第4幕〜アミュのリュック
全員揃った工房の大部屋。
毎回来ても散らかっている……。ホムンクルスらが慌ただしく片付ける光景も、見慣れてしまったオボロ達……。突っ立てるクロネを気遣い、セリーヌはちょうど一人分スペースあるソファーをツンツン指差し
「ほら突っ立ってないで座りなさ?」
━━!
(オ、オボロ様のと、と、隣!)
嬉しさをひた隠しオボロの隣に座るクロネ。オボロの膝の上にはアミュ。
わざとらしくセリーヌ
「こう見るとぉ……なぁんか……家族って見えなくもないさねぇ」
と、追い打ちをかけ、クロネに向かってウィンクする。
(案外クロネも構いがいあるさねぇ)
━━!
(なんでウィンク!?しかも……か、か、家族!?やはりセリーヌには見透かされているのね……)
オボロと目が合ってしまい顔を下にしてしまうクロネ。
(……どう見ても私がオボロ様のつがいで……アミュが私達の子供みたいしゃない!確か小猿達にも同じように思われていたわね……)
隣のオボロは頬を爪で引っかき……照れていた……。
(家族、かぁ……なんか照れるけど……ここでは仲間も家族みたいなものだな)
ここでオボロの感覚とクロネの妄想のズレが……生じてしまった!
セリーヌは、今回の騒動の説明と謝罪をした。途中メルが、有りもしない事を付け加えたりして、セリーヌと漫才してるのかと感じてしまう。説明と謝罪を受け入れオボロは、こちらも中々戻れずに心配かけた事を謝った。そこはやはり気になってたセリーヌ。自分の研究机の椅子に座り、何があったのか話して欲しいと言われた。
……
洋館で赤い魔石を手に入れた後、世話になったザザ村へ様子を見に行き、長老にはぐれ島で猿を助けて欲しいとお願いされた。そこで長老が海神リヴァイアサンと知ったこと。海神の保護している亀孔雀に乗りはぐれ島へ。そこでは狂暴的なサハギン達を戦闘の末追い払った。しかしサハギンとの戦闘で、猿達の個体数が減った為、長老にお願いしてザザ村へ猿達を移住させたと。順を追って説明をしたオボロ。
体調が良くなったのか、ちびりちびり酒を呑みながら聞くセリーヌ。
(ほぉ……海神に認められるとはねぇ……。はぐれ島、ねぇ……人や獣人が行くような場所じゃないさね……しかし、オボロちゃんに関わってると退屈しないさね!)
「……色々と経験して来たってことさね?」
頷く一同。
オレンジ色の夕陽が窓から射し込む。
今夜は、メル達ホムンクルスも交えての食事となった。
━━翌日
床に図鑑を広げ眺めているアミュの前に━━
「おっ待たせっ!アミュっ!」
と、頼まれていたリュックを元気良く持って来たメル。以前駆除したギャメレオンの鱗と革の深緑色の小さなリュック。鱗は磨き加工し光沢ある深緑。開閉部分には赤の可愛らしいリボン。メルから受け取り両手で持ち上げ、くるりくるりと周り大喜びなアミュ!リュックを背負って首を動かし見て、にんまりと喜ぶ!
その喜ぶ姿を微笑ましく見ていたオボロ。中に何を入れるのか凄く気になった。
(なんかランドセルを初めて背負ったナナみたいだな)
ナナとアミュが重なって見えてしまうオボロ。
みんなに、にこにこしながら自慢しているアミュ。
と、オボロはセリーヌの所へ行きD=Dから小箱を取り出し、中身を見せた。ぎっしりと詰まったシーサーペントの鱗。お詫びとお礼を兼ねて、数十枚ほど譲った。セリーヌとしては売っても良し、素材としても良しなアイテムでとても喜んでくれた。
一方その頃クロネ━━
庭の椅子に座り景色を眺め呆けていた……。
セリーヌとの戦闘と会話した内容……。魔法だけでは太刀打ち出来なかったこと、自分の気持ちが見透かされていて、戦闘でも会話の時でも、試されていたのでは?と感じていた。
(これから魔法を使う敵が来ないとは限りませんわ!オボロ様のために……いや!自身のために!)
何かを決意したクロネ!
と、工房のドアが開き━━
自作の歌を歌いながらスキップして出てくるアミュ!
クロネを見つけて猛ダッシュでリュックを自慢しに来る!
サッと後ろ向きになり、身体を左右に揺らし完成したリュックを見せつけた!
「クロネちゃんっ!クロネちゃんっ!メル達がねっ?作ってくれたのっ!お兄ちゃんとぉお揃いっっ!!」
もの凄く嬉しそうなアミュ!
「可愛らしいわねアミュ。気に入ったのかしら?」
頬杖を付いて話しかけるクロネ。
(あの中に何を入れるつもりなのかしらね?)
オボロと似たような感想を持つ。
両肩の革紐を手で握り、くるりと振り返り
「もっちろんっ!!」
満面の笑顔で答えるアミュ!
話題を変えるクロネ。
「ねぇアミュ?私とセリーヌの戦いは見てたでしょう?これからセリーヌのような魔法使う敵と戦闘になったら……アミュは大丈夫かしら?」
アミュの心配と心構えを知りたいクロネ。
口からニョキッと牙を出し……モゴモゴし……恒例の悩みタイム……。
……
……
「んー?アミュなら大丈夫だよっ!それにぃ……王子様が助けてくれるからっ!」
そう答えて、両手を翼のごとく広げ庭を駆け回るアミュ!
ため息と同時にテーブルに突っ伏すクロネ……。
「あの子に聞いた私が……間違っていたわ……」
(アミュは……ある意味……何も知らない方が、幸せかも知れませんわね)
━━!
「いったーいっ!」
顔を上げ、声のする方を見るクロネ。
地面に前のめりで転んでいるアミュがいた!
(あらあら……はしゃぐから……)
立ち上がりアミュの元へ行くクロネ。
前のめりで転んだのに、リュックを手に取り、汚れていないか?傷はないか?と細かく確認してるアミュ。
歩きながらクスクス笑ってしまうクロネ。
「大丈夫よ?アミュ?どこも汚れてないわよ」
手を取り立たせるクロネ。
アミュのゴスロリメイド服に土や石ころが付いてしまっていた!クロネは自分の羽先を箒のようにしサッサッサッと払ってあげた。
アミュの顔を見ると……顔が緩み泣きそう……。
(まだまだお子様ね)
アミュを羽で包み両腕で頭を抱え込み、頭を撫でるクロネ。
━━むぐむぐっ!
息苦しそうなアミュ!!
「ぐろねぢゃんっ!ぐるじぃよぉ」
訴えるアミュ!
少し緩めるクロネ。
「なんか放っておけなくて……つい」
本音が漏れてしまうクロネ。
クロネに包まれているアミュ。
「クロネちゃん……なんか……マザーみたいに……優しくて……温かい」
その言葉に答えるように、再び頭を撫でるクロネ。
━━!
(ダリル達にも姉さんと呼ばれ……ゴーラにも年上扱いされ……アミュに至っては……マザーのようだと……。きっとオボロ様も私の事を……)
何となく自分がお姉さんキャラ、と言う認識をするようになったクロネ……。
落ち着いたアミュを隣に座らせ、クロネ自身も座る。
「ねぇアミュ?一つ聞いて良いかしら?」
真っ直ぐ空を見てクロネは聞く。
隣で首を傾げるアミュ。
「リュックの中は何を入れるのかしら?」
リュックをお腹に抱えているアミュ。
「んーとねっ!あの甘い果物っ!」
「それは……ひょうたん梨ね」
「うんっ!それっ!いつでも食べられるからねっ!」
にこにこして答えるアミュ。
続けて━━
「あとは━━お兄ちゃんとっ!クロネちゃんとの……旅の想い出っ!」
牙をニョキッと出し、振り子のようにカチカチ鳴らしてクロネに微笑みかけた!
━━!
その言葉と笑顔に、思わず声を出し涙が溢れそうになり、咄嗟に口を手で押さえ堪えたクロネ!!
(私を感動させようとしたの?……たまに良いこと言うから……心に響いちゃったじゃない!)
「それなら……楽しい想い出いっぱい作らないとね?私と……【アミュの王子様】と、でね」
アミュの背中を羽先で、優しく叩くクロネ。
二人のやり取りを離れて見ていたオボロ、セリーヌ、そしてメル。
オボロの肩に手を乗せるセリーヌ。
「クロネもアミュも良い子さね……」
目が潤んでいるオボロ……。
「……はい……セリーヌさん」
(クロネもアミュも、確実に精神的に成長してる)
「血の盟約……勧めて正解さね」
「はい……感謝してます!……クロネもアミュも……上手く説明出来ないけど……人間が持つ色んな感情が芽生えたような気がします!」
クロネとアミュの並んだ背中を……じっと見つめながらセリーヌに告げるオボロ。




