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止まらぬ想いとはじめてのお泊り

突然爆笑し、肩を震わせている姫君の姿に驚いたのはなにもあたしだけではなかった。

その場にいる三名――あたし、魔術師、そして領主さままで驚いた様子で自分の妹姫を見ている。

 自らの胸元に手をあて、いっそ苦しそうに笑うアマリージェの姿は到底想像できるものではなかった。

御姫様?

見目麗しい御姫様の爆笑……

「マリー?」

気遣わしげに領主さまが言えば、アマリージェは必死に自分の口元を押さえ込み、涙交じりで顔をあげた。

「し、失礼いたしました」

「……大丈夫かい?」

「わたくし、こんなに笑ったのははじめてです」

「だろうね」

領主様が心配そうに言う。

「――リドリー、あなたはそういう方ですのね?」

え?

あたし?

あたしが笑われていたのですか?

あたしは呆然とした。いや、確かに――あたしが喋ったあとに爆笑されたのだからそうなのだろうけれど、あんまり意外すぎて結びつかなかった。

 眦に浮かんだ涙を拭い、アマリージェは未だ肩を震わせながら言った。

「尊き人と兄を同列に扱ってはいけません。彼は神官長ですのよ?」

「……神官のほうがご領主さまより偉い?、のですか?」

ごめんなさい、私は一介の商人の娘なのです。

階級社会には物凄く疎い。いやいや、跡取り娘としてきちんと学ばなかったのは致し方ないのです。うちには婿養子が入る予定でありまして、その……うん、彼のほうは勉強していたようです。

――なんというかごめんなさい?

「長と言っているではありませんか。リドリー、まさか長と付く人の上にも誰かいると思っていらして? 尊き人はそんな安い方ではありません」

えっと?

またしても話が見えませんよ?



あたしはじっと魔術師を見詰めた。

今は白い神官服の男を。

「……偉いの?」

「名目上はそうかもね?」

「――どれくらい?」

小首をかしげるあたしに、魔術師はふふっと微笑み、

「そこの当主から爵位を取り上げるのは序の口」

 びくりと領主さまが身をすくませる。

「正式な手続きさえ済ませれば、この町くらい好き勝手しても、まぁ許してもらえる程度には」

まぁ手続きなんかしなくても、何しようが証拠なんて残んないけどねぇ。

などと小さく呟く魔術師。

さらに領主さまが(おのの)いて一歩退く。

「冗談?」

「――言っただろう? ぼくを持ち上げている連中にしてみれば、その程度でぼくが大人しくしていてくれるなら安いと思っているんだ」

――敬っているのだから悪さをしないで……

崇り神の竜の話が脳裏を過ぎる。

 あたしは肩をすくめて冷ややかに笑う男から視線を逸らし、ちらりとご領主さまを見た。

その顔が心なしか青ざめている。その横のアマリージェも。


本気ですか!?


「えっと、夜分遅くに失礼いたしました」

あたしはご領主さまにぺこりと一つ頭をさげた。

ご領主様は未だに硬直しているし、またその気持ちも良く判る。

あたしはにっこりと笑い、

「では帰りますね」

とその場を退場しようとした。


駄目だ。

理解の範疇外過ぎる。

それとも何かの喜劇か何かなの? ここはテントの中ですか!?

好きだと思ったのは忘れよう。

――いやいや、そんな気持ちはきっと嘘だったのだ。ああ、悪い夢だった。明日はきっといいことがあるさ。今日はちょっとなんだかアレだっただけ。

という完全逃避を図ろうとしているあたしの背に、のしりと温かな体温がのしかかる。

「リトル・リィ、送るよ?」

耳元にささやかれ、あたしはひぃっと声無き悲鳴をあげた。

好きじゃない、好きじゃない。

そんな感情はゴミ箱に捨てました!

なのにどうしてあたしの心臓はばくばく跳ね上がるの。あたしのばかー!

神様助けてっ。


しかし、ソレを救ってくれたのは思い切り当てにならない神様ではなく、可愛らしい声の姫君だった。


「リドリー」

鈴の音のような愛らしい声で呼び、たたっと姫君はあたしの前にまわりこむ。

「今宵はもう遅いですわ。わたくしの部屋にお泊り下さい」

「マリー?」

困惑気味の魔術師の声。

いや、だから耳元で言葉をあやつるのは辞めて下さい。


心地よいテノールが――バスだったら正気に戻れるというのに、その柔らかな声音がぞくぞくと体のどこかをくすぐる。

 アマリージェの手がぐいっとあたしを引く。

背中の背後霊が外れてよろつくあたしに、そっとアマリージェが囁いた。

「了承なさい。尊き人の寝室に行きたいのでしたら別ですが」

うっ……

送るって、きっとあの部屋を通るつもりだよね?

あの、明らかに魔術師の寝室。いやいや、断ることだって勿論可能だ。人間には足があるのだ。多少歩くことになっても――……なんか無理な気がする。


「泊めて下さい」

「ではいらして」

アマリージェが嬉しそうに微笑み、

「よろしいですわよね? コーディロイ」

と魔術師を見た。

魔術師は眉を潜めたが、あたしとアマリージェを交互に確認し、

「リトル・リィがそういうなら」

と肩をすくめた。

――ってか、あたしの行動を一々その男に了承とるというのはいかがなものでしょう。私と彼はきっと、ええ、きっと無関係……です。


アマリージェの御部屋にお泊りでした~

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