ハロウィンの足音
今日は加瀬のお客様の物件見学の日。
次こそは、という意気込みとプレッシャーでモチベーションを上げているように見えるも、内実が伴っていないように見える。
その間に、川田と安西店長は契約を積み重ねていた。
安西店長は川田を連れて、金消という銀行への手続きについて教える為に、2人で銀行に向かうため朝から不在だった。
加瀬「では、行ってきます。堂本さん」
ゆかり「いってらっしゃい。次こそは決めてくださいよ。じゃないと天野主任も言ってましたけど、ポンコツ係長ですよ!」
加瀬「おお、言うねぇ。このぉー」
と言ってゆかりのおでこにデコピンをしてくる加瀬。
ゆかり(え…何この人きもい…)
ゆかり「はよ決めてきてもらっていいですか…」
加瀬「うん、いってきます。頑張ってくるね」
加瀬の背中を見送りため息を吐くゆかり。
ゆかり(なんか最近褒めすぎたからなのか、加瀬係長の距離感が近い気がする…)
平日の為、予約も少なく飛び込みのお客様もほとんどなかったため
ゆかりはホットコーヒーを淹れる。
マグカップに黒い液体が光る。
鼻をくすぐる香ばしい香りが、ゆかりの負の感情を和らげる。
季節は夏から秋に変わっていた。
来客も少ないため、ゆかりは一人で100均で購入したインテリア雑貨を飾り付け始める。
店内にはオレンジ色のカボチャのオブジェや、カラフルなお化けのオーナメントなどの
ポップな飾りを店内の観葉植物やカウンター、客先などに飾り付けていく。
そして、お菓子がたくさん詰められたハロウィンデザインのバケツをセッティングしていく。
ゆかり(こういうのやったことないからな。私のセンス大丈夫かな(笑)ついでにインスタにもアップしておこう)
ゆかりの仕事は、店内のインテリア管理・各種SNSの更新や管理の広報的な役割
各営業の物件カードや営業資料の作成、また電話での呼び込みも含め
営業の数字管理、そして経費や売り上げ、採算の管理なども行っていた。
店内の飾りつけを終えるタイミングで、金消契約を終えた安西店長と川田が店舗に帰ってくる。
安西&川田「お疲れ様です!金消契約終わりました!」
ゆかり「お疲れ様でございました。ようやくひと段落着きましたね。もうすぐ新規のお客様がいらっしゃるので、安西店長ご準備お願いします!」
安西「ちょっと一服させてください(笑)すぐに準備しますので(笑)」
周りをキョロキョロと見渡す安西。
安西「ハロウィンの飾りつけ、いいですね。お客様も喜ぶと思います!」
ゆかり「あはは、こういうの感性なくて。うれしいです。自信つきます!」
来客予定10分前になり、受付カウンターでお客様を待つゆかり。
玄関の自動ドアが開くがそこに現れたのは主任の天野だった。
トレンチコートの襟を立て、スリーピースのスーツにストライプのシャツ、そしてピンク色のネクタイを着こなしていて、今日も完璧ともいえるコーディネートだ。
天野「お疲れさんです。今朝連絡した通り、面接で応接室使わせてもらいますんで。」
ゆかり「天野主任お疲れ様です。承知してます!」
天野が事務所の中に消えるとともに、来客予定だったお客様が来店される。
ゆかり「いらっしゃいませ。お待ちしておりました!どうぞこちらへ」
入社して2か月半。
ゆかりの所作や振る舞いも堂々としてお客様を席へ誘導する。
安西が一服を終え戻ってくる様を横目に確認しながら、お客様からドリンクオーダーを受けるゆかり。
ゆかり(うん、時間ぴったり。完璧)
事務所にドリンクを作成しに帰るゆかり。
ドリンクをお客様に提供すると、安西店長に接客をバトンタッチするゆかり。
チームワークというか阿吽の呼吸というものにあたるのか
営業との息の合わせ方も理解してきたゆかり。
事務所に戻り自分のデスクに戻るゆかり。
ゆかりの隣の席は本来川田の席だが、やはり天野がゆかりの隣の席に君臨している。
ゆかり「天野主任、今日は工務担当の面接なんですね。何人も面接に来てますけど、どんな人を求めてるんですか?」
天野「工ッ!」
天野の発言にくすっと笑う、事務所内にいたゆかりと川田。
ゆかり「えーーー?ハッタリ…ですか?そんなギャンブラーみたいな(笑)」
天野「リフォームは乗せてなんぼの世界なんで(笑)リフォームの知識よりハッタリできる度胸があるかが大事です(笑)」
今日面接予定のエントリーシート見つめる天野。
天野「今日は70手前のじいさんですわ(笑)」
天野とおじいさんが並んで歩く様子を思い浮かべると笑いがこみあげてくるゆかり。
ゆかり「ふふっ。なんだかかわいい2ショットですね(笑)」
目を丸くし、自分の指先を見つめながら片方の手で頭を掻く天野だった。
(ランチタイム)
ゆかりはいつも通り、自分で作ってきたお弁当をレンジで温める。
その間に社員全員にチョコレートを配る。
独身の天野と川田はゆかりにバレないようにちらりとお弁当を見る。
その二人の表情は少し羨ましそうな、ないものをねだる様な目でそのお弁当を見つめる独身の二人。
安西店長と加瀬係長はいつも通り奥さんが作ってきた愛妻弁当を広げている。
プルルルル…
本社から電話だ。
ゆかり「お疲れ様です。堂本です。」
高木「堂本さん、お疲れ様。社員旅行の件について確認したいねんけど、今時間いいかな?」
本社の総務のお局的存在の高木からゆかりへの電話だ。
店舗のオープン当初に色々あったため、ゆかりは高木へ苦手意識がある。
高木「堂本さん、社員旅行不参加って回答もらってたけど、ほんまに行かれへんのかな??」
ゆかり「申し訳ありません。主人の許可がおりませんでして…」
夫の明を思い浮かべるゆかり。
ゆかりの配偶者である明はかなり嫉妬深く、独占欲が強い。
ゆかりが参加する飲み会には必ず迎えに来るし、ゆかりが友達と遊びに行く約束をするとそこに明も参加するほどの溺愛ぶりだ。
最近はゆかりの残業が多く、明の機嫌が毎日非常に悪いのが気がかりで仕方ないゆかり。
聞き耳を立てている安西店長以外の3人の男性社員たち。
高木「そうなん、旦那さん厳しいんやね。もし行けそうなら11/1までに教えてね。」
ゆかり「はい、わかりました。多分許可出ないと思うんですけど、話し合ってみますね」
高木「店舗もちょっとずつ売り上げ出てきてるみたいやね。どうなるかと思ってたけど、そっちのみんなの事よろしくお願いしますね。しっかり営業のお尻たたいてや~。」
ゆかりは目を丸くする。
ゆかりにとって高木は意地悪なお局のイメージだったが、思ったよりも竹を割ったような性格というか
厳しい中に温かい優しさのある女性だということが、電話越しに伝わってくる。
結婚していない生涯独身の高木にとって、社歴の長い男性社員は自分の子供たちのようなものなんだろうだなというのが、その一言で伝わってくる。
ゆかり「はい!高木さんみたいにビシバシいきます!店舗全員協力して、頑張りますね!」
高木「頼むで!頑張って!お疲れ様。」
ゆかり「はい、ご連絡ありがとうございました。頑張りますね、お疲れ様です!」
受話器を置き、ため息をつくゆかり。
川田「堂本さんとこは、旦那さんが厳しいんですね」
ゆかり「あはは~年下でね。束縛もあるし嫉妬深くて…友達と遊び時とかもついてくるねん。前の仕事でもクライアントさんとの接待含む飲み会も中々許してくれなかってん…」
パスタをフォークで巻きながら、聞き耳を立てる天野。
ゆかり「一応話してみるけど…社員旅行は多分無理だな~。皆さんは楽しんできてくださいね!」
安西「もし旦那さんが許してくれるようなら、ぜひ一緒に行きましょう!」
仏の笑みで応える安西。
天野はパスタを食べ終え、ゆかりからもらったチョコレートを口に含みながら、無表情でどこかを射るように見つめていた。




