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第5幕〜戻らない過去そして決意

青葉ナナ→青葉爽太と青葉マキの一人娘。


水嶋サキ→青葉マキの姉、青葉爽太とは同級生。


水嶋ダイキ→水嶋サキの一人息子。


オボロ→青葉爽太の転生後の猫獣人。

 

 現代・11月上旬━━


 気温も下がり始め身体を動かすのが億劫になる季節……。災害事故現場では、地元の消防と遺族会ボランティアが発見されていない遺体や遺品を捜索していた。遺族会代表のサキは、週末にはなるべく現場へ行きボランティアや地元の人々と交流を図っていた。ホームページを管理してくれている爽太の同級生の本田君提案と根回しで、災害ドローンを借りる事が出来た!人が探せる場所はほとんどやり尽くしたからである。

 そして……災害ドローンで谷底を撮影することに。サキはこれに賭けていた!ナナが事故直後、爽太とマキを乗せた車両が見えなくなるくらいまで谷底に落ちたと、頑張って話してくれていたから。


 災害ドローンが深い谷底へゆっくり降りていく……。

 木々をすり抜け、薄暗くなる谷底へ……。


 モニターを凝視するサキ達……。期待を皆寄せている!


 ……


 谷底中心で災害ドローンがゆっくりと回転し谷底を映す……。


 ……


 もう一回……


 ━━キラッ!


 災害ドローンのライトに反射した物が!


 近くに寄る災害ドローン!


 モニター越しに緊張が走る!

 車両の運転席らしき所だけが、すっぽり窪んでいた!

 光った所をズームで映し出す……


 ━━腕時計!?


 限界までズームする災害ドローン!

 ……白骨化した手首に巻かれた腕時計!


 モニター越しでゆっくりとサキは崩れた!


(間違いないわ!……あれは爽太君の腕時計!マキも近くに居て欲しい……)


 爽太は現場でも壊れない防水加工で頑丈な時計を好んで着けていた。


 モニターを見ていた他の人は喜ぶ者、悲しむ者、安堵する者……各々の感情のまま時を過ごす。


 その日は見つかった喜びと遺体を掘り出す会議で終了となり、サキは翌日仕事があるため、皆に丁寧にお願いをして帰宅した。


 現代・12月24日━━


 世間ではクリスマスイブで笑顔が溢れている中……青葉ナナ、水嶋サキ、水嶋ダイキだけは浮かない顔で過ごすことになる……。

 冬休みに入ろうかと言う頃に担当してくれている奥原さんからサキに連絡が来た。ナナの両親の遺体の鑑定が完了したので確認と引き取りに来て欲しいと。サキは先月に爽太の遺体が発見された事は知っていたが、確証が持てるまでナナとダイキには話していなかった。それまでは、仕事も手に着かずナナとダイキがリビングで笑い合う姿を見ては……遺体の話をどう切り出すか悩んでいた。


 今年の誕生日で、ようやく現実を受け止められるようになったナナ。サキが思い切って話を切り出した後は、二人とも悲しい表情はしていたが、どこかホッとしたような雰囲気も見られた。


 車内━━


 奥原さんの勤務している警察署まで車で向かう。乱層雲が発達し気温は低く、暖房を効かせても息が白い。


 ダイキは助手席でスマホの画面を見てはいるが……どこか上の空……。

 ハンドルを握るサキも運転に集中してはいるが……ぼんやりしている……。


(ようやくマキと爽太君に……会える……どういう顔で会えばいいのかしら?笑顔?それとも……悲しい顔で?)


 など色々想像していたサキ。


 ナナは━━


(パパ……ママ……ようやく会えるね……ナナ頑張ったよ!パパの言う通り笑顔で……乗り越えられたと思う!……ママのアップルパイ……また食べたいよ……)


 様々な気持ち、思い出が巡るナナ。


 サキから誕生日プレゼントのネックレスに通された、爽太とマキの結婚指輪を優しく手で包み込むナナ。


 警察署━━


 奥原さんに案内され、地下の一室へ……。薄暗い廊下……どこか寂しげな雰囲気……。


 キィィィ……


 扉が開き、奥原さんを先頭に入る……。


 部屋の中央、二つのステンレス製の台にそれぞれ人型で骨が並べられていた……。爽太とマキの体型や顔を知るサキ達には、今にも起き上がりこちらを見て微笑みそうに見えてしまう……。


 色々説明してくれる奥原さん……。ほとんど頭に入らない……。サキもナナも……声を荒げて泣き、ダイキは我慢はしているが涙が溢れていた。


 目頭を押さえ奥原さん


「……この度はご冥福お祈り申し上げます……こちらがですね……発見時の写真です……いやはや……お二方共に……素晴らしい精神力、忍耐力の持ち主ですな……」


 と、数枚の写真を机に置いた。


 土砂や石を退かして白骨化した遺体をむき出しにした写真……。


 運転席と助手席で指と指を絡ませ合い、手を握り合って寄り添うような二人……指の骨と骨が完成されたパズルのようにはまっていた!……そして二人の手首には……腕時計……。


 まるで━━


『最後まで離れないよ』


 と言わんばかりな末期(まつご)……。


 そう考えてしまうと皆喉を詰まらせ想いを募らせ……声にならないくらい泣いてしまう……。


 悲痛な泣き声と鼻をすする音が室内に悲しく響く……。


 ダイキは発見された遺品の爽太の時計を見つめていた……。


(爽太兄さん!……俺……やりたい仕事見つけたよ!応援してくれよな!)


 透明なビニールに入れられた時の止まった爽太の腕時計を触り、何かを決意したダイキ……。


 それに合わせるかのように妹マキの腕時計を見つめていたサキ……。


(ようやく会えたね……マキ?ひたすらに走り続けた私を……褒めてくれないかな?……マキの代わりにはなれないけど……ナナちゃんを立派に育ててみせるから!……それで良いよね、マキ?)


 マキの遺品のガラス面に亀裂の入った時の止まった時計に、そっと手を触れるサキ。


 床に伏せて悲しく泣いているナナ……。


(……私……独りぼっちになっちゃったよ……でも……パパとママに会えて良かった……頑張って、頑張って助けを呼びに行ったのに……ごめんなさい……)


 何か温かな温もりを身体に感じたナナ━━


 ━━ママの匂い!?


 その場で顔を上げ、辺りを見渡す……。


 特に何も変化は……無い……


(パパ、ママ……私を見守っていて下さい!サキさんとダイ兄と、きぬとおぼろで仲良く生きて行くから!)


 床には水溜りのような涙……。


 ハンカチで涙を拭うナナ。


 ……


 三人落ち着いた所でそれぞれの骨壷に骨を祈りながら詰め、泥まみれの遺品全てを、きぬとおぼろの待つ青葉家へ持って帰った……。


 ありきたりではあるが……


『無言の帰宅』


 乱層雲から細かな雪が舞い降りて来た……。



 white Xmas……



 ……white bones Xmas



 ガイアール━━


 スーデル町近くで野営中のオボロ達……巣のハンモックで就寝中……。


 ミシミシ……ミシッ……ミシミシ……。


 身体中から鈍い音がする就寝中のオボロ……。


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