web拍手お礼小話つめつめ(2)
「魔術師。今まで意地悪ばっかりしていたけれど……
あたし、本当は――」
こくりと喉が上下する。
伏せた眼差しをそっとあげて、小首を心持ち傾けて、
「あなたのこと」
「リトル・リィ?」
「好きなの」
「ああ、なんて嬉しい日だろう!
もちろんぼくも大好きだよ。キミのことを心から愛してる。こうして心が通じ合ったのだから、ここは一つもっと嬉しい日にしよう」
がしりと両の肩をつかまれた。
有頂天になっている魔術師に、ふっと笑ってみせる。
「嘘に決まってるでしょ。
今日は四月一日、エイプリルフールよ。一年で一度だけ嘘をいくらでも言っていい日よ!」
「知らない」
「へ?」
「ぼくそんなの知らない。
だってぼくは神官長だもの。嘘なんていっちゃ駄目でしょ?
ってコトで、さぁ、リトル・リィ!ぼくとめくるめく愛の世界へ!」
「ちょっ、引っ張らないで」
「ふふふ、優しくするよぉ」
「はーなーしてぇぇっ」
「リトル・リィの照れ屋さんっ」
ちょっ、ホント離してっ。
4/1えいぷりるーる
***
「あら、兄さまどうかなさったの?」
日当たりの良いテラスでぼぅっと北の霊峰を眺めている兄の姿に、アマリージェは小首をかしげた。
「うん……」
「兄さま?」
「エリザベートに振られてしまった」
……薄い笑みを浮かべる兄に、うっと言葉を詰まらせる。
「どうしてだろう? プロポーズしようとすると途端に振られる」
「――」
「もう二十六だしね。本気で跡取りのことを考えなければいけないのに」
「……兄さまはとっても素敵よ、大丈夫。すぐに良い方が見つかるわ」
そうアマリージェは兄の背をとんとんっと叩いたが、脳裏によみがえる言葉をどうしても無視できなかった。
――へぇ、ぼくより先に結婚する気なんだ?
まさか……まさか、ねぇ?
***
「もういい加減、諦めたどうだ」
低い声に、男はスケールを動かしながら笑う。
「なにを?」
勿論、相手の言わんとしていることなど理解している。
理解したくないだけだ。
「……これだけ探して見つからないんだ。それに……」
「たかがまだ一年じゃないか。見つける」
「おまえ――振られたんだって自覚しろよ。リドリーはオマエを捨てて逃げたんじゃないか」
呆れたような口調にももう慣れていた。
――花嫁に逃げられた男。
マーヴェルはそれも自覚している。
「ナフサートの家は、ティナでもいいって言って……」
「ふざけるな! 俺の妻はリドリーだ」
「――ティナとオマエが付き合っていたのなんて、皆知ってるじゃないか」
「知るか! どいつもこいつも! 俺とティナが付き合ってる? そんな事実は無い。俺が好きなのはリドリーだって言っても、どうして誰も信じないんだ!」
――リドリーが居なくなって呆然とするマーヴェルを更に追い込んだのは友人たちの言葉だった。
「まぁ、良かったじゃないか。おまえはティナが好きなんだろう?」
――そんな事実はありもしないのに。
誰も彼も判で押すようにそう言うのだ。
挙句、ナフサートの家からは「申し訳ないことをした。こんな恥知らずな真似をする娘だとは思わなかった。もし、もしよければティナを――」とまで言われた時、ぶちりと何かが切れた。
「港で見つけられないならば内陸だ。
船長の息子だからって舐めるなよっ」
「……振られたんだって」
「うるさい!」
***
「アマリージェさま、一人で歩き回ってるとあぶないぞ」
嘆息気味に言う青年は、腕を組んで眉を潜める。
「わたくしがわたくしの町でどんな危険があるというのです」
「まったくオンナってやつは」
「あなた、そうやってすぐに女を卑下なさるのはよくありませんわよ」
「ああそうですか」
容易くあしらわれてアマリージェは翡翠の瞳に強い意思を宿す。
「年下なのに生意気!」
「オレのほうが随分と背も高いですけどね、チビ姫さま」
「チビではありません! あなたが無駄に大きいのですわ!」
わたくしを見下ろさないで下さいませっ。
アマリージュの剣幕に、やれやれと肩をすくめて青年は前髪をかきあげ、跪いた。
「なっ、何をなさってるの?」
「見下ろすなっていうからだろう」
「……そんな風にしろと言ってはおりません!」
「あああ、めんどうくせぇっ」
青年が言うや、乱暴な所作でアマリージェの腰を引き寄せる。ぐいっとだきあげて視線を合わせると、嘆息交じりに言った。
「ほら、これでいいか?」
にやりと笑う青年に、アマリージェは真っ赤になって身をふるわせた。
「生意気!」
まぁ、こんな未来も楽しいかもしれません?
相手は――……?