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トリカブト〜警視庁刑事部《異能》犯罪対策室〜  作者: 星来香文子
Case4 青春小学校女児連続失踪事件

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第32話 青春小学校女児連続失踪事件


 その事件が起きたのは、平成十九年六月二日土曜日。

 参観日前の週末。

 その日は、菜々と知世が璃子の家に遊びに来ていたのだが、璃子は聖典の()()について考えていたため、どこか上の空だった。


「————それでね、明後日の参観日はパパが来るんだよね。ママと違って、パパはほとんど家にいるから」

「なっちのパパは小説家さんなんだっけぇ?」

「うん、全然売れてないけどね。ともちんのパパはお仕事何してるの?」

「とものパパはねぇ、ケーキ屋さんだよ。ママもお店手伝ってる。でも、明後日はお店の定休日だから二人とも来てくれるって言ってた」

「そうなんだ。リコピンのパパとママは?」

「…………」

「リコピン? 聞いてる?」

「え!? あ、ごめん、何?」

「もう、リコピンのパパは何のお仕事してるの? こんなに大きなお家に住んでるってことは、超お金持ちでしょ?」

「ああ、えーと、パパは……えーと……」


(なんの仕事してるかなんて、聞いたことないや……)


 両親ともに仕事に忙しく、あまり家にいることはない。

 自分の両親の職業なんて、聞いたこともなかった。


「よくわかんないから、ばあやに聞いてみる」


 璃子は自分の部屋に二人を残して、両親の職業を聞きにキッチンで三時のおやつを調理中の美田園に聞きに階段を降りると、バニラオイルと蜂蜜の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 あと数分で、美田園お手製のマドレーヌが完成間近だった。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「あのね、ばあや……パパって、何の仕事してるの?」

「お仕事ですか?」

「うん。よく考えたら私、聞いたことないなって……思って」

「お祖父様の会社で専務を……————ああ、お祖父様が何の会社の社長かもご存知ないですよね?」

「うん、知らない。なんか、偉い人だってことしか……」

「製薬会社————わかりやすく言えば、お薬を作っている会社です。そこで働いてらっしゃいます」

「じゃぁ、薬屋さん?」

「まぁ、そういうことになりますね」

「なるほど……わかった」


 璃子が部屋に戻ると、菜々は慌ただしく荷物をまとめ始めている。


「ごめん、リコピン。私、先に帰るね」

「え? どうして? 今日は二人とも泊まるんじゃなかったの?」

「彼氏に呼び出されたの。本当はもう少し後からの予定だったんだけど……すぐ行かなきゃ」

「彼氏?」


 先月のゴールデンウィーク後、菜々に彼氏ができたと言う話は聞いていたが、彼氏とはどういうものかよくわかっていない璃子と知世は、特に仲のいい男の子の友達という認識。

 どこのクラスの男子だろうと、知世が相手が誰か尋ねても、菜々は秘密だと教えてはくれなかった。

 この日も、「彼氏に会いに行ったことは、親には内緒にして欲しい」と言われ、さらに「そうしたら彼氏が誰か教えてあげる」と言われたため、相手が気になっていた璃子と知世は、美田園に「なっちは家の用事で先に帰ることになった」と嘘をつくしかなかった。

 しかし、菜々はそれっきり消息不明となる。


 翌日、日曜日の昼には自宅に帰ってくるはずだった菜々が夕方になっても帰宅せず、心配した父親が持たせているキッズケータイに電話をかけたが何度かけても出ない。

 GPSで調べると、自宅から100㎞以上離れた大型商業施設の多目的トイレで発見される。

 当時、菜々の母親が管轄する警察署の副署長だったこともあり、身代金目的の誘拐の可能性も視野に入れていたが、月曜日になっても犯人からの連絡は一切なし。

 事件に巻き込まれた可能性があり、広く情報を募るために青春小学校では児童全員に担任教師から「何か知っていること、菜々と不審な人物が一緒にいるところを見たことがある人は名乗り出るように」という話があったが、誰も名乗り出なかった。

 菜々は不在のまま授業参観が行われ、放課後に行われた保護者会は通常より長く時間がかる。

 相変わらず多忙のため家にいない璃子の両親は授業参観にも保護者会にも参加することはなく、美田園が代理を務めていたが、璃子が恐れていたようなことは起こらなかった。

 クラスメイトが行方不明になったのだ。

 それどころではない。


 菜々と特に仲が良かった璃子、知世。

 そして、聖典を含む他のクラスメイト、一、二年生の時の同級生などにも刑事が話を聞いたが、菜々の彼氏に関する情報は何も出て来なかった。

 ただ、日頃彼女は「年上以外は無理」と言っていたため、少なくともその彼氏というのが四年生以上なのではないかということだった。

 失踪から一週間、二週間が過ぎても、菜々が学校へ戻って来る事はなく、三年三組の教壇の前の座席は空席のまま。


 会えなくてもどこかで生きていてほしいと、璃子はそう願うことしかできなかった。


 失踪から約二ヶ月後、この事件は『青春小学校女児()()失踪事件』として世間で騒がれることになる。

 夏休みが始まる少し前の七月末、また一人、同じ青春小学校四年生の女児が行方不明になったのだ。


 そんな時、密かに囁かれていたのが、「犯人は異能者ではないか」という噂だった————


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