フラッシュバック
忘年会から帰宅するゆかり。
お酒の匂いを漂わせて帰ってくる妻にフラストレーションを隠せない明。
明がゆかりをぎろりと睨みつける。
その目は瞳孔が開いていて、瞬き一つしない。
明「お前、何酒飲んできてんねん!」
ゆかり「言ってたやん、今日忘年会だって」
明「そうか…」
ゆかり「もうあおり運転辞めてよね…」
明は無言でゆかりの胸倉を掴む。
その行動に驚き、何もできなくなるゆかり。
思考も動きも停止し、恐怖の目の色に変わった妻を見て我に返る明。
明「・・・・・・・・」
そのまま明は寝室に消えていった。
その場に自分で自分を抱きしめ、その場に座り込むゆかり。
ゆかり「フゥ・・・フゥ・・・」
震える肩を自分で宥める様に、両腕をさすり続けるゆかり。
心臓の鼓動が治まらない。
その夜は明と共に眠ることができなかった。
年末年始の休暇に入る。
明は冬場が繁忙期の為、なかなか冬期休暇が取れなかった。
内心、安心するゆかり。
一人でこたつに入り、テレビを見ながらぼーっとするゆかり。
明の行動。
そして天野の言動。
何度も何度も脳内再生される過去のトラウマ。
ゆかりは明とは2度目の結婚だが、1度目の結婚で元夫からDVを受けていた。
昨晩、明に胸倉を掴まれたことにより、その記憶がフラッシュバックしてしまっていた。
他人から見えない部分を何度も殴られる毎日。
酷いときは馬乗りになられ首を絞められた恐怖。
明は結婚前に、ゆかりから元旦那からDVを受けていた事を告白されていた…。
頭を抱え、必死で思い出さないようにするゆかり。
ゆかり(嫌な事思い出しちゃうな。外の空気でも吸ってこよう)
心を落ち着かせるため、近くのコンビニまで歩くことにした。
犬を散歩している人とすれ違う。
人懐っこそうな、シーズーという毛の長い犬種だ。
ふと天野のLINEのアイコンと同じ犬種だという事を思い出すゆかり。
脳内に天野の今までの言動が洪水のようにあふれ出す。
あまり目を合わさないが目が合うと顔を赤くして俯く仕草や
いつもモゴモゴと理由をつけて、いつも飲み会の際にゆかりの目の前の席を陣取る行動
そして権力を行使して、忘年会でゆかりの目の前の席やゆかりの両サイドの席を指定する意味
ゆかり以外の人間が取り分けた料理を食べない理由
ゆかり(いや、気のせいでしょ。天野主任みたいな完璧なくらいかっこいい人が結婚してる私になんて…)
考えないように、深呼吸でその記憶を洗い流していく。
ゆかり(そうそう、天野主任は仕事の人なんだから…違う違う)
ただ、天野のその言動は、少しゆかりの心を少し暖かくしてくれた。
そんな淡い動揺を打ち消すように何度も何度も、入社当初の冷たい天野を思い返す。
それでも、天野のクシャッと笑顔が思い浮かべてしまうゆかりだった。
夜遅くに帰ってくる明。
ガチャッ。
ドアの音がするとビクッと肩を震わすゆかり。
無言でご飯を口に運ぶ明。
ゆかりは食べ物に箸をつける様子がない。
動悸が、治まらない……
たまらずゆかりは席を立ち、別室へ向かう。
明といると過去の恐怖を思い出してしまう。
食事だけでなく、眠りに落ちることも難しくなってしまっている。
3年という積み上げてきた【信頼関係】に亀裂が生じていた。




