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サンドウィッチ

作者: 大石次郎

田中さんとは1度だけまともに話した事があった。


昼は決まって1人で億劫そうに手作りのサンドウィッチを時間を掛けて食べている田中さんの机に、早々に弁当を食べ終わって軟式野球部の仲間とじゃれていたら私はぶつかってしまった。


周りも注目してしまった為、何だか後に引けなくなった。


「それ、いつも自分で作ってんの?」


「そう。お義父さんが昼、アトリエで食べるからついでに」


「へぇ」


「食べる?」


一切れ差し出された。


「いやっ、いいよ! 悪いからっ」


私は逃げるように仲間の所に去った。


その数日後、義理の父親と田中さんがアトリエで亡くなっているのが発見された。


大騒ぎになり、最初の頃は田中さんをモチーフに使われているとされる、


『露草の(そう)


という絵がマスコミに取り上げられたりもした。



年月が流れ、私は三流の貧乏野草学者になった。専門はツユクサ。


フィールドワークで注目しているF岳の森に来ていた。

この森の東に滝が有り、地形から年中冷たい水蒸気含んだ空気の流れが起こり、低温高湿度が保たれる特異な環境だった。


私は折り畳みの椅子を置き、腰に付けた熊避けの鈴を鳴らしながら座って一息ついた。


普段は一切食べないが買ってきたサンドウィッチを取り出して、水筒のホットコーヒーを飲みながら食べる。


空想を押し付ける、という意味では私も田中さんの義父も同じ暴力性を持っているんだろう。だが、


食事の後、目的地に着いた。歪な楕円形に森が開けている。

ツユクサの亜種の群生地だ。


一見、ただのツユクサだが、ピンセットで根元周りまで入り込んでいる苔を持ち上げると根が放射状に繁茂しているのがよくわかる。

低温で感染症リスクが低いのと、地衣類との競合に勝つ為の肥大的な生存戦略だった。


楕円形の群生地の縁にしゃがんでいた私は立ち上がって、明るい青のツユクサの原の向こうの、冷たく湿った風の向こうの、滝の音を聴こうとした。


自然は我々に関心を持っていない。

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