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「リンダ、急で悪いが明後日、中央広場の慈雨祭(じうさい)前座公演のセンターやってくれないか?」


「んん?」


公演の少し前に急に支配人に呼ばれて何かと思ったら藪から棒だった。

慈雨祭はまぁ農耕の祭。元は雨季にやってたそうだけど雨の中の祭は大変だから段々ズレて今は春にやってる。

リーテ国の中部は春でも結構肌寒くていまいちパッとしないから、観光目的でズラした。って話もある。


それはともかく、薄の原亭は最終日の昼公演担当で、あたしはもう卒業まで固定になってる3番手ポジだった。


「担当するはずだった銅亀(どうがめ)亭のセンターが民会(みんかい)の役員と不倫してるのを日報紙にすっぱ抜かれちまってな。急に回されたんだよ」


「マスッチは?」


「銅亀亭の御下がりで、あっちのセンターにもファンはいるからセンター同士だと逆恨みされるだろ? お前はベテランだし、再来月引退することは知れてるからさ」


「・・・」


うん、弾除けだ。


「いやっ、ナリリンやユカユカじゃちょっと祭の委員や後援会が納得してくれなかったし、2番手のヤッフィーだとマスッチが気にするだろ? 頼むよ? ギャラはいいし、派手な舞台になる。お前の好きな演目でいいよ。間が無いしな」


「じゃあ、ヨカ隊から逃げた男にナッツミルクを売る娘、で」


ムッとしてたから、考えずに言った。


「むぅっ」


ハーフドワーフの支配人は渋面になった。


「祭の目立つ興行だしな。・・わかった。道化を抜いた、素公演の構成でいこう。道化連中は当日空いてる銅亀の道化も呼んでやって、少し離して周りでざっと賑やかすだけにする。経緯があるから客が直に舞台に対峙しない方がいいだろう。道化達はバリケード役を兼ねさせる」


「なんか、悪いね」


「仕事だ。それに普段警備してるスタッフも付く。お前達は機嫌好くやってくれ、少なくとも舞台の上ではな」


「わかった」


ポジティブな流れじゃないけど、思いもよらず大役ゲットっ! こういうのは棚からチョコブラウニー、っていうんだっけ??



棍棒を振り回す熊人(ワーベア)族の粗末な胴鎧を擦れ違い様にクレイモアの腹で打って昏倒させ、歯並びがガタガタのハーフノームの男が3連式の玩具みたいな短銃をおっかなびっくりに撃ってきたのは、ほぼ外れていた射線を完全に外して躱して詰め、相手の背が低いから柄頭で顎を打って昏倒させた。

これで手下は全員ノした。


「ぎ、ギルドのケツモツがあるからって、いい気になるなよっ、残飯漁りのバジェ!」


ロングレッグ族の若頭は薄汚いソフトドラッグ臭いアジトの壁際で喚いた。


「なってない。転送門の代金が7割前払いされたことは知っている。それ以上は求めるな。ラニィ・リーフシェードのことは忘れろ」


「クソがっ」


「治療代はベルソンのギルドに請求すればいい。ただし増長するなよ? ギルドのマフィア対策部門は俺程礼儀正しくない」


「このっっっ!!!!」


訛りの酷い、出身らしい東部弁でうんざりするような罵詈雑言を吐く若頭を置いて、俺はベルソンの地回りマフィアのアジトの1つを後にした。

マフィアには匿われていないようだ。衛兵とは俺ではコミュニケーションを取れないが、捕まえたら公になる。まだだろう。

仕止め損なった周辺を洗い直すか。



前金がいくらか入ったこともあって浮かれてた、ってのもある。ラニィの怪しいお金じゃなくてあたしの稼ぎだしね。

あたしは軽く呑んだ上で、少し買い物をして、アパートの部屋に帰ってきた。


「ただいまっ、ラニィー君! いるかいっ? いいポーションまた買ってきたぞぉ~?」


「御機嫌だな」


ラニィはあたしの服ではなく、乾いてお腹の所を縫い直した自前の厚手の布の服を着ていた。髪もキッチリ纏めてる。

暖炉ではなく台所で何か作業していたみたいだった。


「暇だからオーブンで料理しようと思ったけど、掃除してなかったろ? 使えるようにするまで大変だったぜ」


「ごめんよ~、いい匂いしてる」


ケーキ?


「リンダの家はロクに物がないから、取り敢えず砕いたクッキーで風味を足したソーダブレッドを焼いてみた。ナッツクッキーを入れたのとチョコクッキーを入れたのがあるぜ?」


食卓に置かれた2枚の皿の上に確かにっ!


「おお~、2年くらい眠ってた我が家のオーブンからパンが産まれなすった!」


「昨日のスープとチーズと乾燥豆でグラタンっぽいのもあとで作ってやる」


「やったぁっ」


あたしは荷物をドサドサ置いて、小柄なラニィに抱き付いた。


「うおっ、モフ圧強ぇな。呑み過ぎだろ?」


「ふふふっ」


ラニィは着替える前に桶で湯浴みも済ませたみたいで、あたしの石鹸と洗髪料の匂いがした。


夕飯を食べ終わってハーブ茶を飲む段になる頃には酔いも覚めて、頭が冴えたあたしは饒舌になっていた。


「代役センターなんだっ! 最後の最後でね。あたしらしいっちゃああたしらしいわ。ふふ」


「よくわかんねぇけど良かったんじゃねぇか?」


すっかり血色のいいラニィは頬杖をついていて、壁に掛けてある+1評価の小剣に目を止めた。


「アレは?」


「持ってかないでよ?」


「もう盗みとギャンブルは懲りてるぜ」


よく言うよ。


「昔、冒険者の男と付き合ってたことがあって、もらったんだよ」


「未練か? へへっ」


「違う。他にもっと上等な物をくれる男ができたら売ろうと思ってたんだけど、アレがあたしの最高スコアだったわ」


「ざまぁねぇなっ。へへへへっ!」


(ひど)~」


それからあたしのどれも上手くいかなかった恋愛話と、ラニィの前の(パーティー)の冒険者稼業の話を肴にあたしは取って置きのワインを1本飲み干し、ラニィはハーブ茶を2杯お代わりして話し込んだ。



就寝用の暗い灯りのランタンの明かりで、あたしは家に1つだけある目覚ましを兼ねてる結構高価な置き時計をセットする。

あたしは寝巻きを着て、円いベッドの上。

ラニィは猫枕に毛布でベッドの横の床に寝転がっていた。さっきポーションを飲んでいた。ホントのところ、どれぐらい治ってるんだろ?


「お休み、ラニィ」


「おう。お休み」


あたしはランタンを消そうとしたけど、


「・・オレ、明日の夜、出てくわ」


ラニィが言った。ちょっと早めちゃったかな? あたしは考えて、衛兵隊に出頭した方がいいって言った方がいいんだろうなとは思ったけど、


「じゃあその前に、この町の時計塔にいかない?」


別のことを言ってた。

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