第5幕〜ギルド
トレイを持って部屋に入るミティーラは気だるそうに……お待たせと言い、オボロ達の座ってる前のテーブルにトレイを置く。そこには手のひらサイズの青い半透明なガラス板一枚と赤い半透明なガラス板が二枚置かれていた。
トスクールに言われるがまま、青い方はオボロ……赤い方はそれぞれクロネとアミュに渡された。青いのはオーラで登録、赤い方は魔力で登録したと、見た目で判断出来るようだ。
これが━━ギルドパス
登録した力に反応し、身体の内部へ収められ、その力で出し入れ可能。ギルドパスには様々な個人情報や依頼の履歴、さらには左下の細長い所から少量の銅貨が出し入れ可能なお財布機能まで付いていた!
早速試すオボロ達……。
手のひらに置きそれぞれオーラ、魔力を注ぐ……。
ギルドパスが反応し、身体へ収まった!念の為出し入れを数回やらされたオボロ達。
……
オーラや魔力の消費はさほどでもなく、すんなり出し入れ可能。アミュは面白がって……腕やおでこからギルドパスを出し入れして遊ぶ始末……。呆れているクロネ……苦笑いのオボロ……。このアミュの行動にトスクールもミティーラも驚いていた。普通は手のひらからの出し入れが一般的だが……他の部分から出し入れするのを見るのは初めてだと……。アミュの発想力には度々驚かされるオボロとクロネ。
この半透明なガラス板のギルドパスの元となったのは━━
━━魔導士ゼクセン
が、深く関係しているらしく、ギルドの本部から支給されるもので、どう加工してるのかはギルド長のトスクールも知らないと言う。
━━魔導士ゼクセン!
その名に聞き覚えのあるオボロとクロネは……思わず目を合わせてしまった!
トスクールにどうしましたか、と聞かれたが……差し障りなく誤魔化すオボロ。
(さすがに、ゼクセンの残した固有魔法と契約しました、なんて言えない……)
セリーヌから、極力言わないよう何度も指摘されていたオボロ。
と、ミティーラが紅茶のような飲み物を出してくれた。スーデルの町の茶葉園で採れた紅茶。
オボロとクロネはそのまま飲む……大人な味……。アミュは一口飲んでカップを置いてしまった……。この味はアミュにはまだ早いと思い、角砂糖をカップに入れ飲ませてみたオボロ。
……
「こっちの方が好きっ!」
(本当お子様って感じになってるよなアミュ)
保護者と言うか父親のする行動になっているオボロ。
紅茶を啜るトスクールは、冒険者について説明してくれた。上からグレードS・A〜Gと分類され冒険者なりたてはグレードゼロからのスタートである程度依頼がこなせるようになったらグレードGへ上がると。
「しかしながら……オボロさん達は実戦経験がだいぶあるように見受けられましたので……ギルド長の権限でグレードGからのスタートにしたいのですが……よろしいですかな?」
(飛び級みたいなものか?それなら特には問題無いよな……)
そう考えたオボロは、トスクールの提案を受け入れた。
依頼内容は様々で自分で選ぶのもあれば……ギルドや個人から指名で受けてもらうこともあり、指名の場合は報酬も……高めである、と。
真剣な眼差しでトスクール
「オボロさん達のこれからの事情はわかりませんが……ギルドとしては……しばらく町に滞在してもらえると助かりますがね……」
(そう来るか……どのみちクロネとアミュには人間達に慣れてもらいたいし……俺自身も慣れなければならない……滞在する事は最初から考えていたし……)
「今までマーマン達と生活してましたし、人間と生活するのも経験として良いかなと感じてますよ。冒険者としてもこの町で色々経験出来れば!と考えてますよ」
と、返答するオボロ。
話を聞いていた無愛想なミティーラが少し微笑んだ!
(スコットも他の皆も少しは楽になるかなぁー)
対面のソファーに座ってるトスクールは立ち上がり
「なんと嬉しいお言葉!オボロさんの依頼のサポートは任せて下さい!」
サッと頭を下げた。
オボロも立ち上がり、同じように頭を下げた。
オボロ、トスクール同時に頭を上げ目が合う……
なんとなく打ち解けたかのように握手を交わす二人。
「細かな事はその都度ミティーラやスコットに聞いてもらってもかまいませんよ」
と、トスクール。
「その時は遠慮なく」
微笑むオボロ。
トスクールが宿はどうするのか聞いて来たので、まだ決めて無いと答えたオボロは、こんな獣人でも泊めてくれる宿はあるのかと聞き返す。獣人専用では無いが、獣人も泊まれる宿は少ないがあるらしく……トスクールが簡単な地図を書いて渡してくれた。
「ギルドから推薦みたいな事を伝えれば……問題無いかと思います。それと、スコットが迷惑かけましたので……一泊だけですが……ギルドが負担しますので」
と、トスクールの書いた手紙も渡された。
「それは助かります」
━━!
と、思い出したかのように腰の鞄から数枚のシーサーペントの鱗を換金して欲しいとお願いした。トスクールはではお預かりしますので、明日にギルドへ受け取りに来て欲しいと言われた。どのくらいの金額になるのか不明だが、宿代くらいになれば良いと思うオボロ。
そして、部屋を後にするオボロ達。
ギルド・ロビー━━
ミティーラと目が合うオボロ達……カウンターから見えるか見えないかくらいの位置で小さく手を振られた……。気に入られたのだろうか不明だが……同じように手を振り返すオボロとアミュ……クロネは澄ました顔で通過。
(もう、気に入られたのかしら?それも人間の♀に!)
嫉妬心の塊なクロネ。
その場にいた数名の冒険者達……やはりチラッチラッと見て警戒もしくは……興味があるかのようにも感じるが……話しかけてくる気配は無かった……。オボロは、無理にこちらから話かけても驚かすだけだろうと思い、そのままギルドを出て行く。
スーデルの町・広場━━
とりあえず中央の噴水広場のベンチに腰掛けたオボロとクロネ、アミュは噴水が珍しいのか眺めている……。
渡された宿の地図を見るオボロ……周りをちょいちょい見ながら地図と照らし合わせていく。クロネはオボロにちょっかいを出す輩が近付いて来ないか躍起になって警戒する!……美人な顔が台無しになるほどに……。
そんなクロネを気遣ってかオボロ
「あークロネ?そんなに頑張らなくても平気だぞ?俺だって耳もあるし……この髭もあるしさ」
膝に肉球を当てるオボロ。
(あっ!オボロ様の肉球が……膝に!)
険しい表情から……デレッとした表情へ変わるクロネ!
「いえ!血の盟約に従って警戒していただけですわ!」
強がってしまうクロネ。
地図を片手にベンチから立ち上がるオボロは、噴水の水を手に浸したり、手で飛ばしたり遊ぶアミュを呼び、宿屋を目指す。
ギルドから出てきた三人が噴水広場に居る時から、町の人々は物理的に距離を取っているのが、手に取るようにわかってしまうオボロ。
(宿が全滅なら……町の外で野営するしか無いよな……)
しばらく地図を確認しながら歩く……ほぼ正方形な噴水広場からは路地へ行く道が何本もある。住宅街へ行く路地、商店がある路地、町の外へ通じる広めな道……路地へ入ると迷いそうな雰囲気……。宿屋はそれなりに集中しているが……紹介されてる数件の宿は、その路地とは別にあり……ちょっと路地を歩くと一軒目の宿が確認出来た!
「宿屋・グーグー」
と、言う名の宿。
(なんか可愛らしい名前……ここで良くないか?)
直感的に感じたオボロ。
とりあえずクロネとアミュに確認を取るオボロ。
「私はオボロ様と同じ部屋であれば……構いませんわ」
「あークロネちゃんずるいよっ!アミュもお兄ちゃんと同じ部屋が良いっ!」
……部屋割りの問題はあるが……大丈夫なようだ。




