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第5幕〜冒険者登録・②

 

 周囲の城壁や見物人に被害無く実技試験を終えたオボロは、胸を撫で下ろしトスクールの元へ行き、合格と言われさらに安心した。

 ……どうやら次はクロネが挑む様子……。


『内容的には問題無い、派手にしなければ良いよ』


 ブレインマウスで伝えるオボロに、無言で笑みを浮かべるクロネ。


 ━━バッサバッサ!


 ……背中の羽を羽ばたかせクロネが訓練場中央へ舞い降りた!クロネが飛んだだけで見物人の男性達は食い入るように見ては歓声を上げていた。


 羽扇子を持ちクロネ


「いつでも……どうぞ」


 目を細くしトスクールへ伝えると同時にオボロの方も見る。


(見ていて下さいオボロ様!)


 砂時計を確認し、反転させ……

 始まりのひと声が訓練場に響く。


 城壁から投石、矢が飛んで来る!


 羽扇子を広げ……下から上へ振り上げた!


 ━━「闇巻き」


 クロネの周囲に黒い竜巻が発生!飛んで来る矢、投石は闇巻きに飲み込まれ……上空へ放り出され……クロネから少し離れた地面へ落下。


(ふふっ……セリーヌに感謝しませんとね)


 以前セリーヌとの思わぬ戦闘で闇巻きの使い方の幅が増えたクロネ!


(おぉ!攻防一体!やるなぁクロネ)


 感心して見ているオボロ。

 アミュはいつになく真剣な眼差しでクロネを見て、ブツブツ何か言っている。


「派手にしない……派手にしない……魔力抑える……抑える……」


 オボロには聴こえていたが、アミュの自主性と適応性を期待し、敢えて何も反応せずに見守った。


 トスクールとスコットは、クロネの黒い竜巻を不思議そうに、興味あるかのように見る。


(魔力の渦……?いや……風?)


(あんな魔法見たことねーな!)


 地面に落下して行く矢と投石を見ているだけの見物人達……。


「ま、魔法放ちます!」


 少し動揺しながら伝えるトスクール。


 城壁の小窓からアクアボール、ロックゲイザーが放たれた!


 闇巻きを解除しないクロネ。


 魔法も黒い竜巻に飲まれ上空へ放り出されてしまう。


 ……


「そ、それまで!」


 闇巻きを解除し、ちらりとオボロを見るクロネ。首を縦に振り返事するオボロ。


 驚き、ざわつく見物人達。


 トスクールは柵を外す合図をし


「では……はじめっ!」


 柵からフォリッドウルフがオボロの時と同じように、涎を垂らし勢い良く突進して来る!


 片手の指の間にそれぞれ二枚羽を挟み魔力を込めてフォリッドウルフ目掛け投げつけた!


 ━━「羽釘弾(うていだん)


 プシュップシュッ!


 二つの眼球に刺さり、地面に転げ回るフォリッドウルフ!


 じっと見ているクロネ……。


「お腹を空かせているようですわね……」


 閉じた羽扇子の先から小さめな魔法陣を展開するクロネ!


 ……震えるように四つ足で立ち上がるフォリッドウルフ……周りが見えず鼻をひくひくさせ……涎まみれの舌を出し口を開けている!


 クロネはサッと目の前に向かい━━


 羽扇子の魔法陣から三発アクアボールを口の中へ放った!


 吸い込まれるように口から胃袋へ!


 ゴクン!ング!ゴックン!


 大量の水でフォリッドウルフの胃袋は満たされ……お腹が地面に着くほど膨らんでしまった!


 ふわっと後方へ飛びフォリッドウルフを見守るクロネ。


 お腹が満たされ過ぎたのか……低く悲鳴を上げて、その場に横に倒れてしまった!


「それまで!」


 トスクールの終了の声と共に、見物人の多くの男性達からの歓声が上がる……。


 目を細め見物人を少し(さげす)むように横目で見て……羽を大きく広げオボロの元へ戻るクロネ。その視線を何故か良い方に捉えてしまう人間の男性達……。


「そんなに派手にしなかったつもりですが……」


 小声で話すクロネ。


「どこも壊してないから大丈夫だろ」


 安心させるオボロ。


 アミュがオボロのハーフパンツを引っ張る。


「ねぇお兄ちゃん?これなら使っても良い?」


 と、魔操撚糸(ねんし)糸鋸(いとのこ)を出して見せた。


 しばらく悩み……


「城壁とか壊さないで、見物人にも当たらないようにすれば良いんじゃないか?大丈夫!アミュなら出来るさ!」


 魔操撚糸が垂れる両手をオボロは両手で包み込み励ます。


 にっこり笑みを出し、駆け足で訓練場へ向うアミュ。


 トスクールやオボロから離れて見学しているスコット。


(あの嬢ちゃんは……何か得体が知れねぇ……魔法使う感じなのか?)


 中央に進むアミュ。赤いエナメル質の靴のつま先を地面にコンコンと当てている。


 砂時計をひっくり返すトスクール。


「では……はじめっ!」


 合図と共に何故かオボロの方を向くアミュ!


「お兄ちゃんっ!クロネちゃんっ!見ててねっ!」


 両手を振って意気込みを伝えた。


 見物人達が、もう始まってると騒ぐ!


 オボロとクロネは、アミュに手を降り返す!


(アミュの後ろの首元の単眼なら問題無いだろ)


 そんな安心感で見ていた。


 アミュの後方から矢と投石が飛んで来る!


 頭と首元の赤い単眼が光る━━!


 両腕を広げ身体を回転させたアミュ━━


 飛んで来た矢も投石も、何かに斬られたように地面へ落ちた!


「魔操撚糸・糸鋸っ!」


 休まず両腕を横に振ったり、上下に振ったりその場で飛び上がり、宙で回転するアミュ!見物人達にはアミュが意味不明な動きをしているようにしか見えていない!


 どよめく見物人達……。


 トスクールとスコットは……かろうじてアミュが何をしているのか理解していた……。


(細い針?……透明な剣?……いや……あれは……糸、か?)


 凝視して確認出来るくらいであった!


(やっぱり長くすると……操作がダメだぁ……丁度良い長さが見つからないなぁ……)


 魔操撚糸の長さを調整しながら、矢と投石を弾きそして斬り落とすアミュ。


 ……


「魔法も、追加されますよー」


 トスクールは伝えた。


 それを聞きピタリとその場で動きを止め集中するアミュ!


 見ているオボロとクロネは……少しドキッとする!


(やらかさないでおくれよ?アミュよ……)


 ━━!


 見物人にはわからないが……アミュの首元の四つの単眼が……頬と顎に移動した!


 動かず魔操撚糸・糸鋸で矢と投石、魔法をも斬り落とす!


 隙を見て━━


 自分の周囲の地面に隙間なく五つの並列魔法陣を展開し発動━━!


「ロックピラーッ五本っ!」


 アミュを囲むように石柱が音を立て素早く天に昇る!


 石柱の中にはアミュ。


 その石柱に矢と投石は呆気なく弾かれ……アクアボールもロックゲイザーも通過すらしない!


(あら?アミュにしては……考えたのかしら?)


 驚くも少し嬉しいクロネ。


(破壊だけは……もう勘弁してくれ)


 祈るオボロ。


 アミュの五本のロックピラーを見て武者震いするトスクール


(中級魔法!それに五つも魔法陣を!あんな子供が?)


 石柱の中のアミュはセリーヌの言葉を思い出していた……。


 ━━たまたま工房の部屋で二人きりの時に━━


『ちょっと良いさねアミュ?……ブラックウィドウの中だけなら大人かも知れないが……外の世界、他の種族の中では……まだまだ子供さね!クロネとオボロちゃんを見て、しっかり勉強しなさね!……オボロちゃんはアミュに甘いから……さ』


 ……


「セリーヌ……アミュ、頑張るよっ!お兄ちゃんのお嫁さんになるんだからっ!」


 未だその決意は変わらぬアミュ!


 砂時計が全て落ちる……。


「そこまでー!」


 少し大きな声で伝えたトスクール。


 魔法陣を解除するアミュはオボロの方へ向きまた両手を振る。にっこりと微笑み手を振り返すオボロ。


 そして柵が倒れ中からフォリッドウルフが大口を開け、舌を左右に振りアミュ目掛けて突進して来た!


(やっぱりこっちかな?)


 両手を広げ……円を描くような動きをするアミュ!その大きさに魔法陣が自身の前に展開された!


 脇目を振らず突進して来るフォリッドウルフ!


「んんーっ!ロックピラーッ!」


 その大きな魔法陣から石柱が水平にフォリッドウルフ目掛け飛び出す!


 突進力と石柱の飛び出す力の戦い!


 どっすーん!


 フォリッドウルフ自慢の突出した硬い額が潰れ、首の骨が折れたかのように地面に落ちた!


 確認するまでも無く、意識不明。


「そ、それまでー!」


 歓喜とどよめきの見物人達!


「やったっ!」


 小声で喜ぶアミュは、テクテク歩きオボロの元へ。


 三人揃ったところでギルド長トスクールは


「皆さんお疲れ様でした。そして見事な内容です。とても新人冒険者とは思えない戦いぶり。元冒険者として、少し興奮してしまいました!」


(トスクールさん、元冒険者だったのか……どうりで体格が良い訳だ!)


 納得するオボロ。


「疲れたでしょうから、少し休憩をしたら私の部屋へ来て下さい。そこでギルドパスの発行をしますので」


 見物人達が色々感想を話しながら散って行く……。


(……手を抜いてた訳では無いだろうが……実力の半分も出してないんじゃねーのか?オボロさん達!)


 拳を強く握るスコット!


(これから同じ冒険者になるんだ……少しでも実力が知りたいねぇ……)


 ━━訓練場の中央へ走り


 ━━スコットは大声で!


「ちょーっと待ってくれねーか?」


 皆、スコットの方を見る!


「すまねぇ!トスクールさん……」


 幅の広い木製の大剣をオボロへ向け━━


「オボロさーん!俺の我儘なんだけど……付き合ってもらえませんかねぇ?」


 そのままの態勢で待つスコット!


 もちろん色恋沙汰で無いのは理解はしているが……男性から告白されてしまったオボロ……。


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