第3幕〜長い寄り道
トツとのビーチウェポンを終え、クロネの羽で作ったふかふかな枕で、寝てしまっていたオボロ……。
……
ぴょこぴょこと耳が動き周囲の音に反応してる……。
(猿やマーマンの掛け声が聞こえる)
目を覚ますオボロ……。
若い猿達が漁から戻ってきたゴーラ達を手伝っていた。大柄なローグ、双子猿のリップとヤップも、捕れた魚を運ぶ手伝いをしていた。岩壁の上では、慣れているクロネが猿達を指導していた。背伸びをし、枕をD=Dへ戻し作業を見学するオボロ。今日は大物は捕れなかった雰囲気……。それでも投網が役立ったのか、小魚が箱いっぱいに何箱もあった!
クロネと共に村へ戻るオボロ。寝癖を見つけたクロネは指の櫛で撫でて直してくれた。クロネのちょっとした気遣いを嬉しく思うオボロ。対してクロネは、身だしなみくらいはしっかりして欲しいと感じていた。
村長の家の前では、メルの指示で、アミュが本を重ねて重たそうに運んでいた。上手にバランスを取り木箱に置く。聞けば長老宅にある本を交渉して譲ってもらったと。メル自身とホムンクルス達に知識を与えるのに使いたいと。オボロはD=Dを出して中に放り込んであげた。メルに頼んでいた物は完成したかと尋ねると、アミュの糸待ちとのこと。
本を運び終えたアミュ……。
ひと呼吸し……
魔獣化しお尻を扉が開放されてるD=Dへ向けた。
「うむむむむっ!」
珍しくアミュが唸った!
腹部が少し膨張し……お尻から白い糸が噴出した!勢い良くD=D内へ入って行く!太さは……現場でよく見かける黄色と黒のトラロープくらいか……。息を切らすアミュ……。まだ出すようだ。
「ぐむぅ……むむむむっ!」
同じように今度はかなり細目な白い糸を噴出し、D=D内へ飛ばす。
出し終わり両脚を広げ腹這いでぐったりするアミュ。
「メルは……蜘蛛使いが酷いよっ!お腹しぼんじゃったよっ!」
愚痴るアミュ……。
メルが甘い果物をたくさん抱えてアミュの前に置いた。ぐったりしながらも、モグモグ食べ始めた。
「アミュの糸は凄く良質でぇ丈夫だからぁ助かるぅ。あっ!クロネの羽も欲しいんだけど」
と、今度はクロネに白羽の矢が立つ!メルはブレインマウスで
『お肌とかぁ毛艶がぁ……良くなる薬草や飲み物作れるようになったら……上げるから』
━━!
突然魔獣化するクロネ!
羽の中に嘴を入れ一心不乱に羽をむしり取る!見る見るうちに黒い羽の山が完成し、羽の風圧でD=Dへ飛ばして入れた!
人型に戻りクロネ、一つ咳払いし
「メル?これくらいの協力なら惜しみませんわよ!」
その場で小さく飛び回り喜ぶメル。
「クロネ!アミュ!協力ありがとう!これからの旅と、マスターの為だからねっ!」
メルは賄賂的な交渉で、羽と糸を獲得した!
(確かに羽も糸も生活には必要かもな)
みんな居るから丁度良いと、そろそろセリーヌさんの所に戻るつもりだと、皆に伝えるオボロ。クロネもアミュもメルも賛成してくれた。
夜の食事時━━
ゴーラは皆に、オボロ達がそろそろ出発することを伝えてくれた。食事前に長老とゴーラ、ダリルには伝えておいた。お互い名残惜しいが、また会える事を願って、普段の食事から宴へと変わっていった。
すでに酔っ払っているダリル……。マーマン達や若い猿に呂律の回らぬ口調で絡む……。トツもミリルも、こんなに酒癖が悪かったか?と思っていた……。それぞれ色んな想いや願いがある中、宴は終わり就寝につく。
……
……
巣のハンモックで3人仲良く就寝中……。目が覚めてしまったオボロ……。アミュが居ない!巣から降り村内を見渡す━━!
中央の大木に魔獣化したアミュが糸を垂らし揺れていた!暗闇でもわかる8つの赤い単眼と腹部の8本の赤いラインで直ぐに見つけられた!
「アミュ起きちゃった?」
大木を背もたれに座るオボロ。
糸を伸ばし地面スレスレまで下がるアミュ。
「うーん……なんか起きちゃったっ!」
「明日にはセリーヌさんの所へ向かう予定だから、ちゃんと寝とこうね」
牙をくるくる回してるアミュ。
「ねぇ……お兄ちゃんっ?マザーが言ってたの……この世界には沢山の種類の生き物が居るって。お魚さんとか、お猿さん、鳥さん、犬さん……」
静かに聞くオボロ。
「アミュも……その中に……居て良いんだよね?」
(アミュにしては、真面目な話題……やはり大きな蜘蛛は忌み嫌われてるのか?周りの視線を気にしてるのかな……)
肉球で頭部を触り
「居て良いんだぞ!俺もクロネもメルも居るし、マーマンや小猿達とは、もう仲良しだろ?」
糸を巻き取り地面に立つアミュ
「うんっ!仲良しだよっ!」
元気に返事する。
「そうだな……これから沢山お友達作れば良い!アミュの元気な笑顔があれば大丈夫だ!」
人型へ戻り、両手を後ろに組み、少し前のめりでにっこり笑顔になり
「えへへっ━!ありがとっ!アミュの王子様!」
両手を広げパタパタと走り、巣のハンモックに飛び乗り寝る態勢になるアミュ。
(クロネもアミュも……人間のような色んな感情が生まれて来てるのかもな……)
翌日━━
出発準備をしてるオボロ達の周りには見送ろうとマーマンや猿達が集まって来ていた。
D=Dからメルとオボロで、アミュの糸が四隅に付けられた大きな木箱を出した。オボロ考案のクロネに飛んでもらう時に使用する木箱。オボロと人型のアミュが乗って、多少の荷物が載せられる程度の大きさ。
「どう?どう?マスター!私とチビちゃんで作ったんだよ!」
木箱に仁王立ちし、褒められるのを待っているかのようなメル。
ロープと木箱の取り付け部分や底を確認するオボロ……。
「とりあえず壊れなければ問題ない!さすがメル!」
乗り物の周りをすいすいと飛び喜ぶメル。
ルーベがオボロに小さな木箱を渡してくれた。中を見ると……シーサーペントの鱗がびっしり詰まっていた!オボロ達がはぐれ島へ向かった後に、以前退治した残骸が浜辺へ流れついたとのこと。売れそうな鱗を剥がし洗って保管してくれていたようだ。ギルドで売ればそれなりな金額になるだろうと教えてくれた。そして一つお願い事をされた。鱗の売上の一部で武器や防具の素材になりそうな物を調達して欲しいと。それくらいなら問題無いので、快諾したオボロ。
━━!
後方に誰か居る!
振り返るオボロ━━!
ダリルが目をうるわせ立っていた!横にはミリルとトツ。
「アニキィ!!いつか……必ず……礼はさせて欲しい!!」
両手を重ね握手をするダリル!
「俺もいつか……必ず!」
「オボロさん、クロネ、アミュ、メル……色々ありがとう!」
トツもミリルも丁寧にお辞儀をした。
オボロは、ダリルにしっかり村の防衛してくれと、念を押す。そしてD=Dから……ひょうたん梨の木を取り出し、ここで育つかわからないが……育てて欲しいと頼んだ!丸々木が一本出され驚くダリル達だが、後方で大柄なローグが持ち上げ森へ運んでくれた。
オボロは長老の所へ行き出発の挨拶をする。
「海神の鱗は大切に使わせてもらいます!ダリル達をどうか、よろしくお願いします。またお世話になりました!」
深々と頭を下げたオボロ。
朗らかに笑う長老。
木箱に入るオボロ、アミュ。クロネは魔獣化して待機中。
ダリル、ゴーラが木箱に近づく。
3人互いに片手を出し……
手を重ねた……
ダリルの長い指の手……
ゴーラの水掻きのある太い指の手……
一番上に……ぷにぷにの肉球で、もふもふなオボロの手。
ゴーラ
「オボロさん、旅の無事を祈ります」
ダリル
「アニキに泥を塗らねぇようにしやすぜ!」
オボロの目頭が熱くなってしまった。
「ありがとう……ダリル……ゴーラ……みんな!」
重ねた手を解く。
「良し!クロネ出発だ!」
「では参ります!」
黒鳥ならではのかん高い鳴き声を発し、ロープを掴みゆっくり浮上。
皆が小さく見える……。
両手を振り、声を上げ見送ってくれている。
応えるように木箱から手を振るオボロとアミュ……。
雲一つない大空の中を飛び、セリーヌの工房へ向かうオボロ達。
上空━━
木箱から身を乗り出し、乱れる髪を手で押さえ、景色を楽しんでいるアミュ。
「きっもちいーいっ!」
普段空を飛べないアミュにとっては感動であろう。
どのくらい経っただろうか……長い長い寄り道をしたように感じているオボロ。
木箱に両手を置き、真っ直ぐ進行方向を見据えるオボロ……。
(1人では成し得なかったよな……。皆の助けや協力があったからこそ!)
ガイアールへ転生してから、今日までの事を噛み締めながら……
「クロネ、アミュ、メル……みんな……ありがとう……」
小さく呟くオボロの感謝の声は、クロネの羽音にかき消され空に溶けて行く……。
第3幕〜終幕




