第4幕〜crossed memories━━交差する記憶
焼けた大地から煙が立つ……。
隆起し、割れた大地……。
散乱した大木や砕かれた岩……。
恐竜が暴れたのかと思うほど、景観が変わってしまった。
(魔法での戦闘って……こんなに派手で……恐ろしいのか……)
セリーヌとクロネの戦闘を間近に見たオボロは……魔法の恐ろしさを体感したようになった。
地面に倒れてるクロネとセリーヌ。
魔獣化したアミュに無理を言って二人を乗せ、メルを呼び、移動魔法陣で工房へ戻る……。
工房━━
セリーヌはソファーに寝かせ、クロネは奥の部屋のベッドで休ませる。人型に戻ったアミュが心配そうにしていた。傷だらけのクロネを見つめているオボロ。応急処置ではあるが身体に触れチャクラで痛みや傷を軽減させる。
(無理をしやがって……もっと早く二人を止めるべきだった!)
後悔していたオボロ……。
何かクロネの身体が熱い!
息が荒くなるクロネ!
額を触ると……かなり熱い!
後ろで見ていたアミュ
「お水持ってくるよっ!お兄ちゃん!」
と言い残し部屋を出て行った。
セリーヌはメルやホムンクルス達に任せていた。せっせと手当てや看病するホムンクルス達。メルは小窓の出っ張りに座り、ため息をつく。
(マスター達に、先に話しておけばよかった……)
セリーヌの突発的なストレス解消行動……『お説教』の事を……。不定期に開催されるこのお説教には悩まされていた。メル達ホムンクルスは、毎回必死に逃げて逃げて、隠れて、逃げて……と、生命を脅かされ苦労していた……。たまに当たり所が悪く、消滅してしまうホムンクルスもいたほどであった……。
「……師匠の……ばーかー!」
ポツリと呟くメル……。
クロネにチャクラを送り込んでいるオボロ……。アミュが桶に水を汲んで持ってきてくれ、早速使う。濡らした布を額に静かに置く……。
クロネは、うわ言で
「……オボロ……様……オボロ……様……」
何度も何度も名前を呼んでくれていた。
クロネの手を握りチャクラを送り、定期的に額の濡らした布を交換し手当てする。
そう━━
はぐれ島で初めて会ったあの時のように!
翌朝━━
セリーヌは目覚めソファーに座っていた……。ボサボサな髪……細かい傷跡……。頭を抱えるセリーヌ。
(はぁ……久しぶりにやってしまったさね……記憶が……曖昧さね……)
メルがすっ飛んで来た━━!!
「んもぉ━━!師匠のばーかっ!!」
顔の周りを飛び、両手をグーにし、ぽんぽん叩く!
「ばかばかっ!ばーかー!」
静かに両手を上げるセリーヌ。
「はいはい……またやっちゃったさね?……悪かったさね……」
テーブルに仁王立ちするメル!記憶が曖昧であろうセリーヌに経緯を話す……。穏やかな口調ではじまり、後半は早口になっていたメル。経緯を聞くセリーヌの顔が徐々に青ざめはじめた……。
「悪いことしちゃったさね……とくにクロネにはさ……目が覚めたら……謝らないとさね……」
反省してるセリーヌ。
メルはそのままセリーヌをお風呂へ向かわせた。その途中、こっそりクロネが寝てる部屋を除くセリーヌ……。
ベッドで眠っているクロネの隣にアミュが寄り添うように寝ていた。オボロはクロネのベッドに、床に座り前のめりでうつ伏せで、手を握りながら眠っていた。声をかけたかったが……どう言葉をかけて良いか躊躇してしまうセリーヌ……。メルに背中を押されお風呂場へ行くセリーヌ……。
……
入浴を済ませたセリーヌ……身体はサッパリしたが……気持ちはスッキリしない……。クロネが寝てる部屋を覗く……。まだ誰も起きてない……。メル達に起きたら教えてと伝え庭へ出て行った。
寝室━━━
アミュは看病に疲れ、眠くなりクロネに寄り添うようにベッドに潜る。床に座り込み、クロネの手を握りチャクラを送り続けるオボロは、そのまま寝てしまっていた。
微睡む意識の中……オボロは爽太の時の記憶が浮かんだ━━マキが高熱を出し寝込んだ時のことを━━
まだ結婚して間もない頃、アパート暮らししていた二人。急に倒れ病院まで連れて行き、薬をもらいアパートへ帰宅。薬を飲ませても中々熱が下がらず、一晩中寄り添い看病した爽太。あまり料理などしない、爽太が作る出来損ないのお粥を文句言わず食べてくれたマキ。翌日も仕事を休み看病し、見守った爽太。夕方には熱も下がり落ち着いたマキは……
一筋の涙を流した!
「……夢……を、見ていたわ……私のように高熱でうなされている……傷ついた綺麗な女性……良く聞き取れなかったけど……同じ言葉を繰り返し……言っていたの……」
たまに不思議な発言をするマキには慣れていた爽太。
「あっ……ごめんね爽太さん……気にしないで……」
ベッドから起き上がり、ベランダに出るマキ。爽太もベランダに出て隣に行く。
「ありがとう爽太さん……元気になったから大丈夫だよ!」
夕陽に照らされるマキの笑顔……。
高熱でうなされているクロネ。あの蜘蛛野郎の毒の高熱よりも酷いと感じていた……。と、頭の中にぼんやりとした映像を感じた!━━人間の男性が手をぎゅっと握り、「マキちゃん!マキちゃん!」と話しかけていた━━
(この名前は……確か……オボロ様のつがいだった女性……。と言うことは……手を握っている男性が……転生前のオボロ様!?)
残念ながら、顔ははっきりと見えておらず、気を落とすクロネ……。
(何か今の私と似たような境遇ですわね……)
続く映像……
男性がマキをお越し、湯気の立つ食べ物を口へ運んでくれていた……。
「お粥……初めて作ったよ……早く熱が下がると良いな」
水分の入った容器を手渡す男性。受け取る時に……二人の手が……重なる。
「あっ!……わ、わざとじゃないよ!」
照れている男性。
飲み終えたマキは微笑みかけ
「爽太さん……お粥……美味しかったよ……」
初めて作ったお粥を美味しいと言ってくれた事に、嬉し涙を流す爽太!マキをベッドに寝かせ、額に濡らしたタオルを優しく置いた。
薬が効き眠りにつくマキ……。
寝顔を見つめている爽太……。
握る手を解き……。
頬に優しく口づけをする爽太……。
「……マキちゃんと出逢えて……結婚もして……幸せです……これから先も……ずっとずっと……好きだよ」
━━ここでプツリと終了してしまった!
どこかモヤモヤしているクロネ。
(こんな記憶見せられては……反則ですわ……オボロ様……つがいのマキさんの事……やはり忘れられないのでしょうか?それとも、忘れたくても……忘れられない?)
とは言え……口づけの感触だけは妙にリアルだと感じたクロネ。顔が赤くなり高鳴る心音!
(つがいのマキさんの代わりにはなりませんが……今の私は血の盟約を交わした間柄!)
ゆっくり目を開けると━━
隣にぬくもりを感じる……毛布の中でスヤスヤ寝ているアミュ……。
(寝顔だけは……可愛いのにね)
目線を変えると━━!
先程の記憶と重なるかのようにオボロが、クロネの手をしっかりと握り眠っていた!
(オボロ様の記憶が……私に伝わってたのでしょうか……)
オボロの寝顔を見つめる……。
口づけの感触が、まだ残っている……。
オボロの手を解き、自分の頬を触るクロネ……。
(まさか……ね)
口元が緩むクロネ。
二人を起こさぬように、静かにベッドから出る。
ドアを開けると━━!
「ひーっ!」
飛んでいたメルに、ドアがぶつかりそうになる!
「あら?ごめんなさぁい」
「あー!クロネ熱下がった?傷は大丈夫?痛い所は?お腹減ってない?」
クロネの周りをちょこまか飛び回り質問攻めをする!
「え、えぇ……魔力もそれなりに回復したと思うわよ」
答えるクロネ。
メルに手を引かれるままに、お風呂場へ連れて行かれるクロネ。
……
(あぁ……羽がぁ……休まるわね……)
湯船に浸かるクロネ。
オボロのチャクラで応急処置してなければ、回復するのにもっと時間がかかっただろうと感じていたクロネ。
着替えをし、工房入り口の大部屋へ行くクロネ。
メルが飛んで来た。
「師匠には何があったか説明はしといたよ。えーと……師匠は悪気があって……したことでは無いってことだけは……信じて欲しい!……師匠、庭に居るから……話を聞いてあげて欲しいんだけど……」
……
「……そうね……釈然としませんし……」
静かに歩き工房から外へ出るクロネ……。
庭から地上が見渡せる場所に、背を向けて立っているセリーヌ!
カチリ……カチリ……と、かぎ爪で地面を踏み締めながら、セリーヌに近づくクロネ……。
振り返るセリーヌ……。
ビュビュビュ━━━!
二人の間に山風が通り抜けた!
目を細め顎を少しあげ、セリーヌの言葉を待つクロネ。
威圧感たっぷりなクロネを見て
(あらら……機嫌は良さそう……とは言えないさね……まぁ私の方が長く生きてるし……)
静かに口を開くセリーヌ……。
「メルから聞いていると思うが━━」
「━━ええ聞いてますわよ?」
話途中で切り返すクロネ!
━━スサッ!
被ったキャスケット帽が脱げ落ちるほどの速さで頭を下げたセリーヌ!!真っ青な長い髪が山風で乱れる!!
「この度は……ほんっとおぅぅぅにぃぃ!ごめんなさいっ!!」
見事に謝罪を体現したセリーヌ!
入浴中のセリーヌとクロネは、ご想像にお任せしますね。
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