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第8話 事件は取調室で起きている


 痴漢の容疑で現行犯逮捕された唐田。

 手錠をかけられた手首と、下半身をタオルで隠されているというなんとも無様な姿で車に乗せられ、警視庁へ連行される。


 すぐに取り調べが行われたが、とりあえず服を着させろとごねた為、@ネットジャポン本店のシャワー室に放置されたままになってた所持品から服だけを返してやった。


「手錠をかけられたままで、どうやって服を着ろっていうんですか? これだから警察は……」


 逮捕されたというのに、唐田の態度はとても悪い。

 自分が悪いことをしたという認識がないのだ。


「痴漢くらいでなんだっていうんですか? ここまでする必要あります? それに、刑事さん、あんたも男ならわかるだろう? 体を透明化できる異能に目覚めたんだ。こんな異能を持っていたら、男なら誰だっていたずらしたくなるでしょう? 小学生のスカートめくりと同じですよ」


(最低だな……こいつ)


 兜森は唐田を殴り飛ばしたいという衝動にかられたが、行動に写す前に鳥町がおもいっきり唐田のつま先を踏みつけた。

 取調室に付いているカメラからは、完全に死角となっている位置だ。


「いたっ!! 何するんだ、このアマぁぁ!!」

「嫌だなぁ、唐田さん。あなた今、もしかしてただの痴漢だけで捕まったと思ってます?」


 唐田は涙目になっていたが、鳥町は唐田の正面の椅子にどさっと座り、唐田股間あたりに右足を伸ばす。

 唐田は何が起きたかわからずに下を向くと、鳥町の足先から小型のタイマー付き爆弾が股間の上に乗せられていることに気づき、ぎょっとする。


「な、なんだこれは……!?」


 カチカチと音を立てている爆弾に驚いて、唐田は椅子から立ち上がろうとしたが、鳥町が仕掛けた爆弾に気づいていない兜森が肩を抑えつけているため、どうすることもできない。


「残念っスけど、あなたには爆破予告で威力業務妨害の罪もあるスよ。それに爆発のパニックで何人か本当に人が死ぬところでしたので、殺人未遂も追加される可能性があるっス……さっき採取した指紋と、メールが送信されたPC、それから、使用した公衆電話からもあなたの指紋と一致してるんス。言い逃れはできないっスよ?」

「いや、待て待て! 俺は、爆破予告をしただけで殺人未遂だなんて大げさな……」

「いいんすか? 早く本当のことを言わないと、タイマーが0になっちゃいますよ?」


(タイマー……?)


 鳥町のその発言で、兜森はやっと唐田がしきりに立ち上がろうとしている理由がわかった。

 股間の上に置かれた時限式爆弾に気がついた。

 それも強力な接着剤で服に貼り付けられてしまっている。

 一連の爆破予告で使用されたあの旧式の爆弾と同じもので、赤と青、どちらかの線を切れば止まる……この一年、散々見てきたあれだ。


「ま、待ってくれ! たたた確かに俺がやった!! 認める!! 認めるから!! そ、それにいいのか!? こんなことして、爆発したらあんたら警察だって被害が……」

「ああ、そこは大丈夫っス。こちらの刑事は、なんでも水に変えることができるっていう異能持ちなんスよ。爆破した破片があーしらに届く前に水に変えることが可能です。まぁ、あなたの股間は————爆発しちゃいますけど」

「いやいやいやいやいやいやいや!! そんな……ふざけるな!!」

「ふざけてませんよ。どうします? 全部洗いざらい吐いてくれるんなら、コレをお貸ししますけど?」


 鳥町は右手からニッパーを出して、これ見よがしに笑顔を浮かべる。


「だだ、だから、俺がやった!! 俺が、犯人だ!!」

「爆弾を仕掛けた理由は?」

「おおお俺はただ、腹が立っていただけだ!! クリスマスも正月も、花見とか、盆とか……みんな、俺には彼女がいないからって、そういう特別な日はいっつも俺に全部押し付けてくる。腹が立ったんだよ!! 俺がコンビニで被りたくもないサンタの帽子で、接客している間に、あいつらは————だ、だから、ちょっと、困らせてやろうと思って————!!」

「爆弾は自分で作ったんスか?」

「いや、それは……違う。ネットで、同じ気持ちのやつを見つけて……それで————そこで知り合った奴に出来上がった爆弾をもらった。俺は、文系だし、爆弾の作り方なんて知らないし。そいつの指示通りに設置して、タイマーを作動させただけだ!」

「そいつの名前は?」

()()()()って奴だ。本名も顔も知らない。指示はいつも非通知の電話かメールだったし、男だってことしか……でも、1日に大量の数を送ってくるんだ。多分あいつも異能者だと思う……」

「…………」


 セーテンという名前を聞いて、鳥町は押し黙った。

 タイマーの残り時間は2分を切っている。

 急に何も言わなくなった鳥町に、焦る唐田は顔面蒼白で、だらだらと冷や汗をかいている。


「ぜ、全部話したぞ!? なぁ、おい、頼む、頼むから、止めてくれ!!」

「…………」


 鳥町はやはり何も言わなかった。

 タイマーは残り40秒。


(一体どうしたんだ?)


 兜森はタイマーと鳥町の顔を交互に見たが、無表情で、何を考えているかさっぱりわからなかった。


 残り20秒。


(わからん! こいつ、何考えてるか全然わからん!!)


 何も言わないし、動かない鳥町の手から兜森はニッパーを奪い取ると、唐田を椅子ごと回転させて自分の方に向ける。


「えっ!? おい、なんだ急に、えっ!?」

「うるさい、今止めるから動くな!! てめーの股間本当に爆発するぞ!?」

「は、はい!!」


 残り15秒。


(くそ……!! こいつの腹で隠れてて見えなかったが、赤と青の2本だけじゃねぇ……黄色もあるじゃねーか!! この場合、切るべき色は————)


 残り8秒。


「は、早く切ってくれ!! おい!!」

「うるせええ、黙ってろ!!」


 残り2秒。


 兜森は三本全て、同時に切った。



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