卒業式の日
大粒の雨をはらんだ、厚い雲が覆う空。
オレは、校門の前で足が止まった。
時刻はもうすぐ9時40分。登校時間には30分以上遅刻している。
遅刻せず登校するのも癪だと家を出たけれど、かといって今までのように遅刻をするのも無意味だ。
校門の向こう。そこには、どこか浮かれているような、でも寂しそうな…昨日とは違った空気が漂う。
オレの心も、日付と共に変わってしまえばよかったのに…
オレは、校門横に立て掛けてある『卒業式』とデカデカと書かれた看板を見る。
卒業って………何から?
オレの三年間は…先生を見つめ花を探し続けた三年間は……無意味だった。
オレは、校舎を見上げた。自然と、視線は先生と過ごした資料室をとらえる。
そこには、いつも窓際の椅子に座っていた先生の姿は無く…遮光カーテンがぴっちり閉じられている。
「……」
オレは無理やり視線を足元に落とした。
入学したからには卒業がある。その日は学校から卒業する生徒のため、学校行事として卒業式が開かれる。
学校から卒業………?
オレの三年間は、先生一色だった。
卒業…………
…………………
………………………先生から、か…
門の向こうが賑やかになってきた。そろそろ式が始まるのかもしれない。
ここから一歩、踏み出せば、門を越えれば…オレは、卒業、できる。
俯くオレの足元に、ポツポツと水滴が落ち始めた。
卒業、したく、ない…な………
身体の一番深いところからあふれる涙と、雨粒が重なり…足元を黒く染めていく。
少しずつ広がっていくそれはまるで、オレをこの場所に縫い止めるかのようで。
ざぁざぁ、ざぁざぁと…卒業式が終わるまで、雨は降り続いた。
オレはその門の先へ行くことは二度となかった。
☆ネタバレ☆
主人公は花を探すが、三年経っても見つからない。
それもそのはず。先生が持っていた花は、先生が誰かに渡すためじゃなくて…
先生が誰かに貰った花だったから。
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。