第4幕〜名は『ホノカ』
「オレノ……マスター!!」
口を大きく開け━━
ボボォォォウ!
口から出た炎で包まれてしまうオボロ!!
━━!
叫ぶオボロ━━!
燃え盛る炎に包まれているオボロ!
「オボロ様がまる焦げに!」
「オボロちゃん?」
クロネとセリーヌはほぼ同時にアクアボールをオボロに放つ!
アクアボールで消火されるオボロ……。ぺったりした体毛になるオボロ……。
(え?俺……何された?……燃えて……そしてびしょ濡れ……)
振り返るオボロ……そこには━━!
透明感ある大きな二枚の羽。日焼けしたような小麦色の肌。オレンジ色のツンツンした短髪、後ろだけリボンで固く巻かれ綱くらいな太さの纏めた長い髪。おへそが見えるショートパンツに、大きな胸の膨らみが、ぴったりわかる水着のようなブラ。
身体からの湯気は無くなり、口から煙が漏れている一体のホムンクルスが浮いていた!
ペタンと地面に座りオボロ。目の前のホムンクルスを見て
「んーと……俺の事、火だるまにさせたのは……君かな?」
「マス……ター……オレノ……マス……ター……」
片言で答えるホムンクルス。
(もしかしてメルが生成した奴さね?)
身に覚え無いセリーヌは思った。
━━バタン!
勢い良く工房のドアが開き、メルとチビが叫びながら向かってくる!
「あぁー!師匠ぉぉ!マスター!その子……産まれたばかりぃ━━!」
━━!
(やっぱりさね)
予想が当たるセリーヌ。
息を切らせ、小麦色のホムンクルスの前に立つメル。ピシッと指差して━━
「ちょっとぉ?勝手に飛び出さないのっ!皆びっくりするでしょ?」
叱るメル。
(いやいや、すでにびっくりな事件は起きましたけど?)
同じ事を思うオボロ達……。
小麦色のホムンクルスは
「マスターニ……ハヤク……アイタ……カッタ」
と、塩らしく弁解する。
腕組みしてぷんぷんしてるメル。そしてオボロの方へ両手をパチンと合わせ
「ごめーんマスター!びっくりしたよね?メルが生成したんだよ!……て、あれ?マスターなんでびしょ濡れ?」
呆れ顔のセリーヌは……
「どうもこうも……オボロちゃん火だるまにされたのさね!私とクロネで直ぐ消火したけど……」
「え?なんで?なんで?」
チョロチョロ飛び慌てるメル。
オボロ、クロネ、アミュ、セリーヌ一斉に小麦色のホムンクルスを指差した!
背筋をピッと伸ばし、口から炎のブレスを空へ吐き出す小麦色したホムンクルス!
━━!
「あー!もおっ!マスターに何やってるのよっ?」
ぷんぷんしてるメル。
「アイタカッタ……マスター……ニ……」
「それはわかったからっ!」
メルの後ろにいるオボロをちょいちょい見ようとする小麦色のホムンクルス。しかし同じように動き見せまいと阻むメル!
「ほら!これからマスターの働き手として頑張ってもらうんだから!色々覚えてもらわないと……困るの!」
と、小麦色のホムンクルスの腕を取り無理矢理工房へ連れて行くメル。
「そー言う事だから、また後でね!マスター」
チビがパタパタと飛んで来て、緊張してるのか下を向いたまま
「マスター……セリーヌ……ゴメンナサイ……」
片言でペコリと頭を下げメルを追うチビ。
(あっ!チビちゃん会話出来るようになったんだ)
メル達が去り……広くなった庭に緩く山風が通過する……。
━━後日談ではあるが……
アミュが広げた庭は地上から見上げると、帽子を被ったように見えると噂になりいつしか『帽子山』と呼ばれるようになった。さらに小さな光る球体を見られたら幸運とも噂され、物珍しさに見物人も集まったと言う。光る球体は……山頂にセリーヌと住むホムンクルス達とは誰も知らない……。
ひとつため息をつくセリーヌ……。
「どうやらメルが一体成功させたらしいさね……」
(メルの奴、素材は何を使ったんさね……)
濡れたオボロに羽で緩く風を送るクロネ。
「セリーヌ?あのホムンクルス……話せてましたよね?」
「産まれて直ぐ話せたのはメルくらいだったさね」
遠目で答えたセリーヌ。
ブルブル身体を震わせ水気を取るオボロ。
「消火ありがとう!……でも、良くわからないけど……全く熱くなかった……」
と、皆に伝えた。
「とにかくオボロ様が無事で、安心しましたわ!」
「そんな炎もあるのかもさね」
「お兄ちゃんっ!火だるまっ!火だるまっ!」
と、クロネ、セリーヌは話し……アミュに至っては面白がっていた……。
工房内・奥の部屋━━
メルに引っ張られる小麦色のホムンクルス……。
ドサッ━━!
目の前に一冊の厚めなノートが落とされた!
「はいっ!とりあえずこのノートを読んで、しっかり心構えと注意点を覚えてね!」
ふわりふわり浮きながら指示するメル。
……
床にあぐらをかき、ノートから目を逸らしている小麦色のホムンクルス。
「……イ……ヤ……ダ……」
━━!
(なんて反抗的な!チビちゃんは素直だったのに)
ノートを広げ無理矢理見せるメル!
「はいっ!ほらっ!」
━━ボォォウ!
口から吐き出された火でノートが炎に包まれた!
「あ━━━!私の……長年の結晶がぁ━━━━!!」
強く嘆くメル!
実はこのノート……ホムンクルス達の教育用で、心構えや注意点、働き方、その他諸々の知識などがまとめられた一冊!セリーヌとの生活の中で長年培ったメルの経験も綴られた大切なノート!
「ダイ……ジョウ……ブ……モエ……ナイ」
片言で説明する小麦色のホムンクルス。
━━!
ノートが熱いと思い、お手玉状態のメル!
「ん?あれ?……本当だ!」
ノートを摘んでパタパタと振る。
と、少し慌ててチビが来た。
「メル?……ナニカ……アッタ?」
心配するチビ。
「ううん、大丈夫よチビちゃん!」
と、肩に手を添えるメル。
メルとチビの会話のやり取りを聞いていた小麦色のホムンクルス。二人に飛んで近づき……
「……メル?……チビ?」
それぞれ指差す。
「そ、そう!私はメルで、こっちがチビちゃん」
「……メル……チビ……。メル……チビ……。メル……チビ……」
それぞれ指差し、最後に自身を指差すが……言葉が出て来ない小麦色のホムンクルス……。同じ事をしばらく繰り返す……。徐々に悲しそうな表情になって行く……。
「……ヨバレ……タイ……マス……ター……ニ……」
切ない表情でメルに訴える!
(この子……名前が欲しいのかな?)
「よぉしっ!わかった!私が付けてあげるっ!」
目を輝かせたメル!
首を真横に激しく振る小麦色のホムンクルス!
「……メル……チガウ……ヨバレ……タイ……マスター……ニ!」
━━!
拒絶された事に多大にショックを受け、床に伏せってしまうメル!そもそも、ちゃんと話を聞いていれば、そうにはならなかったと感じていたチビちゃん。
気を取り直しメル。
ヨロヨロと浮かび……
「わ、わかったわ!マスターに名前呼ばれたら……私の言う事、聞いてくれる?」
……
……
「……ワ……カッ……タ」
と、口から煙が漏れる小麦色のホムンクルス。
(なーんかスッキリしない返事!)
と感じてしまうメル……。
庭━━
オボロの跳ねた体毛の背中をクロネとアミュがそれぞれ手櫛や手のひらで整えていた……。セリーヌも参加したかったが……そこは大人対応で我慢していた。
そこへ━━
小麦色のホムンクルスを連れて現れるメル!
事の経緯をオボロに説明したメル。後ろで上空に炎のブレスを吐き出しアピールしている小麦色のホムンクルス。燃え盛る炎をアミュは楽しそうに見ていた。
「……て、事で……この子に名前を付けて欲しいのマスター?」
腕組みするオボロ……。
頭を抱えるオボロ……。
(あー俺センス無いからなぁ……。クロネの時は喜んでくれたから良かったけど……)
ふぁさぁ……!
オボロの背中に優しく羽が触れた!
「オボロ様?私の時と同じように付けて差し上げればよろしくて?」
と珍しく優しいクロネ。
「あ、ありがとうクロネ」
メルの後ろで炎のブレスを吐き続けてる小麦色のホムンクルス……。
(この子は火が使えるのか……俺達には火を扱えるの居ないから助かるな…)
……
(火……燃える……炎……焦げた匂い……)
良し決めた━━━!
「おいで」
手招きし、小麦色のホムンクルスを肉球の上に立たせるオボロ……。
「ホノカ」
━━!
何か肉球からオーラを一瞬抜かれたような気がしたオボロ!
そしてホノカの髪が変化し、炎のようにゆらゆらと揺らめいだ!
肉球を土台にし、真上に飛び━━
口から息を吸い込み━━
一気に炎のブレスを吐き出した!
炎が空を埋め尽くすほど広がった!
真上からオボロを見下ろし━━
「ウン!オレ、ホノカ!オレの事、よろしくな!マスター!」
と、元気良く伝えたホノカ!
見事な火力に驚いているオボロ達……。
【能力】
・ホノカ
ファイアブレス(温度調節付き)




