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第4話 欠陥付きの異能


 兜森も一応、異能について少しは聞いている。

 異能には様々な種類があり、それと同時に、兜森と同じように妙な欠陥が付いている異能もある。

 自分がどんな異能に目覚めるかは、目覚めて見なければわからないらしい。

 真日本人教の教祖である御船百合子によれば、一番多い異能は『幽霊や妖怪が見える』という霊視。

 また、かなり低い確率ではあるが人によっては、幾つも異能を持っている者も存在する。


 御船百合子たちがメディアの前で異能が本物であることを示す以前の霊能力者や超能力者のほとんどはその異能に目覚めていない偽物であったが、中には本物も混ざっていた。

 しかし彼らは、自分の力が何であったのか正確に把握していなかったらしい。

 そこへ何もかも知り尽くした本物が現れたのだから、以前から異能に目覚めていた日本人、目覚めてはいないが、そういうものに憧れを抱いていた日本人、そして、一部の外国人も挙って真日本人教に入信した。

 自分が求めていたものがそこにあるのだから、自然な流れだ。


 日本警察は、急激に増えた異能者の扱いには困っていて、排除できるものでもなく、信仰の自由の配慮として一定の距離を置いてきた。

 彼らは別に、異能を持つというだけで犯罪を犯しているわけではない。

 しかし、二十五年も経てば、異能を使って詐欺を働いたり、盗みを働くものや、誰にも気付かれずに人を殺したり……と、犯罪が増えている。

 そこで立ち上げられたのが、《異能》犯罪対策室だ。


 警察官の中にも、異能を持つ者は存在する。

 しかし、ほとんどの場合自分が異能持ちであることは皆隠している。

 異能持ち=真日本人教の信者というレッテルが貼られてしまうことも多く、信仰は個人の自由だと主張しながらも、国は真日本人教の信者を差別していた。

 異能持ちというだけで、公務員の採用試験から外されることもあったほどだ。


 今年から新設された《異能》犯罪対策室には、主に警察官になった後に異能に目覚めた警官が集められる。

 室長や鳥町含む、計十人が選抜されたが、その内の五人の異能は霊視のみで、異能犯罪を取り締まるには、役に立たず重症を負い入院中。

『どんな隙間にも入れる異能』を持っていた薄井うすい巡査と『動物と話せる異能』を持つはた巡査部長は他の異能者を恐れて辞職。

『鳥のように空を飛べる異能』を持っていた相沢あいざわ巡査は、犯人を追跡中に殉職している。



「欠陥つきって……なんでこんなロクでもない欠陥なんスかね。マジ、引くっス」


 嫌そうに足で雑巾を踏みながら、鳥町は兜森の異能で変化した臭い水を拭きとると、そのまま雑巾を足で部屋の隅に追いやった。


「相沢さんも……そうだったし」

「相沢……?」

「ああ、空を飛ぶ異能を持ってた人っス。殉職しちゃいましたけど……あの人の異能も欠陥付きだったんスよ」

「どんな?」

「怖いと思った瞬間に、落ちるんス。犯人追いかけて、飛んでたんスけど————相沢さん、実は高所恐怖症だったみたいで……」


 異能に目覚めたとしても、それが本人の資質とあっているかどうか……という問題もある。

 殉職した相沢は、その典型的な例であった。


「特殊な異能に目覚めたとしても、使いこなせるかどうかは本人次第。まぁ、ほとんど運次第っスねぇ」

「それは、確かに……」


(俺だって、まさかこんな異能に目覚めるなんて思ってもいなかった)


 荷物なんてほとんどないが、兜森は千室長に言われた通り空いているデスクの上に私物が入った箱を置いて、並べていく。

 ノートPC、充電ケーブル、何年か前に配られたピーポくんのボールペン……


 その後ろで、プシューッとスプレーの音が聞こえて、音のした方を見ると、鳥町が部屋の隅に追いやっていた臭い水をたっぷり吸い込んだ雑巾に、ファブリーズをかけていた。


(……ファブリーズなんて、どこに置いてあった?)


 兜森は記憶力は割といい方だと自負しているが、鳥町が立っている位置から手が届く距離にスプレーボトルなんて置いてなかったような気がして、首をかしげる。

 足音も聞こえなかったし、その場から鳥町が移動したようには思えなかった。


(————もしかして、こいつの異能か? 歩かずにものを取れるとか? 実は、ゴム人間だとか)


 それは悪魔の実の能力者じゃないか————っと、ドレスローザ編の途中から全く読んでいないのをふと不意に思い出す兜森。

 漫画は独身寮に引っ越す前に、全てブックオフに売ってしまった。


(ここはなんだかよくわからんが……この部署暇そうだし、また最初から読み直すか……)


 兜森がいた警備部機動隊とは違って、なんだかとてもゆるい。

 おそらく、鳥町の席であろう斜め向かいのデスクには、カラフルな文房具が乱雑に置かれているし、漫画本も積まれている。

 全く同じ警視庁内とは思えない光景で、緊張感というものが感じられなかった。


「————ところで、今はどんな事件の調査を?」


 一通り私物を並べ終わり、兜森が尋ねると、老眼のせいかチュッパチャップスの包みがなかなか開けられずに苦戦しながら千室長が答える。


「ああ、それはもちろん、『全国連続爆破予告事件』だよ。君も巻き込まれた、あの事件————」





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