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失われたことのある絆

たぶん、これが今年の締めくくりの章です。

最後まで読んでもらえたら嬉しいです。

「生徒会に入らないかって話、どういう意味ですか?」


 アムラは、別にかゆくもない頭を掻いた。視線はどこか宙を彷徨い、少し困惑しているようで、同時にどうでもよさそうにも見える。


 自分にとって重要でもない話を考えるのが、単純に面倒だったのかもしれない。


 その前に立っていたのは、赤縁の眼鏡をかけた、短く整えられた髪の少女だった。

 肩で息をしているところを見ると、どうやら別の階から小走りで追いかけてきたらしい。


 今もなお、息を整えながら必死に威厳を保とうとしているが――残念ながら、完全に失敗している。


 今年の生徒会の書記……かな。

 そう思いながらも、内心では自分でも確信が持てていなかった。


 表情は真剣そのもの。鼻に掛けた眼鏡と、手に持ったクリップボードがそれを物語っている。


 たぶん、予想はほぼ当たりだな……。


 アムラは小さく息を吐いた。


「ごめん。今の状況だと説明しにくくて」


 少女は深く頭を下げた。


「い、いえ! 謝らなくて大丈夫です。自己紹介だけで結構です!」


 アムラは軽く受け流す。


「ああ、そうだね。急いでて忘れてた」


 彼女は一度呼吸を整えた。


「神野幸子です。二年B組。今年度の生徒会書記を務めています」


 ……的中。

 アムラは心の中でそう呟いた。


「じゃあ……幸子先輩が言いたかったこと、もう一度説明してもらえますか?」


アムラは真剣な眼差しで彼女を見つめた。


「わかりました」

サチコは静かに頷く。

「今年度の生徒会長は、ナガムラ兄妹に生徒会へ入ってほしいと考えています。それが要件です」


アムラは黙り込んだ。


自分だけなら、まだ受け入れられる。

だが、妹まで一緒とは。


……たぶん、去年は人手が足りなかったのだろう。


アムラはそう前向きに考えることにして、そのまま帰路についた。


***


体育倉庫での一件から数日が経った。

アムラは、タガワ兄妹から正式に謝罪を受けていた。

彼は校門をくぐりながら、その時のやり取りを思い返す。


「申し訳ありませんでした」


二人は同時に頭を下げた。


アムラは、少し気の毒そうに微笑むだけだった。


まあ……だいたい、あんな感じの謝り方だった。


アムラは教室に入り、友人たちと話しているノリコの姿を見つけた。

邪魔をするつもりはなく、その横を通り過ぎて自分の席に座る。


どうやらノリコはアムラの存在に気づいたらしく、こちらを振り向いた。


「おはよう、アムくん」

ノリコは明るい声で挨拶する。


「おはよう、ノリコ」


その返事を聞いた瞬間、ノリコの表情がむっと曇った。

覇気のない声が気に入らなかったのだろう。

彼女はそのまま、再び友人たちの方へと背を向けた。


チャイムが鳴り、授業開始を告げる。

生徒たちは次々と教室に入り、教師の到着に備えた。


アオイが教室に入ってくる。


「おはようございます、皆さん」


「おはようございます!」

生徒たちが声を揃えて挨拶する。


「今日は皆さんにお知らせがあります。新入生向けの年中行事である学園祭が、来週開催されます」


その言葉を聞いた途端、教室は一気にざわついた。


この学校には、**新歓祭しんかんさいと呼ばれる年に一度の伝統行事がある。

新入生を歓迎するための祭りで、この期間中、一年生の各クラスは文化祭ぶんかさい**を行う。

教室を使って、娯楽施設やカフェ、さまざまな出店を開くのが恒例だ。


祭りは二日間にわたって開催される。

初日は上級生と教師のみが入場可能で、二日目は招待客向けに開放される。

特に、この学校の卒業生が多く訪れる日でもある。


「静かにしてください。担任である私も、この行事には参加します。テーマについては、これから話し合いましょう。いいですね?」


「はい」

生徒たちは一斉に答えた。


「では、クラスのテーマを決めましょう。例年、カフェを選ぶクラスが多いですが、正直あまりおすすめはしません。

もっと個性的な、少し変わったテーマでもいいと思います。

もしカフェにするなら、何か工夫を加えてみてください。例えば、遊べる要素を取り入れるなどですね。

それでは、話し合いを始めてください」


生徒たちはそれぞれ意見を出し合い、テーマについて話し始める。

そのとき、ノリコが手を挙げ、教室中の視線が一斉に彼女へと向けられた。


「それなら……コスプレカフェはどうでしょう?

でも、接客だけじゃなくて、写真が撮れたり、ちょっとしたミニゲームもできるようにして」


アオイは少し考え込む。


「なるほど……それも悪くありませんね。

カフェとアトラクションを組み合わせた形、というわけですか。

皆さん、この案でいかがですか?」


生徒たちは再び短く話し合う。


「賛成です」

そう言って、全員が声を揃えた。

「よし、これでテーマは決まりました。次は役割分担をします」


役割が次々と決まっていく中で、主人公らしく――いや、主人公のくせに、アムラは自分の席で黙ったままだった。

そこへ、ノリコが近づいてくる。


「アム、あんたは何担当?」


「たぶん……装飾だけ」


「へえ、そういう形での参加ってわけ?」

ノリコはからかうように言った。


グサッ。

見事に心に突き刺さる。


くそ、こいつ……。

アムラは心の中で悪態をつく。


ノリコは、そんなアムラの反応を見てくすりと笑った。


アムラはデザインの才能がある。

だから、こういう役割になるのも自然な流れだった。

人前に立つより、裏方で作業する方が性に合っている。


仕方ないだろ。これしかできないんだから。

アムラはそう自分に言い聞かせた。


***


放課後。

教室はほとんど空になり、数人の生徒だけが荷物を片付けていた。

夕暮れの光が窓から差し込み、教室の壁をオレンジ色に染めている。


アムラは席に座ったまま、次第に静かになっていく校庭を眺めていた。

手には、役割分担が書かれた紙を握っている。


「……このまま黙ってるくらいなら、さっさと帰るか」


そう呟き、アムラは机の横に置いてあった鞄を手に取って教室を出た。

廊下を歩くと、まだあちこちから生徒たちの話し声が聞こえてくる。


そのとき、職員室の扉が開いた。

ナオが、両腕いっぱいに書類を抱えて出てくる。


アムラは少し首を傾げた。

どうやらナオはアムラの存在に気づいておらず、前を見ずに歩いている。


「タガワ先――うわっ!?」


ドンッ!


……やわらかっ。

なにこれ……?

アムラの思考が一瞬止まる。


不自然な温もりと柔らかさに触れ、ようやく状況を理解したアムラは、青ざめた顔で目を開いた。


「……痛い」

ナオが小さく呟き、ほんの一瞬だけ頬を赤らめる。


「す、すみません……タガワ先輩」


ナオは短く息を吐いた。


「最悪」

感情のこもらない声だった。


彼女は散らばった書類を拾い集め、立ち上がる。

その視線が、だるそうで鋭く、アムラを射抜いた。


「……ほんと、タイミング悪いわね」


彼女は少しかがんで落ちた書類を拾い上げると、下からアムラをちらりと見上げた。

鋭いが、どこか余裕のある視線だった。


通りかかった生徒たちが、思わず足を緩める。

小さなひそひそ声が聞こえ始めたが、ナオはそれにすぐ気づいた。


「おい、あんたたち。詮索すんな」


軽い口調だったが、それだけで生徒たちは慌ててその場を離れていった。


「手伝います、先輩。大丈夫ですか?」


ナオはちらっとアムラを見る。


「どうせ生徒会に誘われてるんでしょ」

淡々とした声で言った。

「だったら、役に立つ後輩が一人くらいいてもいい」


その言葉が、妙に耳に残った。


こんな性格の女が、どうして生徒会副会長なんてやっているんだ。

そんな疑問が、一瞬アムラの頭をよぎる。

ナオがどんな経緯で生徒会に入ったのか、アムラにはまったく分からなかった。


アムラとナオは、それぞれ書類を抱えながら廊下を歩く。

アムラは手に持った紙に目を落とし、いったい何の書類なのかと首を傾げた。


聞こうとしたが、その気はすぐに引っ込める。


どうせ、返ってくる答えは決まっている。


――気になるなら、読め。


きっと、そう言われるだけだ。


しばらく歩いたところで、ナオが校庭に面した小さな建物の前で立ち止まった。

その脇には、園芸部の庭が広がっている。

丁寧に手入れされた花壇は美しく、周囲の空気まで落ち着いて感じられた。


理由は分からないが、その場所は不思議と静かで、そこにいるだけで心が和ぐ。


建物の前には、簡素な看板が掲げられている。


――「生徒会」。


質素な建物だった。


「入るよ」


アムラは頷き、ナオの後に続いて建物の中へ入った。


「ただいま……」


少し気だるそうな声で、ナオが言う。


「あ、おかえりなさい、ナオさん。書類はこちらで受け取りますね」


サチコはナオから書類を受け取り、枚数を確認するように視線を落とす。


「これだけですか? 去年の学園祭の資料、もっと多かったと思いますけど……」


「他の分は、ナガムラが持ってます」


「ナガムラ?」


アムラは一歩前に出て、自分が抱えていた書類を机の上に置いた。


「ああ、ナガムラさん。手伝ってくれてありがとうございます」


「いえ。タガワ先輩が書類を持っているところを、たまたま通りかかっただけです」


「たまたまじゃないでしょ」

ナオが淡々と口を挟む。

「廊下でぶつかっただけ」


「……まあ、わざとじゃないよね?」


「はいはい」

ナオは短く答え、ソファに腰を下ろしてスマホを取り出した。


サチコは小さく笑うだけだった。


「そういえば、ナガムラさん。あなたに会いたい人がいるんです。ちょうどここにいますし、このまま案内しますね」


「誰ですか?」


「生徒会長です」


アムラは首を傾げながら、サチコの後について奥の部屋へ向かった。

どうやら会議室らしい。


「Aちゃん、お客さんだよ」


Aちゃん……?

アムラは心の中で首をかしげる。


部屋の中では、一人の少女が上品なカップから紅茶を口にしていた。

彼女の前の机には、「生徒会長」と書かれたネームプレートが置かれている。


少女は、ゆっくりとカップを机に戻した。


アムラの目が見開かれる。


黒い髪は柔らかそうで、建物の外から入り込む風にわずかに揺れていた。

伏せがちな瞳は穏やかで、聡明さと美しさを同時に感じさせる。


――この少女。


かつて、永遠の友情の証だと言ってアンクレットをくれた少女。

ノリコが従兄のキタロウと付き合い始めたあとに知り合った少女。

そして、何の前触れもなく姿を消した少女。


「久しぶりだね、アムラ」

ああ……ついに、プロローグを含めて4章を書き終えることができました。

正直、自分がここまでちゃんと書き続けられるとは思っていませんでした。

翻訳や文章表現の部分で、少し分かりづらいところもあるかもしれません。でも、自分の頭の中にある物語を形にできたこと自体が、とても楽しかったです。


そして何より、もしこの物語を読んでくれる人がいるなら……それだけで本当に、本当に嬉しいです。


この章は、2025年最後の締めくくりになります。

というわけで――あけましておめでとうございます!


生活の都合で、なかなか更新できないこともあると思いますが、それでも書く気持ちは忘れずにいたいです。

どうか、これからも書き続けられますように。

そして読者のみなさんも、どうか元気でいてください。


よければ、感想や評価をコメントで教えてもらえると嬉しいです!


パドゥル・パドゥル!

それでは、2026年にまた会いましょう!!

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