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相思相愛未遂  作者: ゆー
2/12

腹黒王子との出会い

大阪のオフィス街、淀屋橋駅を降りるゆかり。


「やばい、面接まであと15分!遅刻しちゃう!」


大阪に住んで10年だが、淀屋橋エリアは殆ど訪れたことがない彼女は

面接予定の会社までの道のりをスマートフォンの地図アプリを利用して確認する。


着慣れしていないスーツとパンプスに格闘しながら

足の痛みを我慢しながら面接予定の会社へと足を運ぶ。

そう、ゆかりは転職活動中。

結婚4年目だったが、30歳を迎える前に子供が欲しいと思い

妊活に集中するために7年ほど勤めた会社を退職した。

しかし、男性不妊という原因が判明したため、彼女は自分のキャリアを目指すことを決意した。



頭上がポツポツと、落ちてくる雨粒。

彼女はその雨の生暖かさとじめじめした空気を吸い込みながらも、深く息を吐く。


ゆかり「転職エージェントさんには、練習と思って本命じゃない会社から受けなさいって言われたけど、それもめちゃくちゃ緊張する…!」


今回受ける会社は未経験の不動業界の中小企業だ。

業界未経験ということと、企業規模から本命から外れているが職種が彼女の希望とマッチングしていた為練習がてら面接を受けることになった。

なんとか迷わず面接予定の会社が入っているビルの前に到着した。

彼女はビルの前で自身の履歴書、志望動機を一通り頭の中で反芻する。


ゆかり「よし、いくか!」


エレベーターのボタンを押し3Fに上がると、年配の女性が対応し、会議室に通される。


女性社員「どうぞ、こちらに座ってお待ちください」


座らずに自身の席の隣で、手を組み、面接官を待ち構えるゆかり。


----コンコン


ドアがノックされ、面接官が入ってくる。


天野「あ、どうも。僕が面接を担当する天野です、よろしくお願いします。どうぞ座っていただいて構いませんよ。」


天野はグレーに薄いストライブが入ったスーツを着用し、季節柄ノーネクタイで、ワイシャツのボタンを一つ開けている。

端正な顔立ちに浅く焼けた肌、とてもきれいな歯並びをした男性社員だ。

見た目からすると年齢は20代後半くらいだろうか。

細身のスーツをパリッと着こなした彼は所作も美しい。

天野の漂わせる香りとオーラにピリッとした空気が漂うと同時に、会議室の雰囲気が天野の支配する空間のように感じられた。

その様は王子様というより、皇帝の荘厳さだった。


両手を添えられ、丁寧に手渡された名刺には

天野結人 YutoAmano 主任

と書かれていた。


ゆかり(えっ!この人?こんな若いイケメンが面接官?やめてよ、めっちゃ緊張する…)



天野「えーと、堂本さん、ですね。」


ゆかり「はい、堂本ゆかりです。本日はお時間をいただきましてありがとうございます。よろしくお願いいたします。」


ゆかりの頭の中で転職エージェントとの面接練習が思い返される。

きっとこの後、ゆかり自身の経歴についての質問が飛んでくるはずだ。

卒業年や退職理由などについて頭の中で整理をする。



天野「うーん、堂本さん。不動産会社で働いたことないですよね?我々の会社はマンションの販売代理事業を軸に営業しておりまして。販売代理ってわかります?」


関西弁なまりで話す天野。彼の容姿と彼の言葉のイントネーションにギャップを感じながらも

返答するゆかり。


ゆかり「申し訳ありません、具体的には理解しておりません。」


紙とペンを手に取る天野。

何やら図を描き始める。


天野「マンションを建設するディベロッパーという会社があって、僕らはその会社から販売する営業行為を委託されるというのが我々の主なビジネスモデルです。」


図を描きながら丁寧に説明していく天野。

面接予定の企業の事を理解しないまま面接に訪れたのにも関わらず、丁寧に説明してくれる天野に目を丸くするゆかり。


天野「これが我々のメインの事業ですが、今回中古仲介にリフォームを載せて販売する事業を開始する予定です。堂本さんにはそこの営業事務として活躍していただきたいと思っています。」



ゆかり「そうだったんですね。熟知しておらず、申し訳ございません。わかりやすくご説明いただきありがとうございます。」


天野「コンサルが入っててね、僕らは指導を受けてるんですけど。Aコンサル会社ってご存じですか?」


ゆかり「いえ、存じ上げないです」



身振り手振りをつかって、説明していく天野。

クールな容姿からは想像できない丁寧さに、ただただ驚くゆかり。



天野「僕らの会社はまだ若いです。新規事業と並行して、今、会社の人事制度の見直しも行っています。そこも含めて全部僕が管理してるんですよ」


ゆかり「それは、しんどいですね…」



話の内容から、会社の管理部分の再構築をすべて天野に一任されている内容が感じ取れたゆかり。

ゆかりの頭の中で、過去の上司の姿がフラッシュバックする。

組織の重圧を一身に背負い、体調を崩し入院してしまった過去の上司たち。

組織全体の仕組み作りがうまくいかないと、一人の人間に重圧がかかり、その人間は体調を崩してしまうことをゆかりは知っていた。

彼女自身も同じような経験をしていたこともあり、ゆかりの目には天野がいつか倒れてしまう未来が容易に予想できた。

ただ、会社をこれから作り上げていけることは、これからキャリアアップを目指す彼女にはとても魅力的、話に思えた。


ゆかりの様子を見て、ゆかりの目を射るように鋭く見つめた後、天野は俯き、ふっと笑う。


天野「僕、36歳なんですけどね、まだ独身なんですよ。この年で一度も結婚したことないんですよ。」


自虐的に自身の事を笑う天野。

なんでこんな事を話すんだろうと耳を疑うゆかり。


天野「僕ね、しんどいんですよ…だから最初は僕のサポート役として働いてほしいと思っています。もちろん教育も最初は僕がやりますんで。そこは安心して下さい。」


彼は肩をすくめ、天野の纏うオーラが少し弱まったように感じられた。

弱弱しい部分をさらけ出す天野の様子に、何かが心に響くゆかり。


ゆかり「はい…」



天野「他にも面接予定の企業はありますか?」



ゆかり「はい、あと2社ほど受ける予定です。ただ、会社を作り上げていく事にはとても興味があります。」


ゆかりは目を輝かせて天野に答える。

天野はその目を見て


天野「はは。なら、僕らはあなたの事を喜んで迎え入れたい。ぜひ前向きに検討いただければと思います。」



一次面接が終了し、二次面接と三次面接の内容を説明する天野。



天野「二次面接は女性の担当者とこれから働く予定の支店長と話してもらおうと思います。三次面接は社長と話してもらいますが、堂本さんが良ければ僕はあなたの採用を社長に話しておきますんで。フランクに話してもらって大丈夫です。」



ほぼ採用を確約される内容の話で驚くゆかり。

面接を終え、帰路に就く。


後、面接する予定の会社は2社。

1社は会計ソフトの企業。もう1社は未経験だが大手の不動産会社だ。


後日面接が進み、全社から採用の連絡を受けるゆかり。


ゆかり(全部受かってしまった…。どうしよう)


順当に考えると、大手企業かもしくは経験のある会計ソフトの会社だが、どうしても天野の言葉が心にひっかかるゆかり。


天野「僕、しんどいんですよ…」


ゆかり「・・・・・・・」



ゆかり(私を必要としているのは…)



スマートフォンを手に取り、転職エージェントに連絡するゆかり。



ゆかり「私、天野さんの会社に決めます。一緒に会社を作っていきたいんです。」



ゆかりの心の中には、今にも倒れそうな天野を助けたいという気持ちがあった。





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