもらえますか?」
ゆかり「え、私もですか?はい。」
安西と天野と3人で野口が座っている接客テーブルに向う。
野口は席を立ち、安西と天野に深々とお辞儀をする。
野口「本日はお時間をいただきありがとうございます。それでは弊社のご説明からさせていただきます。」
自社の特色やどのような事ができるのかを淡々と説明していく野口だが
ゆかりはその話を聞いていた対面に座ってる天野の異変に驚いていた。
天野は…
野口に強い視線を向けながら、左手の親指の爪を噛みながら、貧乏ゆすりをしていた。
いつも冷静沈着な天野から想像できないくらい
怒りの感情むき出しの天野。
ゆかり(え…?天野主任?もろイライラしてる…私のせいか…後で謝らないと)
野口が店舗を出るまで、天野の感情がおさまらなかった…。
事務所に戻ると、相変わらずゆかりの隣の席を陣取る天野に対して
ゆかり「天野主任、すみません、私が突然退職申し出をしてしまったから、ご迷惑をおかけしてしまって。」
天野「いや、全然大丈夫ですよ。我々の会社も至らない所が多いので(笑)ポンコツばっかりやからなぁ。ハハッ!」
ゆかり「そういうわけでは…」
天野「やりたい仕事があるんでしょう?堂本さんは活躍できるフィールドを見極めただけです。気にせんといてください!」
ゆかり「ありがとうございます…」
先ほどの天野の様子と打って変わって優しく前向きな天野の言葉に胸を撫でおろすゆかり。
淡々と現在の仕事および引継ぎ項目について作業を進めていくが
やはり罪悪感に苛まれてしまう。
さらに後日。
ゆかり「なんか申し訳ないな。一度ぶっちゃけて話したい。天野主任と…」
二人で飲みに行くのは社内で禁止令が出されていた為
断られること前提に天野を食事に誘う決意をする。
(ゆかりからのメッセージ)
【天野主任、退職することによって採用の負担など大きくしてすみません…
色々話したいので、よかったらまたご飯に行きませんか?】
LINEという密接したコミュニケーションツールで
ほとんど天野に連絡することがないゆかりは
いつも天野に連絡する時に指が震えてしまう。
その震えを、勇気を出してメッセージを送信する。
ゆかり(ふぅ。ま、男女二人で飲みに行くのはダメだから断れるだろうけど、後悔したくないな。)
5分後。
スマホの通知音が鳴る。
慌ててスマホの通知を確認する。
(天野からのメッセージ)
【いいですね!今度飲みに行きましょうか!】
天野の快諾に目を丸くするゆかり。
ゆかり(ふあっ!?え、行くの!?ええの??)
躍る胸の鼓動を抑えきれない。
頭の中で、ロマンチック止めて♪の音楽が鳴り響く。
ただそこは手を上げて万歳をせず、理性で抑え込み、冷静になろうとする…。
ゆかり(誰か誘った方がいいよね…でもこの前市岡さんと3人で飲みに行ったときには微妙だったら他の人かなぁ?聞いてみるか。)
(ゆかりからのメッセージ)
【え!いいんですか?会社で二人で飲みに行ったらダメって高木さんが朝礼で言ってたので、誰か誘います??】
(天野からのメッセージ)
【もういいでしょ(笑)二人でいきましょ!】
天野からの返信を見て、両手で口を押さえる。
思わずスマホを絨毯に落としてしまう。
ゆかり(う、嘘…マジかよ。二人で。こんなの…ドキドキする!)
その胸の鼓動は、不安が少し入り混じった恋のワクワクだった。




