第5幕〜オボロ VS スコット
オボロ達の実技試験を見学していた冒険者スコットの乱入!ギルド長トスクールは呆れた態度で説得しにスコットの元まで行くが……全く引かず……さらに小声で……
「オボロさんの実力もっと見たくありませんかね?」
と、元冒険者であるトスクールの気持ちを煽る。それにはトスクールも……同意見であった。
幅広の木製の大剣を向けられているオボロ……。
すかさずクロネとアミュが前へ出て構える!
「いきなり失礼ですわね?」
「うんうんっ!失礼っ!」
二人の間からサッと前に出るオボロ。
「ありがとう二人とも。ご指名は俺みたいだから……行ってくるにゃ」
構えを解かせ、背負っている角錐をクロネに渡すオボロ。
心配そうなクロネとアミュ。
訓練場中央にオボロ、スコット、トスクールの三人。
取り決めをするトスクール。木製の武器の使用と自分の身体のみ、オーラ、魔法は禁止、戦闘不能状態か降参で決まり、と。スコットにはオーラ発動感知の指輪、オボロには腕輪が装着された。どうやらオーラを使うと反応し、トスクールが止めに入るようだ。
武器置き場を眺めるオボロ……。一般的な木製の剣、幅広の大剣、それと先端が保護された槍……。
オボロは槍を握り、ヒュンヒュン回し確かめる。
(やっぱりトツみたいに使いこなせないかも……)
トツとは、手長猿の槍を得意とする狩り隊長でダリルと言う群れの長の片腕。共に戦い、決闘もした仲である。
(槍を選びますか……)
オボロ、スコット距離を置き対峙……。
見物人達が騒がしい……。
(あれ?スコット何やってんだ?獣人さん可哀想じゃねーか……)
(冒険者同士の争いは嫌いじゃなかったのかよ?)
(スコットの奴……あの獣人のこと気になりすぎだろ?)
等々、好き勝手話す見物人達……。
オボロが話そうとした時、先にスコットが━━
「受けてくれてありがとう!……俺が負けたら町の名物『フルーツタルト』を、たらふく味あわせてやるぜ!もちろん三人ぶんで」
負けた時の条件が少ししょぼいと感じてしまったオボロ……。
「あぁ構わない!うちには甘い物が好きなのが居るから……覚悟しといてにゃ?」
チラッとアミュを見るオボロ。
アミュはサッとクロネの後ろに隠れ、顔だけ出して……
「そ、そんな事ないもんっ!」
必死に否定する。
「オボロさんには無理言って受けてもらったから……そっちは負けても何も無しで!……どうかな?」
提案するスコット。
「わかったにゃ……それでいこう!」
快諾するオボロ。
話はまとまったようだ……。
両者構える……。
「では……はじめっ!」
トスクールの手が振り下ろされた。
槍を水平に構えて迎え撃つオボロ。
威勢の良い掛け声と共に大振りで大剣を振り下ろすスコット!
ぴょんっと真後ろへ小さく跳ねるオボロ。
大剣を下からすくい上げ、そのまま振り下ろすスコット!
(大振りだから……わかりやすい……)
と、振り下ろしから態勢を低くし腹部目掛け突いてくるスコット!
真横へ飛ぶオボロ!
突きから水平に薙ぎ払うスコット!
ドスッ━━!
脇腹へ当たり倒れ込むオボロ!
そこを逃さず━━
真上から大剣を畳み込むスコット!
槍を水平にし防ぐオボロ!
バキッ━━!
スコットの大剣の勢いが強く槍の柄が折れてしまった!
しゃがんだまま横へ転がり距離を取ったオボロ!
(危なかったぁ……やっぱり馴れない槍は使うもんじゃないな)
スコットも気を落ち着かせ構え直す!
「大剣のリーチに合わせて槍を選んだのかい?武器が破壊されては……諦めます?」
ちょっと上から目線なスコット。
「んにゃ!この方が……動きやすいんで!……爪は出さないから安心してにゃ!」
と、空手の様な武闘スタイルをするオボロ!
低い姿勢で前へ出るオボロ!
スコット手前で横へ飛び、握った拳を出す!
ボフッ!
鈍い音でスコットの太い二の腕に当たり、よろめかせた!
そのまま背面へ周り、両手を広げ腰へ━━
「肉球掌底!」
数メートルほど前方へ飛びうつ伏せになるスコット!
(そう言えば……対人間って……初めてだ)
ゆっくり立ち上がりスコット
「や、やるねぇ……」
大声を上げながら大剣を振り上げ走ってくるスコット!
ガキーンッ!
オボロは両腕をクロスさせ鱗の籠手で大剣を防ぐ!
グイグイ押し込むスコット!
身体全体で踏ん張るオボロ!
カチャカチャ……ガチガチ……。
篭手と大剣が擦れる音……。
━━と、オボロは両腕の力をフッと抜いた!
力を込めていたスコットは前へ態勢を崩す!
シュシュッシュッ!
四つ足でスコットの股を抜き、直ぐ振り返り━━
「丸鋸斬!」
身体を高速前転させながらスコットの背中目掛け回転撃を当てた!
「のわっ!ぐわっ!」
悲鳴と共に飛ばされたスコット!
丸鋸斬による高速回転で、脳がフラフラなオボロは距離を取る!
うつ伏せのスコット……。
(くそっ!一撃が重てぇ!オーラ使わなければ勝てると過信したか?……あんな細腕で……くそっ!)
実際オボロは、二足歩行の猫に近い体型……筋肉らしい筋肉はふさふさな体毛で隠れてしまっている!はぐれ島やザザ村での戦闘や力作業、日々のトレーニングで内側にはそれなりに筋肉は付いていた!
近くの大剣を手に取り立ち上がるスコット……。
(アレ、使うか………)
口を閉じ……ガムでも噛んでいるかの様な仕草をするスコット……。
オボロ「?」
と、クロネが悲鳴を上げ、耳を塞いだ!見物人の獣人達も耳を塞ぎ、スコットに対し文句を言い始めた!
(スコットの奴め……使いやがったな)
立ち会いのトスクールが勘づく。
(ここじゃない……この位置か?)
カチカチ!カチンカチン!
━━!
「ぐっ……この音は……嫌にゃ……」
片膝を突き両手で耳を防ぐオボロ!
━━!
(この噛み合わせだ!)
カチン……カチン……
口を閉じ、歯を噛み……音を鳴らすスコット!
(うぅ……嫌な音にゃ……)
大剣を持ちながら両手を広げスコット
「どーだいオボロさん?人間には効果無いが……音に敏感な獣ほど……良く効く!」
カチン!カチン!
「雑音歯!」
両手で耳を塞ぐオボロ!頭に響くスコットの雑音歯!
耳を塞ぎながらもオボロの戦いを見るクロネ。
(これは厄介ですわ……)
アミュには効果が無いらしく、オボロとクロネを交互に見ては、何が起きたか不明な様子……。
「い、嫌がらせ……か……」
しゃがみこむオボロ!
カチン……カチン……
(耳栓で何とかなるか?)
お腹の体毛を爪で毛取りをし……丸めて……両耳へ突っ込むオボロ……。
カチン……カチン……
(耳に何か詰めた?それでどうにかなるか?)
カチン……カチン……
━━!
(少し……響かなくなった!ここは……このまま効果があると思わせて……)
「うぅ……ぐぐっ……」
少し誇張し悶えるオボロ!
「卑怯と思われても……オーラ使ってないんで━━」
走り込み大剣を振りかざすスコット!
━━!
歯茎が出るほどニヤつくオボロ!
スコットの大剣を……ひらりと横へ避け━━
足元へ水面蹴りを食らわす!
ドサドサー!
地面に伏せってしまうスコット!
(んなっ!)
伏せたスコットに馬乗りになり……
両手で顎をしっかり掴み……
自分の方へ引き込む━━!
「んぐぐ!ぐほぉ!」
低く詰まらせた声を漏らすスコット!
(何だ!これはよ?)
「んにゃ!キャメルクラッチ!」
海老反りになるスコット!
首から背骨に圧がかかり、顎も固定されて雑音歯も出せない状況!
「ちょっと?何ですのあれは?」
形勢逆転になったのを驚き、喜び……思わずアミュを強く抱きしめながら言うクロネ!
「むぐむぐ……クロネちゃん……ぐるじぃよぉ……」
アミュはクロネの谷間に埋もれながら訴えている……。
トスクール始め見物人がどよめく。
キャメルクラッチを決めながら軽く脅しをかけるオボロ
「中々……嫌らしい攻撃にゃ!降参しないのなら……背骨……へし折るかもにゃ?」
(くっ……雑音歯も出せねぇ……身体が言うこときかねぇ……)
耐えながら、何とか抜け出そうと試みるスコット!
「こんな……出来損ないの……獣人に勝負を……挑む……勇気に……栄光と……感謝、にゃっ!」
首、背骨がミシミシ音が鳴る!
━━「ボキボキッ!」
大声で、骨の折れる音を叫ぶオボロ!
と、同時に両手をパッと放しキャメルクラッチを解除した!
……
地面にベッタリと伏せってるスコット……オボロの大声でなのか……白目を剥いていた!
(あれ?やり過ぎちゃったかな?)
肩を揺するオボロ……。
慌てて駆け寄るトスクール!
スコットの状態を確認し━━
「勝者……オボロさん!」
見物人達からは歓喜の声と、批判的な声が半々であった……。
もちろんクロネはアミュの両脇を抱え、その場で何回も回転し喜びを露わにしていた!
(見事な戦いでしたわ!オボロ様!)
クロネに翻弄されてるアミュ……。
「あわわゎ!目ぇーがぁーまぁーわぁーるぅー」
【戦歴】
オボロ VS スコット
オボロのキャメルクラッチで、スコットの戦意喪失により勝利




