昭和企業
ゆかり「淀屋橋って慣れてないから…時間マジヤバイ!」
今日はゆかりが転職して初めての出勤日。
駅で迷ってしまい、慣れないヒールでの足の痛みを我慢して会社に向かう。
ゆかり「えっと、方向どっちだっけ…」
スマホの地図アプリを確認しながら、小走りで会社に向かう。
ビルに到着したのは5分前。初回出勤日としてはかなりマズイ時間だ。
ビルの手前で社長と鉢合わせをしてしまう。
ゆかり(や、やばい…でも挨拶しないと)
ゆかり「おはようございます…。今日からお世話になります堂本と申します!よろしくお願いします!」
遅刻寸前の出勤の為、失跡覚悟で肩をすくめながら挨拶をするゆかり。
社長「堂本さん。今回のプロジェクトは重要ですから。よろしくお願いしますよ。」
ホッとするゆかりだったが、社長と一緒に出勤してくる様を見て目を丸くする社員たち。
ゆかり「おはようございます!本日よりよろしくお願いします!」
安西店長「堂本さん、今日からよろしくお願いします。待ってましたよ。」
安西店長に付き添われ、一人一人にあいさつをしていくゆかり。
教育する言っていた天野は目も合わさず、どこかへ去っていく。
ゆかり(みんな、人が良さそうな会社だな…どんな仕事をしていくんだろう?)
今日は月一の定例ミーティングということもあり、プロジェクトごとに分かれて各勤務地に出勤する社員たちも全員本社に出勤していた。
全体朝礼で自己紹介を済ませるゆかり。
ゆかり「堂本ゆかりと申します。前職では信販会社で審査を行っておりました。不動産業会は初めてですが、足を引っ張らないよう精いっぱい頑張ります。どうぞ皆様よろしくお願いします!」
ゆかりの挨拶後、各プロジェクトの進捗報告等がなされる。
ゆかり(何をメモとっていいかわからない…)
エアコンは効いているが、夏の暑さと遅刻ギリギリだった焦りから、汗がたらりと滴り落ちる。
朝礼が終了し、各業務に移る。
プロジェクトに派遣されている社員たちは、それぞれの勤務地へと向かう。
天野「堂本さんの席はこちらです。僕の目の前の席に配置しましたので、分からん事あったらいつでも聞いてください」
ゆかり「ありがとうございます。まず、私は何をすればいいでしょうか?」
天野「ほんだら…ホテルを探してもらえます?社長が近々東京の不動産会社のパーティーに出席することになってまして宿泊するホテルを品川駅付近で地図と一緒に予算内のホテルをマーカーで分かるようにしてくれます?」
ゆかり「わかりました!」
天野「あ、マーカー持ってますか?僕の使いましょうか。」
自分のピンクのマーカーを差し出す天野。
ゆかりに使うように、こういう風に握るんだとゆかりの手に天野自身の手を添え、ゆかりにマーカーを握持たせる。
ゆかり「えぁっ!ありがとうございます…」(持ってきてるけど…いきなり近くない…)
社長「天野ぉ!!ちょっと来い」
社長席のデスクに足を乗せた状態で天野を呼び出す社長。
天野「はい!すぐ行きます!」
ジャケットを羽織り、すぐに社長席の隣に設けられている席に向かう天野。
ゆかり(…ワンマン社長って感じだなー。とりあえず言われたことを熟そう」
20分ほどして自席に帰ってくる天野。
すでにホテル探しを終えたゆかりは次の業務を天野に指示を仰ごうとしたところ
社長「おい、天野ー。もっかい来てくれるか?安西、お前もや。」
天野「はい、すぐに行きます」
何もすることがなく手持無沙汰になるゆかり。
社長に呼び出された社員たちは、業務の手を止めて社長のもとへすぐ向かう。
まるで社長が何よりも第一優先と言わんばかりに。
ゆかり(これが不動産業会なのか…)
宿題を与えられるわけでもなく、放置状態にされてしまうゆかり。
ゆかりは以前新人教育を主に行っていた為、新入社員は手持無沙汰にならないよう暇なときに読む用のマニュアル等を必ず与えるようにしていたが…
ゆかり(超ワンマン社長だな…。社員が目を向けるのは下じゃなくて一番上の社長、か。
この先大丈夫かな…)
天野が自席に戻ってくる。
ゆかりは大きな瞳で天野を見つめ、自身の業務が終わったことと次の業務について確認する。
中野係長がそこに通りかかる。
中野「天野さん、ほんまに社長秘書みたいになってもうてるやん!堂本さん暇そうやし、俺がもらうで?」
天野「いや、それはいい。堂本さんには社長秘書の俺の秘書やってもらうから」
タバコを吸いに喫煙所に向かう天野と中野。
どうやら二人は社内でも仲が良い様子だ。
ゆかり(また業務終わっちゃった。天野主任、どっか行っちゃってるし、また私何したらいいんだろ?)
初出勤日の午前ですでに暗雲が立ち込めていた。