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第4幕〜もうすぐ誕生日

 

 現代━━


 青葉ナナ 13才 中学2年生

 水嶋ダイキ 16才 高校1年生

 水嶋サキ 36才 絶対定時の商社OL ダイキの母 ナナの叔母


 7月7日━━青葉ナナの誕生日である。


 梅雨の中休みの7月初め━━


 青葉家の夕飯後、キッチンで片付けをするサキとスマホをいじってるダイキ。ナナは期末テストも終わりソファーでバラエティー番組を、デザート代わりの冷奴を頬張りながら見てる。白猫のきぬはご飯も食べ終わり食器棚の上からおぼろも含めて観察中……。キジトラ柄のおぼろはナナの近くで毛繕い中……。

 成猫になったおぼろは、多少落ち着きが出て来て、相変わらず眉間の菱形の傷は……そのままである。

 子猫の頃は勝手がわからず、壁紙で爪研ぎ……カーテンを登ろうと爪を立ててはビリビリに破く……やはり一番は……サキのお気に入りのセーターでふみふみをしたあとに……粗相をしてしまい処分することになった事!片付けが一段落したサキがシンクにもたれ掛かり、そんな事を思い返していた……。


(猫を飼うって……大変なのね……まっ!和むから良いけど!)


 エプロンを外しテーブルでコーヒーを飲むサキ。


 突然TVの音が消えた━━!


 おぼろを抱っこしたナナ


「ねぇ?サキ叔母さん?……パパとママは……まだ……お仕事なの?……海外出張って……そんなに……長いのかなぁ……」


 寂しそうに顔が歪み……訴えるナナ……。


 退院した当初は、国内に出張と伝えていたが……騙しきれる訳が無く……海外出張へゴリ押しに変更してナナには嘘をついていたサキ。


 大きくため息を吐き出すナナ。


「んー手紙とか送ってくれても……良いのにな……」


 と、弱く呟く。


 未だ診療内科に通院しているナナは、情緒不安定な時がしばしばある。無意識に嫌な事を拒絶し、両親が帰ってくる事を信じているのだろう。


 と、おぼろを床に下ろしナナ


「あっ!お風呂先に入って来るね。んーおぼろはぁ……また今度ね!」


「ナーオ」


 ひと鳴きするおぼろ。


 成猫になってから鳴き声が変化したおぼろ。子猫の時は愛らしく「ミャーオ」だったが……今は『ナーオ』と鳴く事が多い。


 サキは迷っていた……。

 このまま嘘を突き通すか……きちんと話すか!ナナの誕生日を過ぎれば事故から一年になる……。


(ねぇマキ?私はどうするべき?)


 そんな事を思っても返事などある訳ないはずなのに……。


 と、食器棚上のきぬと目が合ってしまう!

 見つめ合うサキときぬ……。


(なんかマキに見つめられている感じ……)


 きぬの目がゆっくり瞬きした!


(やっぱり……嘘は良くないよね……爽太君も嘘は嫌いだったもんね……)


 決心したサキ━━!


 お風呂中のナナの隙を見て、ダイキに明日、ナナにきちんと話す事を伝えた。口をポカンと開け驚くダイキは


「……上手く行くと良いな」


 と、答えただけであった……。


 翌日━━


 夕食を食べ終えた青葉家……。

 ほぼ昨日と同じ光景……違う事はサキが片付けを素早く終わらせた事。ナナが美味しそうに玉子豆腐を食べている事を確認し、2階へ上がりノートパソコンを持って来てリビングのテーブルに静かに置く。深呼吸し……サキはナナを呼び椅子に誘導する。


「えーとね……ナナちゃんに見てもらいたいのがあるんだ」


 と、画面を操作し、とあるホームページに繋げた。


 ━━○○町土砂災害と事故の遺族会━━


 目だけを動かし画面を見るナナ……色んな情報が目から脳へ伝達される中━━

 目に入ったのは……顔写真付きの遺族会代表がサキだったこと!!何度も画面とサキを見比べるナナ……黙って何度も頷くサキ……。


(私のために?……そして……パパとママのために……?)


 ナナの目の奥から、今まで溜めていた涙が……押し出されるように一気に流れる!


 ダイキがそっとティッシュ箱を差し出す。


 黙って受け取り……ティッシュで涙を吸わせるように当て、最近とは違う笑顔で


「ダイ兄……優しいね……パパみたいだよ」


 こんな時に不謹慎だが……その言葉と笑顔に少しドキッとしてしまうダイキ!


 サキは画面を動かし、応援と励ましの声の所で止めた。


 ティッシュを丸めゴミ箱へ放り込む……そのティッシュを『ナッ!』と掛け声を出し、目で追い、走るおぼろ……見事ゴミ箱にシュートされるティッシュ!ゴミ箱の周りを匂いを嗅ぎながらウロウロするおぼろ……。


 遺族会に協力したり賛同した日本全国の多くの人々の声が寄せられていた……。パパとママの同級生や友人……会社の人……二人に関わった人の応援、励ましのメッセージ!

 ひとつひとつ目を通すナナ……。

 また涙が溢れてくる……画面が涙で歪み上手く読めない……。

 ティッシュを目に当てがいながら読み進めるナナ……。

 ママへのメッセージには……どの人も

『料理上手なマキちゃん』

『本当は芯の強いマキちゃん』

『笑顔が綺麗なマキちゃん』のどれか一つが書かれていて、ママの事を知ってる人達なのだと感じたナナ。

 パパへのメッセージも同様で……

『ちょっと鈍感だけど……ここ一番で頼りになる爽太』

『気配りと優しさの爽太』

『爽太の言葉は人を動かす』など……どれか一つは書かれていて、ナナの知らないパパの人柄が見え隠れしていた。

 一時間ほど経つだろうか……テーブルの端を強く掴み、噛み締めるようにメッセージを読み進めるナナ……。


 静かに口を開くサキ……


「ナナちゃん?パパとママは……こんなにも大勢の人に……信頼され…愛されていたわ……そんな二人から産まれたの、ナナちゃんは!」


 コクンコクンと頷くナナ……。


 そっとナナの手を包み込むサキ!


「だから……もう逃げなくて良いの!……泣いた顔は……もうお終い!……妹の……マキのような笑顔を……また見せて!」


 ガリッガリッガリッ


 おぼろがキャットタワーで爪研ぎをしている……。


「……いつか……パパもママも……帰って来るんだ!って、言い聞かせてた……それでも……不安とか疑いとか……色々頭の中で……ごちゃごちゃになって……うぅぅ……ひっひっくっ」


 強くナナの手を握るサキ


「……言いたい事、みんな吐き出しちゃいなさい……」


 啜り泣きながらナナ


「……ありがとうサキ叔母さん……。あの日の事……考えたく無くても……色んなきっかけで……急に現れて!……受け止め切れなくて……目を背けて……でも!逃げては行けないって自分も居て……」


 テッシュで涙を吸い取るナナ。黙ってナナの声に寄り添うサキ。


「病院で目覚めた時も……パパの声で励まされて……目覚めたの……だから……パパもママも生きているんだって思ってた……でも病室に来たのは……サキ叔母さん……だけ……」


 ザーリザーリーザリザリ


 おぼろの毛繕いの音……。


「……現実を受け止めようって……必死に笑顔を作って……笑って過ごそうって決めたの!……ある時、鏡を見て……これは私の……笑顔じゃない!……ただの笑った顔の仮面みたいだって!」


 涙が一筋流れたサキ……。


「サキ叔母さんやダイ兄……モモカちゃんやクラスメイトに……寂しいとか……悲しいとか……つらいとか悟られないように……その笑った顔の仮面を付けて……あの事故の日から今まで……過ごしてた……」


 ジュースを一口飲むナナ。


「……この遺族会のメッセージを読んで……やっと……笑えるように……なれる!」


 笑った顔の仮面に亀裂が入った!


「……パパ、ママ……助けは呼べなかったけど……私は生きています!……ごめんね……」


 テーブルに伏せて大泣きするナナ!


「うわぁ━━━ん!ひっくっひっひっ!うわぁ━━ん!」


 大粒の涙が仮面の亀裂から漏れ出し━━


 笑った顔の仮面が━━


 崩壊した!


 テーブルに伏せたままのナナ


「うぅぅ……ぐすっ……明日から……『サキさん』って……呼んでも良いの……かな?」


 伏せたままのナナの顔は……泣き顔から……照れた顔に変わっていた……。


 ━━!


 目を丸くし、息を吸い込むかのように驚くサキ!

 優しく包んだ手はそのままで……


 ナナの座る椅子の後ろへ……


 テーブルに伏せてるナナに、被さるように身体を重ね……


 肩に顎を乗せ……


 耳元で……


「ダメよ……明日からじゃなくて……今から、にして?」


(ありがとう……ナナちゃん)


 その返事に、ナナは耳まで赤くなってしまった……。


 ダイキはリビング隣のソファーに座り、黙って話を聞いていた……。ナナがつらいのは理解していたが……どう接して良いかわからず、たまに冷たい態度をしていた自分が……不甲斐ないと感じていた……。


 おぼろは心配したのか……ナナの足元へ来て、スリスリ身体を擦りながら


「ナーオン……ナーオン……ナー……ンナー」


 と、鳴いていた……。


 さぁ!明後日はナナの14歳の誕生日!



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