web拍手お礼小話つめつめ(4)
まぁうちの魔術師はもとから変態だからと開き直ってみた。ここにupするべきか迷った初キス話入り。何度もいいますがうちの魔術師は変態ですから!
頭の上、左斜めと右斜めに結わえた髪には赤いサテンのリボンが揺れていた。
子供の瞳は大きくりくりと良く動く。
子供の目が大きいのは、顔が小さいからだ。
人間の成長の過程で、瞳の大きさは変わることがない。だから子供とはそもそも目が大きく見えるのだ。
「――」
その唇が嬉しそうに名前を呼んでくれる。
誰も呼んでくれない。ただ一人だけに許した大事な名前。
無邪気な笑みで手のひらから差し出される飴や花を喜び、手を叩く。
子供は知らないのだ。
この自分が何者かなど少しも知らない。
だからそんな無邪気な笑顔を見せる。
誰も彼も、自分に対して敵意は無いと必死に取り繕うこわばった笑みばかりを向けてくる。
腫れ物に触るように、畏れ慄いて必死に視線を逸らす。
けれど目の前にあるのは純粋な、無邪気な笑み。
愛しい。愛しい――心に浮かぶ感情がもうどれだけ自分の中に存在しなかったものかも判らない。
膝に乗せて抱きしめて、不思議そうに小首をかしげる子供の唇に口唇で触れた。
一瞬驚いて暴れるが、その口の中に落としこまれた甘さに嬉しそうに微笑む。
「あまーい」
「ふふ、美味しいでしょう?」
一旦離した唇をまた合わせ、相手の口の中――蕩けた菓子を舌先で取り上げる。
「意地悪っ」
軽く上目遣いで睨んでくる少女に微笑み、もう一度唇を合わせる。
手放したくない。
このままずっと……その思いの反面、もう一つの思いが浮かぶ。
愛しいならば手放さなければ。
遠く離れた場所で、きっと幸せになれるように。
「君に魔法をかけよう」
「なぁに?」
「君の中からぼくを消してしまおう――」
「どうして?」
「そのほうがきっと君は幸せだから」
「判らないよ」
子供は眉を潜めて首をかしげる。
怒ったように唇を尖らせて、
「でも忘れないよ。だって大きくなったら御嫁さんにしてくれるのでしょ? きっと――のトコに行って、お嫁さんにしてもらうから!」
言い切る少女の瞳には強い決意。
どうして彼女は欲しい言葉を容易くくれるのだろう。
心までとろかしてしまう――君こそが魔法。
「そうだね。その時は御嫁さんになってね」
――でも、君がぼくのもとに来ることがないなら……その時は、完全に手放してあげる。
遠い場所で君の幸せを祈るよ。
君がぼくのもとに来てくれるなら、その時は――君はずっとぼくのもの。
「当初の謙虚さは欠片もありませんわよね!」
アマリージェは心底あきれ果てていた。
もう何度も聞かされている尊き人の「のろけ」にはうんざりだ。
しかも何が手放してあげるだ。離れている間の余計な手出しの数々をアマリージェはいやという程知っている。
――そもそも八つの子供相手に非道すぎる。
「絶対に当人にはいえません!」
***
「アマリージェ様っ」
半泣き状態のリドリーは自分よりも年下の姫君にすがりついた。
「あたしの初キスがぁぁ」
「ああ、思い出したのですか?」
「酷いんです。酷いんですよっ」
「斬新な記憶ですよね」
あっさりと言い切られ、リドリーはとまった。
「……ご存知ですか?」
「脳が腐るくらい聞かされましたから」
「……」
アマリージェはにっこりと微笑んだ。
「口移しでいただいたチョコレートは美味しかったですか?」
やーめーてぇぇぇぇっっっっ。
――なんか最近アマリージェ性格が悪いなぁ、とか思うんだが(笑)
***
パン屋の香りはやわらかい。
パン釜からの熱は暖かいし、焼きたてのパンの香りが優しくその場を充たしてくれる。
やさし……
「マイラおばさん」
「なんだい?」
「今度の新作パンは、何ですか?」
「前回クスリのパンを失敗したからね! 次こそは成功してみせるよ。
楽しみにしておくれ」
匂いがすでに薬品臭い……
ちらりと隣のアジス君を見ると、アジス君は青ざめつつもあたしを見上げ、そっと首を振った。
その顔は全てを諦めた男の顔。
「胃薬、飲め」
ぼそりとアジス君が呟いた言葉に、あたしは逃れられない運命を感じた。
……あとであの男にも差し入れてやろう。
「あら、どうなさったの?」
軽やかなガラスベルの音、ひょこりと現れた姫君の姿にアジス君は蒼白になった。
「アマリージェ様っ」
「おや、姫様。丁度いいところにいらっしゃった。新作のパンがそろそろ焼ける頃合だよ。できたてを食べてやっておくれ」
上機嫌なマイラおばさんの声に、アジス君はぶんぶんと首を振り、必死にアマリージェに帰れと示したが――顔を出した途端にそんな態度をとられたアマリージュは不敵に微笑んだ。
「まぁ、それは楽しみですわね」
アジス君の思いは挑発として受け取られ、彼の優しさは通じなかった……
アマリージェ毒殺未遂事件勃発。