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トリカブト〜警視庁刑事部《異能》犯罪対策室〜  作者: 星来香文子
Case6 幽霊屋敷死体遺棄事件

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第48話 友達だった


 慧留を保健室に連れて行くと、養護教諭は手当をしながら何があったのか聞いてきた。

 圭は素直に、龍平と虎太郎にやられたとはっきりそう告げる。


「ちょっと、ここで待っていてね。担任の先生とお話ししてくるから」


 手当が終わって、養護教諭が保健室から出て行くと、それまで一言も話さなかった慧留が口を開く。


「いいの? あの二人、友達だったんじゃないの?」

「友達だったよ。でも、そんなの昨日までだ。いや、待て。お前、いつからあいつらに殴られてた?」

「……一昨日」

「じゃぁ、その前までは友達だった」


 圭はかなり怒っていて、眉間にシワを寄せながら慧留に尋ねる。


「お前さ、あいつらになんかしたわけでもないんだろう? 生意気だとかなんとか言ってたけど……」

「うん、してないよ。ただ、普通に学校に来ただけ。そしたら、話があるから早く来いって言われて……」

「何もしてないのに、なんで黙って殴られてんだよ!! やり返せよ、男だろう!?」

「……殴られてたのは僕なのに、なんでそんなに君が怒ってるの?」

「俺は、ああいうの嫌いなの!! 喧嘩すんなら一対一だろ!! 卑怯じゃん!!」


 自分以上に怒っている圭を見て、慧留はつい笑ってしまう。

 前の学校でも、こういうことは何度かあった。

 髪の色が変だとか、目の色が変だとか、みんなと違うとか、そういう理由でいじめや仲間はずれにされたことはあったが、自分の代わりにここまで怒ってくれる圭が不思議で、何より嬉しかった。


「あはは……変なの」

「どこが!? 間違ってるのはあいつらだし、それにあれって、いじめだろ!? いじめは犯罪だって父ちゃんが言ってた!」

「お父さん?」

「俺の父ちゃん、弁護士なんだけど……」


 圭は、慧留に前に父・敬から聞いたとある依頼人の話をした。

 とある小学校で起きたいじめ。

 いじめの被害にあったその小学生は、死ねと命令されて屋上から飛び降りた。

 学校側はそれを隠蔽しようとしていたのだが、その両親が学校といじめを行なっていた児童、保護者と関係者全員を訴えたのだ。

 証拠集めをしていく中で、そのあまりの悲惨さを知った敬は、圭に父親として話した。


「卑怯者のすることだって、父ちゃんそう言ってた。絶対ダメだって、人と違うからとか、みんなと違うからって、いじめていいことになんて絶対ならない」


 圭は正義感のとても強い子供に育った。

 たくさん勉強して、将来は父親のように弁護士になるのだと心に決めている。

 将来の夢について熱く語る圭は、慧留の目にはとても輝いて見えて、思わず慧留は泣き出してしまう。


「えっ? な、なんで泣いてるんだよ!? 俺、何か変なこと言ったか!?」

「ごめん、そうじゃない。嬉しくて……ありがとう」


 慌てる圭。

 そこへ、養護教諭が担任教師を連れて戻って来てしまう。


(これじゃぁ、俺がいじめたと思われるじゃんか!)


 圭はそう心配したが、そんな疑いはかけられることはなかった。

 しかし、圭が龍平と虎太郎を殴ったことは問題となる。


 龍平の母親と、虎太郎の両親が殴られたのは息子の方だと言い出したのだ。

 今まで優しいおばさんだった母親たちが、圭には全く別人に見えて、少し怖かった。

 学校側が用意した双方の保護者を交えた話し合いの場で、一方的に罵詈雑言を浴びせられる。


「その二人は嘘をついている」

「うちの息子がいじめんてするわけがない」

「たとえ、うちの息子がいじめたとしても、いじめられる方に問題がある」

「うちの可愛い息子を殴るなんて、許せない」

「母親がいないから、こんな凶暴な子供に育ったんだ」


 慧留の母親はもともと気が弱いのか、このモンスターペアレント達に萎縮してしまい、敬は龍平と虎太郎の親が話終わるまで、一言も発さなかった。

 だが、すべて聞き終わると校舎に設置されていた防犯カメラの映像、そして、二人のキッズケータイの削除されていたメールの内容、慧留が殴られているところを目撃した同じクラスの女子たちの証言など、証拠を次々と提示。


「確かに、うちの圭が二人をぶん殴ったのは謝ります。暴力はいけません。けどねぇ……生意気だとか、そんな理由でふるった理不尽な暴力と、同じにはしないでいただきたい。うちの圭は、誰よりも正義感の強い子です。母親なんていなくても、理不尽な暴力にあっている友達を助けようとしてとった行動です。あなたたちのお子さんは、母親に育てられているのに、理不尽に暴力を振るう、いじめを行うような子供に育ったようですが、その点はどうお考えですか?」

「……そ、それは……っ」

「どうして、きちんと教えなかったんですか? いじめなんて、してはいけないと。龍平くんのお母さんも、離婚なされたとはいえ、つい最近までご両親二人でお育てになっていたのではないですか? それも、初めての子供でもなく、二人とも下の子じゃないですか。母親、父親になって何年たちますか? 私よりもずっと先輩ですよね? 教える機会はありませんでしたか? みんなと違う、普通ではない、生意気だ……? 普通と違って何がいけないんですか? みんなと違うことの何がいけないんですか?」


 ぐうの音も出ず、最終的に龍平と虎太郎は泣きながら謝罪。

 圭も、二人を殴ったことは謝罪をした。

 その後、二人とも学校に来づらくなり、いつの間にか別の学校に転校。

 友達だった二人とは疎遠になったが、代わりに助けた慧留とは距離が縮まる。



「圭くん、あのさ……君は、僕を助けてくれた。だからね、お礼に一つ教えてあげるよ」

「え? 何だ?」


 二人が転校した後、七月の放課後の帰り道。

 慧留は圭の右肩の方を指差しながら、こう言った。


「————圭くんのお母さん、生きてるよ」




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