ゆかりと明
ゆかり「明、ごめん。離婚してほしい。」
明「……なんで?」
ゆかり「一緒にいると動悸がすごくて…眠れないくて…心も、体がきつい」
ゆかりに離婚を切り出された明。
ゆかりの肩と声はは震えている。
明「そっか…そうやな。その方がいいかもしれんな」
ゆかり「え…!?」
明の予想外の反応に目を丸くするゆかり。
明は嫉妬深い。
だから、ゆかりの予想としては、明は自分たちの離婚に対して決して頷かないと考えていた。
明「俺、子供できんし…ごめんな。俺、ゆかりには幸せになってほしい。いいお母さんになると思うから」
ゆかり「明……」
険悪だったゆかりと明。
明のゆかりの将来を思いやった答えに、明の愛情を感じるゆかり。
明は男性不妊のため、ほとんど子供を作れる可能性がなかった。
離婚したくないわけではないが、明のコンプレックスを掘り返してしまったことと
あきらの真心に心が温かくなる。
ゆかり「明……」
明「でもちょっと別居して距離置いてみん?それから考えてみてもいいんちゃうかな。」
ゆかり「そうやね。分かった…」
次の日、仕事帰りに早速賃貸物件の見学にいくゆかり。
その3日後、賃貸契約をする。
その2日後、休日を利用して引っ越しを行う。
驚くほどスピーディーに引っ越し先が決まった。
明にLINEでメッセージを送る。
ゆかり(引っ越し終わったよ。ありがとう。)
明(そっか、よかった。)
ゆかり「今日は眠れるのかな…」
新しいベッドで眠りに落ちるゆかり。
2か月ぶりに熟睡が出来た。
いつも悪夢で起きるが、その夜は夢を見なかった。
翌日。
ゆかり「おはようございます!」
元気よく支店のメンバーに挨拶をする。
その日、ゆかりはふらふらしていた。
よく眠れたので元気な筈だが、ここ数か月の不眠と食欲不振・そして突然の引っ越しが終わって
ドッと疲れが出ていた。
その様子に支店メンバーの3人は気づかない。
10時をすぎ、店舗がオープンすると天野がやってくる。
何も言わないが、事務所に入る前にお辞儀をする天野。
ちらりとゆかりの様子を窺うと、いつものように丁寧にコートをハンガーに架ける。
ゆかり「天野主任、お疲れ様です!」
天野「お疲れ様です。」
天野がいつものように、ゆかりの隣の席に座る。
接客中の安西が事務所に戻ってくる。
安西「堂本さん、ホットコーヒー2つお願いします!」
ゆかり「承知しました!店長頼みますよ~!」
明るい笑顔で応諾するゆかり。
天野はゆかりの横顔をチラリと見て、まるで関心がないように持参した資料を確認し始める。
コーヒーを淹れようと、席を立とうとするゆかりだが
バランスを崩し、転倒しかけてしまうが、周りに気にされないように態勢を持ち直す。
事務所を出て、香り高い淹れたコーヒーを、接客席の若い夫婦に提供するゆかり。
ゆかり「お待たせいたしました。ホットコーヒーでございます。」
お客様の右側からコーヒーを差し出し、事務所に戻ると
天野の隣に着席する。
天野「堂本さん…」
天野はゆかりと目を合わせず、自分の指先をもじもじさせながら、その指先を見つめながら
ゆかりに言葉をかける。
ゆかりは不思議そうに天野の横顔を見つめる。
ゆかり「はい?お仕事ですか?」
ゆかりの方に体を向け、ゆかりの目を見つめる天野。
その目は少し寂しそうな色が映る。
天野「いや、そうじゃなくて。しんどかったら早退していいからですね。ほんまに、無理しないでください。」
天野の自分を労わる言葉と、自分の様子を見てくれていたことに
温かいものが溢れてくるゆかり。
大きく丸く見開いた目元には、涙が溢れかける。
ゆかり「あ……その…」
天野「大丈夫です!堂本さんの仕事は、今日は僕がやるんで。安心して休んでくださいね」
ゆかり「……ありがとうございます。じゃぁ、お言葉に甘えていいですか?」
早速身支度を整えて早退をする。
事務所を出る前、天野のお礼を伝える。
ゆかり「天野主任、本当にありがとうございます。店長接客してますけど、本当にいいですか?」
いつも無表情な天野がクシャッとして笑顔で応える。
天野「ハハッ、大丈夫。僕から言っとくんで。今日はゆっくり休んでください。」
ゆかり「ありがとうございます。」
天野の笑顔に顔と体が熱くなるのを感じる。
頬を赤らめている隠すように、頬に手を当てその場を去る。
事務所の近くの化粧室に飛び込むように入るゆかり。
ゆかり「だめだ。私は一人で…」
鏡に映った自分の目を見つめていると、涙が頬を伝う。
ただ、その涙は、温かかった。




