web拍手お礼小話つめつめ(1)
一度御読みになった方もいらっしゃると思います。web拍手お礼の小話の詰め込みです。期間限定のエイプリルフールネタなどはまた次回upさせていただきます。
多くの人が広場に集まり、鳩が飛んで花が大気を舞う。
――今日一日は自分が主役。
アマリージェは誇らしい気持ちで微笑んでいた。
その時まで。
誰かの声が「虹だ!」というまで。
天候は晴天、ならばその虹をこの晴天に見せたのは誰であるかなんて、この町に生きてこの町で死ぬものであれば皆知っている。
――尊き人。
そう呼ばれる人だと。
つんつんっと、隣に立つ兄が膝でつつき、笑う。
「綺麗だね」
「……」
「あとでお礼を言っておきなさい」
兄は綺麗に笑う。
その顔を見ながら、アマリージェの心は一気に冷めていた。
――違うわ。
この虹は「私」に向けたものでは無い。そうであるならば、あの尊き人は言うはずだ。
人を驚かせたり喜ばせたり、あの人は少しも考えていない。
虹を見たいといえば見せてはくれる。
花が欲しいのだといえば与えてくれる。
けれど、自らの意思でそれをする相手は――たった一人に向けてだと、どうして兄は気づかないのだろう。
「マリー?」
兄の声に微笑む。
今日の主役はアマリージェ・スオン――
ここに集まる全ての人に、祝福を。
けれどたった一人にだけは、わたくしは祝福なんて与えない。
意地悪なのは判ってる。
けれどいいでしょう?
その人は、決してわたくしが欲しくて、欲しくても手にいれることのできない唯一のものを手にいれているのだもの。
判ってる。
キライじゃないわ。憎んでもいない。
むしろ、あの人は可哀想な人。
可哀想な生贄の羊。
けれど今日この日はわたくしが主役。
それを惨めな気持ちにしてくれたあの人を――今日、この時ばかりは嫌ってもいいでしょう?
――――――――――――――――――――――――――――――
「リージェ、どうしたの?」
兄さまが不思議そうに覗き込んでくる。
私は眉をくっきりと寄せて言った。
「コーディロイがね」
「うん」
「突然、マリーって呼び出したの」
「まぁ、それも可愛いよね?」
「……リトル・リィに似てるからこっちにしようって」
「……」
「どういう意味?」
「――君はこれからマリーだね、うん、判った」
わーかーんーなーいぃぃぃぃ。
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白い人が黒になってました。
さすがにその場にいた全員が息を詰めたのが判る。
「尊き人? その姿は……なんですか?」
兄がゆっくりと問いかける。
シルクハットに黒衣の上下。ステッキをくるりと回して見せる。
「魔術師っぽい?」
「というか……イカレ――」
思わず口を開いたあたくしの口を、兄の手が慌ててふさぐ。
「見えます! 見えますがっ」
「リトル・リィがね? 飴を出してあげたら魔術師みたい、素敵って言ってくれたのを思い出したから」
「……」
「再会は魔術師にしてみようと思って」
――嬉しそうに微笑む姿は実に麗しいが。
莫迦だ……
いつの間に病の進行がここまで。
泣きそう。わたくし。
「似合う?」
「似合ってます」
兄の声がかすれていた。その声に追従してこくこくと家人がうなずく。
――似合ってるわ。そら怖ろしい程! 物凄く素敵よ!
莫迦だけど!
ああ、言いたい。言ってしまいたいっ。
脳細胞壊れてますわっ!
絶対にこれが初恋だなんて口が裂けても言えない!
「マリー?」
「……きっと彼女も喜んでくださいますわ」
いやいや、ナイ。ナイな。
もう変人にしか見えないもの!
―――――――――――――――――――――――――――――
霊峰の水脈に触れている尊き人は嬉しそうだ。
そこが彼の力の源で、そして彼の活動範囲であるから。
逆に言えば、竜峰の水脈が届かない場所は尊き人の範疇外。
――彼の人の想い人はその範疇外に暮らしている。
それでも水鏡で相手を見ることができるというのは、やはり彼の人は素晴らしい。
その嬉しそうにしていた人の眉が跳ね上がり、かもす雰囲気が変わる。
「尊き人?」
「殺す」
「……は?」
なんだか今不穏な言葉が漏れたような……
「ぼくのリトル・リィにキスしたぼくのリトル・リィにキスしたぼくの……――」
何その呪いの言葉。
「何がファーストキスなものか、残念でした!
はじめてはぼくとですよ。あんまり可愛くてベロチュウしちゃったもの。
おまえなんか二番目だ、ばか」
「……」
「ゆーるーすーまーじぃ。
おまえの破滅は確定だ! 念入りに地獄に叩き落す」
ふふふと笑っているその人からそっと離れ、自然と神に祈りを捧げた。
ああ、だけれど。
自分はどの神に祈ればいいのだろうか。
神官長がアレだ。