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相思相愛未遂  作者: ゆー
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ワンマン社長の思い

店舗オープンから2か月経過。


中々苦戦していた新店舗だったが、オープン当初よりも来客は遠のくが契約数は少しずつ伸びてきた。

ランチタイム。

ゆかりの隣には、川田がヘルシーなベジデリ弁当を頬張っている。

毎日牛丼を食べていた川田が、いつの間にか健康志向になりオフィス街のヘルシーで健康に気を使ったお弁当探しを楽しむほどの余裕を見せていた。


川田「堂本さん。ここのお弁当、本当におすすめなんですよ。一回食べてみてください。」



それもそのはず。

新店舗で一番成績を上げているのは川田だった。

1年目は全く契約を上げられなかった川田。

そんな川野が新店舗では売り上げと契約を上げていた。


次いで、店長の安西。

安西は契約数そのものは少ないが、1件の売り上げの重みが大きい契約を取ってくる。

かつ即日契約を決めるなど劇的な取り方をしていた。

柔道だと背負い投げ、ボクシングに例えるとTKO勝ちといったところか。



そんな安西店長と川田2名の大健闘にも関わらず、新店舗はやっと黒字化が見えてきたが

まだまだオープン時の初期費用を賄えるほどの売上を上げることができていなかった。

そのため、社長始め全社員からのバッシングは続いていた。

特にまだ1件も契約をとれていない川野係長は矢面に立たされていた。



今日は月に1回のTSコンサルティングとのミーティング。

このミーティングには、コンサル会社のアドバイザー3名と

新店舗のメンバーの安西店長・加瀬係長・川田と本社の天野主任、そして社長が参加する恒例かつ、姿勢を正さないといけないミーティングだ。


ちなみに、今回の新店舗の事業【仲介+リフォーム】はこのTSコンサルティング会社の営業担当が提案してきたもの。

どうやら他社では同じようなやり方でしっかり売り上げを上げているのに、社長が考えていたほど売り上げが上げられていない事が悩みだった。



社長「お疲れさん」



ダースベイダーのテーマ曲が流れてくるような、高圧的なオーラを携え

新店舗の自動ドアを開ける社長。


その隣には天野主任。


天野「お疲れ様です。」



まずは社長にコーヒーを淹れるゆかり。



社長「堂本さん、ありがとう。どうや?仕事は慣れましたか?」



男性社員には厳しい発言ばかりだが、女性社員には気遣いを見せる社長。



ゆかり「はい、皆さんがたくさん教えてくださるので、だいぶ慣れました!お気遣いありがとうございます。今は、やはり契約取れると自分の事ではないにしろ、チームとして嬉しいと感じます。とても楽しいです」


社長「そうですか。それは良かった。これからもあいつらの尻を叩いてください。」


ゆかり「はい、頑張ってみます(笑)」



ゆかりがTSコンサルティングのアドバイザー3人にそれぞれコーヒーを淹れ、お茶出しをする。

事務所内にはコーヒーの香りが漂っていた。



まずは各営業の数字の発表と掘り下げをしていく。

また成功事例の共有と、今抱えているお客様の進捗、全体的なテーマ投機や営業個人へのアドバイスをしてミーティングは終了という流れだった。


加瀬係長の進捗報告の際に社長の怒号が響き渡る。



社長「加瀬、お前まだ1件も契約あげてないんか?なんでや?原因はわかってんのか?」


加瀬「原因は様々でして、ローンアウト、他社比較検討、賃貸に住み続けるといった理由です。」


社長「はぁ?ローンアウト以外、お前の努力不足やないか?係長でまだ1件も取れてへんのか?」


加瀬「申し訳…ありません…」



俯き、声を震わせて謝罪を述べる加瀬。

息を吸うのも重い事務所内。

安西店長は一休さんのように両方のこめかみを人差し指で押さえているし、川田は社長を鋭い目で見つめている。

天野は、またか…といった慣れた表情で俯いている。



社長「お前らは…なにもんや…?」



ゆかり(えっ!?なにもん????????)



じわじわとゆかりの中に何かがこみあげてくる。

今一番持ってはいけない感情だ。


ゆかり(いや、なにもんって…なにもん?ここは笑っちゃいけないシーンだ…)



社長「おい、安西。答えろ。お前らはなにもんや?」



一休さんが挙動不審に口を開く。

恐らく、今一番答えが分からないのは店長の安西だ。



安西「なにもん…かというと、えっと…」



元々猫なで声のような優しい話し方の店長だが

怖気づいているのか、その拍子抜けたいつもより高い声にゆかりの堤防が崩れる。




ゆかり(笑うな…笑うな…私!)


安西「僕たちは…あの。新店舗の営業です!」



どもっている安西の様子と、ピントが大きくぼやけた回答に肩を震わせ始めるゆかり。

その様子を横目で見つめる天野。



ゆかり(あかん、堪えろ!私。)



ふと隣を見ると、天野がこちらを見て少し微笑んでいる。

その微笑みに肩の震えが止まるゆかり。

その代わり胸がほっこりと温かくなる。



社長「お前、ちゃうやろ!お前らはお客様に家という最高の住まいを提供して、お客様を幸せにする人間たちや!その役割をよく考えろ!ええな!」



その日社長は予定がそのままお怒りモードで退店した。



その日の帰り道。



ゆかりは社長と安西のやり取りに笑ってしまったことを反省しながら社長の思いを考えていた。

ゆかりに見える社長とは。社長が欲しているものとは。社長の言動の要因とは。

答えはただ一つだった。


”この会社を任せられる人材が育ってほしい”


という願いその一つなんだと感じとっていた。

社長の言動は確かに厳しいし、令和という時代に逆らってハラスメント発言満載だ。

だが、厳しさの裏には愛がある。

なぜなら社長は手を離さないし、諦めない。

中々芽が出ない社員たち。

ゆかりの目から見ても優しすぎるし、やはり頼りない。

それでもずっと一貫して、全社員に経営論や人間学の研修を行っているし、そこに対する費用を惜しまないのだ。

中堅社員に限定しないのは、社長の【全社員に可能性を】という考えがあるから。

社長は一刻を争うほど時間がない。

ミーティングや研修には出来るだけ時間を割き、社長自身が社員一人一人の考え方や意見、そして成長ぶりを見る為に参加しているのだろう。


ゆかりはそう感じていた。

だが、社員の中にそこを理解して研修を受けているものがいるのかは…危うかった。

そしてゆかりの目には、この会社の社員たちは

”厳しすぎる社長という鳥かごの中でしか飛び方を知らない鳥たち”

のように見えていた。



ゆかり「ふぅ。社長ももっと褒めてあげたら、皆もっと伸びると思うんだけどな。私が褒めるか。」



さて、私の出来ることはなんだろうと頭で考えるゆかり。

まずは社長からの叱責を受けて自信を失っている加瀬係長の姿が思い浮かんだ。



ゆかり(0の人が伸びるのが一番早いんだよね。センター試験と同じ。苦手科目を克服するのが一番点数が伸びるのと同じ。まずは加瀬係長から、モチベーション上げていこう)



電車の中でゆかりの手帳の中に、新店舗を大幅に黒字化に導いていく地図が描かれていた。


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