第5幕〜回帰と怪奇
スーデルの町近く━━
朝靄が濃く、梟っぽい鳴き声がする夜明け前……一つの大きな巣のハンモックで熟睡中のオボロ……両隣にクロネとアミュ……。
どこか誘われたような感覚━━
濃い霧の中に立ち竦むオボロ……。
徐々に霧が晴れ━━
骸骨がぶら下がっていた!
(どこだここ?……理科室の標本?)
さほど驚いていないオボロ。
カタカタ身震いする骸骨!
吊るされた鎖を自分で外し……数歩前へ歩み出る!
カタリ……カチャリ……
息を飲み込み━━話しかけるオボロ。
「な、何者?」
傾いた頭蓋骨を修正し
「何者?クックック……自分の骨だろ?」
オボロ「?」
「青葉……爽太」
━━!
(お、俺の骨ぇぇ?……もしかして……遺体発見されたのか?)
手をゆっくり差し出す骸骨の青葉爽太
「やっと見つけた……さぁ、一緒にナナを『見守ろう』」
(な、何を言ってるんだ、こいつ……)
そう思うオボロは
「お前が俺だろうが……誰だろうが……はい!そうですか!って即答は出来ない」
歯をカチカチ鳴らし笑う骸骨の青葉爽太
「死ぬ間際……自分でナナを『守りたい!』って願っていたじゃないか?」
(た、確かにそうだが……)
下を向くオボロ。
骸骨の青葉爽太は手を差し出したまま、さらに歩み寄り
「骨になったけど……やっとナナに会えたんだ!俺は思い残す事は無い……後は……ただただ……ナナを『見守る』……だけ」
━━!
(この内容だと……遺体は見つかったって考えた方が正しいな)
顔を上げオボロ……死ぬ間際の気持ちを必死に思い出す!
「……いや!俺は『見守る』なんてひと言も言ってない!『守る』って言ったんだ!ナナを!家族を!」
頭蓋骨が左右に揺れる……。
「なぁ……俺の骨なんだろ?……思い出してくれよ?……ナナを始めて抱っこした腕……ナナを肩車した両肩……ナナを膝の上に座らせ笑い合った日々……ナナとマキちゃんと手を繋いで散歩した日……」
オボロの問いかけで、身震いが激しくなる骸骨の青葉爽太!その身震いに耐えられずその場で崩れ落ち骨のパーツの塊になり、その頂点に頭蓋骨。
「オレハ……ナナヲ……ミ、マモルンダ……ミマモル……ンダ……」
そう言い残し頭蓋骨は骨の山から転げ落ちた……。
自分の頭蓋骨を手に取り、もふもふの胸元で優しく抱きしめるオボロ……。
「あぁ!お前は……『見守る』だけで良い……『守る』のは……俺の役目!」
強く自分の頭蓋骨を抱きしめるオボロ!
「それで……良いじゃないか」
━━オボロの【願いの首輪】がゆっくり点滅した!
抱きしめられた自分の頭蓋骨が……染み渡るようにオボロの中へ……。その後を追うように残りの骨が列を成してオボロに吸い込まれて行く!
(うん……うんうん!お前の気持ちは……痛いほどわかる!だって……俺も……青葉爽太、だから!)
熟睡中のオボロの身体がミシミシと鈍い音を立てた……。
スーデルの町・朝食後━━
メル達がD=Dへテーブル等を片付けている。
背伸びをするオボロ……。
両隣に来るクロネとアミュ……。クロネはオボロをじっと見つめ
「あのオボロ様?少し身長伸びました?」
確かに言われて見れば、目線が少し高く感じる……。起きたら何か身体がすっきりしたような……軽くなったような……そんな気はしていた。
「良く気付くなぁ!クロネは!多分少し伸びたかも!」
頬を染め照れるクロネ。
「あっ!いえ……常にオボロ様を見ていますので」
三つに割れた尾をパタパタさせ喜ぶクロネ。
背が伸びたオボロに対しアミュが羨ましそうに言う。
「アミュも寝たらおっきくなるっ?」
オボロはにっこりと笑みを浮かべ、アミュを持ち上げ高い高いをしてあげた。両手を広げ喜ぶアミュは、楽しそうな笑みを浮かべていた。
━━ん?……手?……いや指に違和感が……
アミュを降ろし、両手をグーパーと数回握る……。
……
━━!
(もしかして……さっきの夢?……それにしても……自分の骨を触れていた感覚は……残っている気が……)
指の関節が少し長くなった気配……。
落ちている小石を掴み、ピッチャーのフォームで投げると……ちゃんと握れたからか、良い感じで投げられた!それを真似するアミュ。フォームはヘンテコではあるが投げられてはいた。その光景を微笑ましく眺めるクロネ。
(オボロ様がまた成長されましたわ……。可愛らしい猫背のカーブが見られないのは……寂しいですが……)
スーデルの町━━
野営地から少し歩き出すと、麦畑へ向かう町民や冒険者らしき人間とすれ違う。どの人間も二度見し、距離を置き歩かれるほど異質なオボロ達……。
そして町の入り口へ。
門番とスコットが談笑していた。これはチャンスと考えオボロは話しかけた。やっぱり来ると思ってた、と言わんばかりな態度で迎えられるオボロ達。昨日とは違う簡単な服装なスコット。今日は冒険者は休みでギルドや雑用をする日と話してくれた。スコットは……気さくと言うか……馴れ馴れしい感じではあるが、オボロは嫌ではなかった。程よい気さくさで悪くない。クロネにもアミュにも、口調や話す内容を合わせるかのように話しかける。アミュは素直に聞くが……クロネは……人間臭さのせいか……怪訝そうに会話してしまう……。
「でーオボロさん?冒険者登録しますよね?何よりそれを先にした方が町中も動きやすいですから」
スコットは提案してくれた。
オボロはその提案を受け、丁寧に返事をする。
ギルドまでは町の中央の噴水広場の先にある。町並みはザザ村とは違い現代と馴染みのあるような作りの瓦の家や石造りの建物が並ぶ。
スコットの後ろを歩くオボロ達……。やはり猫の獣人、黒い羽のスタイル良い女性、ゴスロリファッションの子供……異色の組み合わせ……。二度見、三度見は当たり前……興味本意で近寄って来る者、恐ろしいと感じ避けて通る者……ヒソヒソとオボロ達の事を話す内容も……オボロの聴力だと普通に聴こえてくる。
(なんかここに住んでる獣人よりも……恐ろしい感じ……)
(襲われ無いように、戸締まりしっかりしなきゃですね)
(あの獣人の召使いか奴隷かしらね……)
(あんな小さな子供連れて旅とか……子供が可哀想だわ)
(おい!あの金髪の姉ちゃんスタイル良くねーか?)
(いや、あの幼い子も可愛らしいじゃねーか)
等々……やはり人間からしてみたら……興味はあるが……近寄りがたい存在なのだろうか……。
クロネはほぼ無表情で石畳をかぎ爪でカツカツ鳴らし歩き、アミュは周りを物珍しいそうに見渡しながら歩く。もちろん始めて見る人間にも興味津々な様子。
オボロの姿よりも、予想通りか……クロネとアミュが注目されてしまっていた……。
(んー何とかして、この町に馴染まないとな……)
冒険者登録よりも、そっちの心配の方が強いオボロ。
スーデルの町・ギルド━━
スコットさんの案内のおかげか騒ぎは起きずにギルドへ到着出来た。手を引かれギルドへ入るオボロ達。
数十人が集まれるくらいの広い空間にひと息出来そうな椅子とテーブルが並べられている。待機してるのか、ただ居るだけなのか数人冒険者らしき人間が、こちらをジロジロ見る……。
(獣人風情が……女連れてギルドかよ……)
(新人冒険者か?流しの冒険者か?まぁここでは俺が先輩だからな)
(珍しく獣人の冒険者か……同じ獣人として仲良くはしてーが……)
オボロの敏感な聴力で聴こえてしまう……。
隅のカウンターでスコットは気だるそうな受付の女性と、何やら話している。もちろんオボロの聴力で内容は聴こえてしまう。
(あーなるほど……だから少し嬉しそうなのか……悪気は無さそうだし乗っとくか)
オボロ達を呼ぶスコット。
「待たせちまったな!ここでギルドの説明と登録出来るから。受付のミティーラちゃんに聞いてね」
オボロ達の後ろの壁によりかかるスコット。
ミティーラはチラッチラッとオボロ達を見ながら、三人ぶんの紙と羽ペンを並べ
「はーい、じゃーここに必要な所記入ね……そしたら……奥でオーラか魔力の測定してギルドパス発行許可ね。その後ギルド長立ち会いで実技ね……わからなかったら私か……スコットに聞いて?」
元の世界と比べると、あまりにも雑な説明過ぎて苦笑いなオボロ……。
記入用紙をひと通り眺めるオボロ……。猫獣人の知識と経験から文字の読み書きは何とかなりそう。
『二人とも文字は書けるの?』
ブレインマウスで聞く。
『セリーヌから少しばかり……』
『アミュ書けないよ?』
『じゃークロネはわからなければ聞いてもらって……アミュのは俺が書くよ……それと出身地ってあるけど……ザザ村にしとこう』
わかる所だけ記入するオボロ達……アミュのぶんも記入し、受付のミティーラに渡す。
……
……
三人ぶんをひと通り目を通すミティーラ……。
用紙をパタパタさせて奥の部屋へ案内する。
突き当たりの部屋へ入るオボロ達……何故かスコットもスルリと入って来て部屋の隅に移動した。
事務作業中の筋肉質で体格が良いギルド長の机に用紙を置きミティーラ
「はーい……ギルド長、ご新規三人でーす。測定よろしくぅ」
ギルド長は羽ペンを静かに置き用紙に目を通す……。
━━!
(オボロ……少し前に町の出入りを許可した獣人!……後ろの女性達は……仲間か?)
顔を上げギルド長
「新規の冒険者登録と言うことで……私はこの町のギルド長のトスクールです。確か……以前町に入りたいと願い出たオボロさんで間違いありませんかな?」
目を合わせオボロ
「覚えててもらい恐縮です!間違いありません!」
目を合わせたままトスクール
「あれから全く町で見かけなかったものですから……他の町へ行ったものかと思いましてね……さて、測定ですが……」
別の机へ移動するトスクール。引き出しから二つの測定器を置く。
「こちらの丸い方がオーラ、そして四角の方が魔力となっております。得意な方でよろしいので手を乗せてオーラまたは魔力を注いで下さい。力量によって赤く中心から広がって行きます」
どちらも厚めなガラス製の板。
(とりあえず俺からしないとな……)
『セリーヌさんから二人は魔力量多いって言われてたと思うが……魔力抑えて測定してくれよ?』
ブレインマウスで確認しとくオボロ。
『ええ、承知してますわ』
『うんっ!わかったっお兄ちゃんっ!』
ブレインマウスで答えるクロネ、アミュ。
丸い測定器の前に立つオボロ!念の為自分もオーラを抑えることに……。
(やっぱりオボロさんはオーラの方か!)
部屋の隅で見ているスコット。
手を乗せ……
集中し━━
オーラを注ぐ!
丸いガラス板の中心が赤くなった!
じわじわと赤く広がって行く!
速さが増し全てが赤くなり━━
ミシッ!ミシミシッ!
中心から亀裂が勢い良く走り━━
ガシャンッ!ガラガラ……
丸い測定器が六等分になってしまった!
オボロ
(お、抑えたつもりなのに)
「あっ!こ、壊しちゃった?」
トスクール、スコット、ミティーラは唖然としてしまった!




