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web拍手お礼小話つめつめ(3)

「ヘンタイだと思うんです」

リドリーの台詞にアマリージェは微笑んだ。

「それはタイヘンですね」

「……言葉遊びじゃないですよ? あの男のことです」

「あの方の悪口は掃いて捨てる程ありますけれどわたくしはいいませんよ?」

 アマリージェは微笑んで言う。

「たとえ有害だとか粗大ゴミだとかもういっそ消え去れとか思っておりましても、わたくしは言いませんわよ?」

 若干十四歳の愛らしい姫君を、リドリーはぎゅっと抱きしめた。

「マリー好き」

「まぁ、辞めて下さいませね?

あなたの好きは凶悪ですわ。実害がありすぎます」

「え?」

「呪われそうです」

……なんで? え? ひどくない?

「あなたへの悪口ではありませんわよ? わたくしが知るなかで一番狭量で人間が小さくてどうしようもなくうざい方のことですけれど、それが誰かはあえて申し上げません」

――もしかしてアマリージェ様、イイ性格の持ち主ですか?


***


「婚約?」

兄が示した絵姿を前に、アマリージェは冷ややかだった。

「そろそろマリーも婚約者がいていい頃だろう?」

「それでその方?」

「どうだろう?」

兄は嬉しそうだが、アマリージェは差し向けられた絵姿に冷めた眼差しを向けた。

「素敵な方だろう?」

「なんで写真ではありませんの?」

「――」

「最近では写真も流行ですのよ? そんな時代にわざわざ絵姿? どれくらい修正なさっているの?」

 辛らつに言う妹に、兄は引きつる。

「不可、ですわ」

「……うん、判った。でもね、家柄もいいし……悪い方ではないんだよ」

「家柄などどうでも良いのですよ!」

アマリージェは冷ややかに兄を見た。

「結婚相手に求めるのは顔よ。顔のよさ!!」

酷いことをきっぱりと言い切る。

「兄さまやあの方のような顔を身近で見ていたら美的感覚が狂うのよ!

わたくしが結婚できないとしたら、兄さまやあの方のせいですからね」

「――私のせいじゃないよ……それ」

「とりあえずこの方は却下。おとといきやがれですわよ」

 この金髪碧眼の王子様のような兄と、女性のように美しいあのぼけなす様を見て育ったアマリージェ様は――激しく面食い……です。


***


「気づいたことがあるのですよ、マリー」

あたしは焼きあがったビスケットを袋に詰めながら、何故か手伝ってくれているアマリージェに言った。

「尊き人がおかしなことでしたらわたくしも気づいてますわよ?」

「じゃ、なくて」

あたしは脱力してしまう。

「マリーって、実はもっと幼い口調でも喋りますよね?」

なんだかとても大人びて喋っているようなのだが、実は彼女はアレや兄君の前ではもう少し砕けた口調になる。

年相応というか、子供っぽいというか。

たとえば、アレに対して「もうすこし大人しくしたらどうなの!」とか「少しは黙ったら?」などと乱暴な口も利くのだ。平気で怒ったりしたこともある。

「そういうこともございます」

「どうしてあたしにはいつも敬語なんです?」

あたしが首をかしげるとアマリージェはそれはそれは綺麗な笑みを浮かべた。


「一番危険だからですわ」

「……はい?」

「あの方は自分に対して乱暴に話されても気になさらないけれど、あなたに対して乱暴な口をきいたり無礼な口を利いたら何をしでかすか知れませんもの。

物凄い気を使っておりますのよ、わたくし」

「えっ……と」

「ああ心配なさらないで、あなたのことを嫌いじゃありませんわよ? むしろ好きです」

「――いつもなんだかスイマセン」

「言葉の練習と思ってますから気になさらないで」


アマリージェ、リドリーに対してめちゃくちゃ気を使ってるようです。

ちなみに兄君はできるかぎりリドリーには近づきません!


***


「おや、引越しなさるのかい?」

【うさぎのぱんや】の女主人マイラは眉を潜めて言った。

「はい、急な話なのですけれど、聖都の近くにあるもう少し大きな街のほうに。

トビーはもうあちらにいって準備をしてるんですよ」

トビーの姉であるセリナの言葉に、マイラは嘆息した。

「粉屋がいなくなるんじゃうちの商売はどうなるんだい」

「粉の卸業はまた別の方がいらっしゃいますから。安心して下さい」

「そうかい……でも本当に急だねぇ」

「コーディロイが口ぞえしてくださったんですよ。もう少し大きな街でやってみないかって。

父もここは長いから随分と迷ったんですけれど、父なら大きな街でもできるって、

がんばってみなさいって説得されて」

「おや、そうなのかい?」

「はい。本当に優しくて素晴らしい方ですね」

にっこりと笑ってセリナは言うのだが――


実は彼女も酷い目にあいそうだったこととか、その大きな街での事業をする為に裏で駆けずり回ったのは、

ご領主さまだったとかいう話しは――まったく彼女は知らないのだった。


……ご領主様はそのうち神経性胃炎とかで倒れそうですが、きっとその時は尊き人が治してくれるよ、良かったね!


***


「意地っ張り」

「外面大王」

「頑固者」

「性格ブス」

――あたしは焼き釜から出てきたパンの焼き具合を確かめながら苦笑した。

「なんだいあれは?」

マイラおばさんが呆れたように眉を潜める。

「止めたほうがいいかねぇ?」

オロオロと祖母の顔で店舗を覗き込もうとするマイラおばさんを留めて、あたしは肩をすくめて見せた。

「仲がいいんですよ」

「仲って……喧嘩してるように見えるけど」

「仲良しですよー」


「生意気ですわよ!」

「パン屋の店舗内でさわぐなよ。汚い」

「きたっ、わたくしのどこが汚いのです」

「唾が飛ぶだろう。まったくそんなことも判らないのか」


おそらくきっと、すごい仲良し。

微笑ましい気持ちであたしは眺めているのだが、

それと同じように自分と魔術師を町の人が眺めていることには気づいていなかった。


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