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トリカブト〜警視庁刑事部《異能》犯罪対策室〜  作者: 星来香文子
Case8 異能者襲撃事件

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第64話 アイドル


 本堂が指定したのは、兜森が住んでいるマンションのすぐ近くにあるファミレスだった。

 いつ呼び出しがあるかわからないからという理由で、兜森が滅多に酒を飲まないのを知っている本堂の配慮だ。

 相手が飲まないのに、自分一人だけ飲むというのも気がひけるし、こちらからとある頼みがあって最初に声をかけているのだから、シラフの状態で話すのが礼儀だと思っている。


「————はぁ!? あの喜奥弁護士がお前の母親!?」

「バカ!! 声がでかい!!」


 兜森から驚愕の事実を聞いた本堂は思わず大きな声を出してしまった。

 他の客から一斉に何事かとこちらを見られて、慌てて声をひそめる。


「いやいやいや、マジで言ってんの? 喜奥弁護士っつったら、もう何年も真日本人教の法務部にいる最強弁護士だぜ? 瞬間記憶能力で、バシバシ裁判の矛盾を突いて……」


 本堂はとにかくこの手の話には詳しい。

 オカルトや都市伝説好きがこうじて、雑誌記者にまでなったのだから。

 それに、喜奥弁護士のことは中学生の時から知っている。

 界隈では有名な弁護士だ。


「信じられないのはわかる。俺だって、知らなかったし、多分、俺の父さんもこのことは知らないと思う。前に一度、聞いたことがあったんだ。でも、そんな弁護士は知らないって、そう言ってた」


 それと同時に、妙な話を聞いたことを思い出した。

 敬の所属していた弁護士事務所では、異能者が絡んでいる案件は一切受け付けなくなった————という話だ。

 代表弁護士の意向らしい。

 勝てないのに裁判をしても意味がないからだ。


「なるほど、それならおじさんが知らなくてもおかしくないか。いいぜ、調べてやるよ。今ちょうど真日本人教について記事を書こうと思ってたところなんだ。ついでに調べてやるよ」

「真日本人教について? 何か記事のネタになるようなことがあったのか?」

「ああ、それがさ……ほら、最近、やたら話題になってる高橋聖典って実業家知ってるか?」

「……————ああ、一応な」

「あいつがメディアで八咫烏や異能者を批判し始めたおかげで、真日本人教の教祖がキレてるって噂になってる。何人も人を使って、あいつの周辺を調べているらしい」


(教祖がキレてる……? セーテンは御船百合子の孫じゃなかったか……?)


「で、それより、次は俺の話だ」


 本堂は兜森にスマホの画面を向けた。


「この子! 紹介してくれないか?」


(……鳥町!?)


 そこに映っていたのは、ジャージ姿の鳥町璃子。

 動画サイトに投稿されていた、高級住宅立てこもり事件のニュースで報道のカメラに映り込んでいた部分を切り取ったスクショだった。


「この子、お前と一緒にいるって事は、警察関係者だろ?」

「いや、確かにそうだが……これのどこがいいんだよ? こいつ頭おかしいぞ?」

「似てるんだよ、俺の永遠の推し! 真珠しんじゅ様に!」

「シンジュ様? 誰だそれ?」

「だーかーら! 真珠様だよ!! 平成初期、俺らが生まれる前に一世風靡したアイドル!!」


 何度説明しても、アイドルに興味が全くない兜森は、本堂の推しの顔も名前も覚える気がなかった。

 中学の時から何度も耳にタコができるくらいに同じ話を繰り返し聞かされていたというのに……

 本堂は持ち歩いている当時の貴重なブロマイドのコピーを胸ポケットから出して、スマホの横に置いた。


「製薬会社の御曹司と結婚して、女優に転身。その後、病死した伝説のアイドル!」




 *



「————ふえっくしょんっ!!」


 盛大なくしゃみをして、鳥町はティッシュを何枚も引き抜いて鼻をかむ。


「大丈夫かい? 風邪かい?」

「いやいや、きっと誰かがあーしの噂してるんスよ! ふゅやっくっしょん!!」

「あ、鳥町くん、くしゃみ二回は、悪口の方だよ」

「えー? あーし何もしてないんんすけど……へっくしゅっ!!」

「三回目は風邪だね」


 ぽいっと使い終わったティッシュをゴミ箱にシュートすると、今度はデスクの引き出しを開けた。

 中にはトリマチ薬品から出ている製品がずらり。

 風邪薬、頭痛薬、咳止め、のど飴、塗り薬、絆創膏、ハンドクリームや化粧水も全部トリマチ薬品の傘下の製品だ。

 これらは全て心配性な家政婦の美田園が用意したものである。


「そういえば、昨日のあれが悪かったかもっスね……足壁建設で兜森さんのくっさい水浴びたあと、すぐにシャワー入れなかったんで……早退してもいいっスか?」

「なんだい? 熱でも上がってきたかい?」

「風邪だと思ったら急にめまいが……」

「あるよねぇ、そういうの。わかるよぉ……明日も辛いようなら連絡してねぇ、有休にしておくから」

「さーせん」


 鳥町はパパッと荷物をまとめると、警視庁を後にした。

 そして、いつもの駅のホームで電車を待っていると、鳥町の右斜め前に並んでいたいわゆる地雷系っぽい格好の若い女の子の様子がおかしいことに気がつく。

 何かに怯えるように震えている。


「……やめて…………助けて」


 とても小さな声だったが、そう聞こえた気がした。

 彼女は鳥町の前に立っていた男性に助けてほしいと視線を送っているようだったが、まるで気づいていない。

 耳にワイヤレスのイヤフォンで音楽を聴いているせいだ。


 彼女の身に何かが起きているのだろうと、鳥町は彼女の真後ろのに立っている黒いパーカーのフードを目深に被った男の方を見る。

 男の手が彼女の腰に伸びていて、鳥町は痴漢だと思った。

 ところが、よく見れば腰に触れているのは男の手でも、指でもない。

 先の尖った、銀色の刃物だった。


 鳥町はとっさに、右手で男の腕を掴んだ。


「なっ!! 何するんだ!?」

「ダメっスよぉ、お兄さん。こんなもの人に向けたら」


 左手で刃物に触れ、異次元に収納する。

 握っていた刃物が忽然と消え、動揺する男の腕をひねり上げてホームの床に押し倒し、後ろ手に手錠をかけた。


「痛い痛い痛い!! 離せ!!」

「痛いでしょう? 刃物で刺されたら、もっと痛いんスよ?」


 目の前で起こった見事な逮捕劇に、自然と拍手が沸き起こる。


「すごい!!」

「なになに、事件!?」


 注目されて、スマホで撮影までされている。

 少し照れながら、「はいはい、撮ってないで誰か駅員呼んで来てくださーい」と近くにいた高校生に言うと、そのときちょうど電車が到着する。


「おい……なんだ? この状況……!!」

「あ……」


 タイミングよくホームに降りて来たのは、警視庁に自分の車を取りに来た兜森だった。





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