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トリカブト〜警視庁刑事部《異能》犯罪対策室〜  作者: 星来香文子
Case2 インフルエンサー炎上焼死事件

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第14話 承認欲求モンスター


 鳥町は火の玉が飛んできた縁側の前にある客室を占拠。

 午前中には何もなかった十畳の和室の座卓の上が、ノートPC二台、タブレット一台、捜査一課から引き継いだ分厚い資料で埋め尽くされた。

 全て、鳥町が異能で異次元にしまい、持ち出したものだ。

 床の間に二本の日本刀と掛け軸が飾っていある趣のある和室が、鳥町の手にかかれば一瞬で物が散乱。


 岡根家の家政婦が用意してくれた昼食を食べ終わり、鳥町の様子を見にきた兜森と望子は唖然とする。

 たった数時間で、ここまで汚くなるとは誰が予想できるだろうか。

 しかも、警護中とはいえ、他人の家だ。


「お前、何やってんだよ。こんなに汚して……」

「何って、捜査に決まってるじゃないっスか」

「あとなんだ? そのTシャツ」

「え? ああ、だって、犯人はカメラでこの部屋を撮影してたんスよ? SPだけじゃなくて、警察官もいることが知られたら警戒されるかなぁ……っていうのと、あとは単純に楽なんで」

「いや、そうだとしても、そのTシャツはないだろう……」


 正面に大きく『働いたら負け』と書かれたTシャツ。

 口には棒だけになったチュッパチャップスをくわえたまま。


「————そんなことより、さっき室長から連絡あって、八人目の被害者の身元がわかったそうっス。ちなみに、見つかったのは八人目っスけど、燃えたのは動画の順番的に六人目と七人目の間っスね」


 鳥町は犯人が配信した映像、それと被害者の生前の顔写真をタブレットに表示させて、兜森に渡した。

 望子も画面を覗き込む。


「オンライン学習塾の経営者で、コメンテーターの大林さんっス。異能者に対する差別発言で炎上。それから、同性愛者の方々に対してもっスね。今の時代、こんなことしてたら即アウトっスよ。ところで、望子さん、今の内に寝ておいた方がいいっスよ?」

「え……?」

「このクソダサいことやってる承認欲求モンスター、あーしの予想だと、襲ってくるのは早くても今日の夕方以降っス。欠陥つきの異能なんで」



 *



 炎上炎上大炎上————っと、最後に言うのがお決まりになっている様子を配信しているのは、若い男性。

 それも、承認欲求モンスターというチャンネル名から分かる通り、自己顕示欲と間違った正義感で悪人を成敗し、いい気になっている。

 チャンネル登録者数の急激な増加、SNSのアカウントのフォロワーも伸び続けている。


「これは火の玉に触れたもののみを燃やすことができる異能っス。そして、過去の動画を観たんすけど、一日一回しか使えないっスね。おそらく、エネルギーチャージに二十時間以上必要っス」


 一人目の焼死は、0時ちょうどに配信がスタートし、0時5分頃に火の玉が開けられていた窓から放り込まれ、後頭部にあたり体だけが炎上。

 二人目は21時ちょうどから配信開始。4分後に開いていた窓から火の玉が……三人目は二日後の19時過ぎ、四人目は翌日の17時頃——……と、最低でも二十時間の開きがある。


「三人目、四人目の双子モデルは、同じタクシーに乗っていたっス。けど、お兄さんの方が急に燃えて死んで、弟の方はパニックを起こしてその場から逃げたっス。と言うことは、同時に二回はできない。何発も打てるものでもないってことっスよ」


 望子が火の玉を見たのは昨夜の20時過ぎ。

 つまり、次に火の玉が襲ってくるのは16時を過ぎてからだ。

 現在13時15分。

 ただでさえ、この数日間恐怖であまり眠れていなかったのに、昨夜のことがあってから望子は一切眠っていなかった。


「知ってます? 人間って、水さえあれば二、三週間は生きられるんス。でも、睡眠を取らなかった場合、五日もせずに死ぬんスよ。寝られるときに寝ておいた方が、いいっスよ?」


 鳥町のその言葉に、望子は張り詰めていた緊張が解け、泣き出してしまう。

 目の下できた酷いクマ。

 それを隠すためにいつもより厚く塗っていたファンデーションとアイラインが涙でぐしゃぐしゃに流れていく。


「ずっと……私、怖くて……っ」

「うん、だからこそ、今少しだけでも寝ましょう。あーしらが全力で守るっスから」


 泣き崩れた望子を、鳥町はそう言って抱きしめた。

 こうしてみると、やっぱり鳥町の方が年上のお姉さんなのだと思える。

 望子は炎上後、誹謗中傷を受けて心が壊れかけていた上、今回の炎上焼死体の事件を知り、ずっと不安だったのだ。

 視聴者やフォロワーを騙すようなことになってしまったことは、すでに謝罪しているし反省もしている。

 顔も名前も知らない誰かに、殺される筋合いはない。



「————老けて見えたのは、厚化粧のせいだったんだな」


 泣き疲れて眠ってしまった望子を、SPが抱きかかえて自室に運んで行くのを見ながら、兜森はそう呟いた。


「まだ二十一歳ですよ? 死ねとか、消えろとか、散々汚い言葉を浴びせられ続けていたんス。いくら大臣の娘だろうが、誹謗中傷されて、傷つかないわけないっス。大人でも無理っスよ。言葉も暴力なんス。実際、言葉で人を殺すことができる異能者もいますしね」


(こいつ、意外とちゃんと考えてるのか? 一応、こんなでも警部だしな……全然刑事には見えねーけど)


 鳥町がまともなことを言ったので、兜森は少し感心していたが、Tシャツの文字を見て、すぐにやっぱりやっぱりイカれてると思い直した。


「それより、もう一つ気になることがあって……」

「もう一つ……?」


 鳥町はタブレットに焼死体が見つかった場所に印がついた地図と周辺の防犯カメラの映像を表示する。


「映画館は別として、異能者が二人いる可能性があるんスよ。動画の画角からして、火の玉を生み出す異能者と、空を飛べる系の異能者がいるっス」




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