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web拍手お礼小話つめつめ(5)

*今回諸事情がありまして、エルディバルトさんのみ詰め込みました。


 竜公に引き合わされたのは十五を越えた頃。

滅多に尊顔を拝することのできぬ相手の前で控え、緊張に手のひらから汗が流れていた。


 存在すると言われながらその人のことを多く語ることは禁止されている。

竜公爵――上位貴族ですら滅多に会うことも無い相手。

陛下の頭上に冠を捧げる神官長。

「護衛など必要はありませんよ。あなたはあんな片田舎に来ることはない。聖都を護ることを勤めとなさい」

柔らかな声音に、そして何より驚いたのはその若さ。

自分よりも若い!

というかむしろ子供ではないか。

エルディバルトは驚愕したが、その人の前で生涯この方に仕えるのだと気持ちを新たにしたものだ。


「それがどうしてこうなったーっっ」

鉄格子をがっちり攫んで叫ぶ男の姿に、

「反響しますから叫ばないで下さいね」

アマリージェは反省文を書く為の用紙を運びながら軽やかに微笑んだ。


ばーい、地下石牢にて。


***


「ダサイですわ」

きっぱりと突きつけられた言葉に愕然とする。

ダサい、って……なんだ?

「エディさま、その鬚。鼻の下の鬚。最悪ですわぁ」

にっこりと花のような微笑で言われる。

それはアレか。この毎日手入れをかかしたことのない鬚のことか!

「あなたにはこのダンディさが判らぬのだ。いい男は鼻の下の鬚! 手入れだってかかしておらんぞっ」

「言葉使いまでわざわざおっさんっぽくしなくても、まだ若いのにぃ」

 おっさん!?

「仕方ないからルティが整えてあげますよぉ」

にっこりと微笑み、愛らしいメイド服を何故か着ている婚約者のルティアはナイフを閃かせた。

「あら……片方削るととっても御間抜け! 仕方ないからもう片方も削っちゃいましょうねっ」

「っっっ」

 毎日時間をかけて整えていた鬚がっっ。

私の苦労がっ。

ばっさりと、綺麗さっぱり……

「ほらぁ、こっちのほうが男前」

「おまえなんか嫌いだっ!」

「ルティアはエディさま大好きですよー」

現在の鬚は一月必死に死守している!


――エルディバルト、婚約者にも遊ばれるかわいそうなナマモノです。

あれ、魔法使いってかわいそうなキャラしかいないかも?


***


――ごめんなさい。

もうどうしてその文字を書いているのか判らない。

判っているのは、書かなければ自由は得られない、ということだ。

エルディバルトは痺れる手と頭でただその文字を書き連ね、かつんという音に顔をあげた。

「公! 竜公っ」

ぱっと喜びが広がる。

「冷えたりしませんか?」

やんわりと穏やかな笑みを浮かべるのはいつもの主だった。ほっと息をつき、エルディバルトは鉄の柵にしがみついて訴えた。

「公、私はなぜここにいるのでしょう。なぜここで反省文を書かなければならないのか」

「判らないですか?」

 穏やかな竜公は小首をかしげた。

「――まったく」

自分は何か悪いことをしただろうか? いいや、断じてない。主の機嫌を損ねることなど普通に考えても誰にもできない。何故なら、竜公は怒らない。


いつだって穏やかにそこに在るだけ。


もうずっと「ごめんなさい」ばかりを書いていると、自分が書いているのが「ごめんなさい」なのか「なさいごめん」なのか訳がわからなくなってくる。

ほとほと困り果てているエルディバルトに、竜公は穏やかに言った。

「じゃあ追加で一万字」

「……公? 公っっっ」


エルディバルト、まだまだ石牢の住人確定。


***


「ルティア様!」

ひょこりと顔を出した侍女服の女性の姿に、アマリージェは危うくお茶を頼みそうになってしまった。

ルティア――現在石牢の住人となっているエルディバルトの婚約者だ。

 ヘッドドレスのサイドに淡いブラウンの髪をかるく結って垂らした相手は、小さな唇を少しだけもちあげるようにして微笑み小首をかしげた。

「マリー、ひさしぶりですねー」

「その格好は何なのです?」

「エディ様ってば侍女の腰に触ったのよですよー」

「はぁ」

「私いがいの女性に触れた罰として、戒めの為に着てるのですー。可愛いでしょ?」

ふふっと笑う女性に、アマリージェは頭がくらくらとした。

「それで、あの今日は?」

「エディ様がお帰りにならないから、迎えに来たの。王宮に報告にも来てないの。どうせ大好きな竜公にべったりしているんでしょうけど」

 竜公を主人としているが、生憎とその主人は滅多にエルディバルトを近くに置いてはくれない。ここぞとばかりに張り付いているのだろうとオンナの勘を働かせたルティアだが、

「報告書でしたら兄が済ませてあります。エルディバルト様は、あの」

アマリージェは視線を逸らし、ココロの中でエルディバルトに謝った。

「――尊き人に命じられまして、現在は彼の方の屋敷地下の石牢です」

その言葉を聞いたルティアは声をあげた。


「まぁ!」

大きく見開かれた瞳には――完全に喜びが混じっていた。

アマリージェは心からエルディバルトに謝罪した。予想はついていた。

そして予想通りだった。


「エディ様ってば可愛い! 閉じ込められてるわっ、猛獣みたいっ」

「なんであなたがいるんだーっっ」


アマリージェの謝罪はエルディバルトに届いただろうか。

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