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第3幕〜勝負の行方

 

 今日も程よい陽射しで、青い空が広がっている!


 オボロとトツの勝負事があるのが村内で話題になり見物人が集まり始めた。猿達もトツの応援に森から続々集結。ぼぅと立つローグ、双子猿のリップとヤップがトツの周りで励ましてる。ゴーラや船乗り達は明け方に漁へ出てしまっていた。ミリルに手を引かれ二日酔い気味なダリルがのそのそと歩いてきた。近くにメロウさんが居たので、勝負内容を聞くダリル。


(……トツの奴め、アニキに話をしたんだな……)

「勝っても負けても……恨みっ子無しだ」

 と、呟くダリル。


 スタートラインに立つオボロ、トツ。

「だいぶ見物が増えたけど、大丈夫か」

 心配するオボロ。


「問題ありませんよ」

 強がるトツ。


 号令係のグリナが右手を上げる!


 1本目━━


 二人ともうつ伏せになり待機。


「3……2……1」


 素早く腕が振り下ろされ━━


「ファイッ!」


 両者立ち上がり自分の武器目掛けて走る!


 走る両者!

 上空で不正が無いか見てるクロネ。

(オボロ様大丈夫かしら?何の勝負かわかりませんが……負けてほしくはありませんわ)

 先に武器を手にしたのはオボロ!やや遅れて武器を取るトツ!武器を持ち走るのは、フォームが崩れるために速度は落ちる。足もとが取られやすい砂浜。


 角錐(つのきり)をしっかり握りフォームを崩さぬよう走るオボロ!長い槍を持ちにくそうに走るトツ!

 ゴールラインにはアミュが8つの単眼を光らせている!

 先にゴールしたのは……オボロ!角錐を砂浜に刺し両手を上げる。

 やや遅れてトツがゴール。


「お兄ちゃんがいっちばーんっ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるアミュ!


 トツに手を差し伸べるオボロ

「あと2回ある!」

 手を取りトツ

「心配ありがとうございます……さすがオボロさんですね」

(やはりオボロさんの方が有利か……)


 クロネが二人の武器を回収し、砂山に突き刺して行く。


 スタートラインに立ち砂浜を見渡すトツ……。

(砂ばかり━━!)

 何かを発見するトツ!

(上手く行けば!)


 2本目━━


 うつ伏せになる二人。


「何か良い策でも見つけたにゃ?」

 それとなく聞くオボロ。


(まったく意地悪な事を聞くなオボロさんは……)

「いえ……何も……」

 悟られぬよう答えるトツ。


 グリナの右手が上がり


「3……2……1……ファイッ!」


 両手を突き━━起き上がり、振り向きながら走り出すオボロ!

 トツも同様に走り出す━━!

 が、直線に走らず斜め方向へ走り始めた!


(目指すはあの岩!)


 気になり横目で見ながら武器を目指すオボロ。


(狙いは……あの岩?)


 武器の砂山の少し手前にいくつか座れるくらいの岩がある!


 岩へ走るトツ!そして━━


 岩を両足で蹴り飛ばし、ロケットのように槍目掛けて飛んだ!!

 長い腕を活かし、奪うように槍を掴み、勢いで態勢が崩れそうになる━━槍を砂浜へ突き刺しストッパー代わりにし、ゴール目指し走る!


(しまったにゃー!!トツのやつ案外賢いな!)


 オボロも武器を取り先を走るトツを追う!


「トツ━━!負けんな━━!」


 脇でダリルが叫ぶ!


 上空で見ているクロネ。

(こっそりオボロ様の所だけ追い風送っちゃおうかしら?)

 姑息な手段を思いつくクロネ。


 数秒の遅れが中々縮まらない!少し焦るオボロ!

(2連勝して、圧倒的勝利を考えてたのに……)


 先にゴールしたのはトツ!

 足がもつれて前方へ転がってしまった。数秒差でオボロがゴール。四つん這いになり、項垂れている……。


 ━━!


 何か閃いたオボロ!

(これだ!)


「……トツいちばーん」


 素っ気なく宣言するアミュ。


 これで両者ともに1勝……3本目で決着がつくことになった!


 3本目━━


 うつ伏せになり待機する二人……。勝っても負けてもこれで決まる!そんな思いが二人に不安と希望を与える……。

 トツを応援する猿達!

 オボロを応援するマーマン達!ミリルはどっちを応援して良いかまだ悩んでいた……。言うまでも無くクロネとアミュはオボロである。


 グリナが右手をゆっくり上げ……


「3……2……1……」


 近くの岸壁に強く打ち寄せる波の音が聞こえる……。


 静まる見物人達……。


 右手が振り下ろされ━━!


「ファイッ!!」


 オボロは猫の特性を活かし、柔軟な身体を捻り、四つ足になり、爪を滑り止めにしダッシュした!


 ━━!!


(まさかの四足走行!?)


 驚きながらも、長い腕で身体を持ち上げ立ち上がり走り出すトツ!


 前脚で刈り━━後ろ脚で蹴り━━尻尾で重心を保ち━━耳を寝せて━━砂煙を巻き上げ━━角錐目指し爆進するオボロ!


(うんうん!やはり猫の特性は……枯れてないにゃ!)


 トツは2本目と同じく岩を目指し走る!負けたくない気持ちが、本能的に頭を下げ重心を低く走る!少し速度が増したように感じる!!岩を踏み台にし両脚で目一杯岩を蹴り飛ばす!その威力で岩が崩れた!!

 バネのように槍まで飛ぶトツ!


 その頃にはオボロ━━


 四つ足で走りながら、角錐の持ち手を口でガッチリと咥えそして砂山から抜き出し、ゴール目指し走り始めていた!!


 トツは━━


(あれじゃー獣みたいですよオボロさん!)


 長い腕を伸ばし━━槍にしがみつくように取り、倒れていく槍を支えに砂浜を蹴り、方向を変えゴールへ向かう!


 ゴールまであと半分!


 角錐を咥えたまま爆進するオボロ!!


(やはり長い槍が邪魔になる)


 走りながら思案するトツ……。


 ━━!


「はぁぁぁぁ━━━!!」


 槍を走りながら思いっきり投げたトツ!!


 オボロの横を弾丸のごとく槍が通過した!!


(にゃ?にゃにぃ?)


 ゴールまであと少し!!


 オボロよりも先に槍がゴールラインを超え、岩壁に突き刺さった!!


 そして━━


 ゴールしたオボロ!!

 次いでトツが肩を抑えながらゴール……。


 前脚を上げ下げして判定に困るアミュ。


(あれ?これどっちの勝ちなの?)


 上空からクロネが降り立つ。


「オボロ様の……勝ちよ!」


 ざわつく見物人達!!


 パンッ━━━!


 羽扇子を広げクロネ


「槍は先にゴールしましたが……武器と一緒にゴールしたのはオボロ様!なので勝者はオボロ様ですわ!!」


 威圧気味なクロネ!!


 羽扇子を口に当て


「どうかしら?グリナさん?」


 ……


 ……


 グリナが状況を確認して


「普通に考え……武器を持ってゴールするのが自然かと思いますね……なので残念ですがトツさんは2着、と言うことで」


 申し訳無さそうに告げたグリナ……。


 それを聞きアミュ


「お兄ちゃんがっ!いっちばーんっ!!」


 人型に戻りオボロの手を取り喜ぶアミュ!


 その場で座り込むトツ……。


(やはりオボロさんには……敵わない……か)


 座り込むトツの前に立つオボロ。


「良い勝負だった!己で考えそれを迷わず実行した!素晴らしいじゃないか!」


 トツの手を取り、立ち上げるオボロ。


「……今トツが居なくなったら……困る奴が居ると思うぞ?きっと……隠れて泣きじゃくるんじゃないかな……」


 と、近寄ってくるダリルをチラッと見るオボロ。


「ただ威勢が良くて、涙もろくては……この先が不安で仕方ないですよね……オボロさん」


 ダリルをチラッと見るトツ。


 オボロとトツは目を合わせ、くすりと笑う。


 二人を労いに来るダリルとミリル。


「何の勝負か知らねぇがぁ……お疲れさんだぜぇ!」


 白々しい言い方なダリル。


(トツが負けたと言うことは……おそらくアニキは……)


「ルーベさんが俺達の事呼んでたから、行くぞ、トツ!」


 ダリルの大きな背中を見つめ、ため息を漏らすトツ。


(ボス……もう少ししっかりして欲しい)

「オボロさん!いつか隣で共に戦える日を望んでます!」


 と、告げダリルを追うトツ。


(んにゃ、心の整理がついたみたいにゃ!)


 そう感じたオボロ。


 見物人のマーマンや猿達が各々砂浜を後にした。


 グリナがオボロに近寄り

「中々面白い物を見させてもらいましたよ。これでこの村では勝負事の種類が増えましたよ」


「俺の居た国の勝負事を、少し変えただけだよ!」

 グリナの肩をぽんと叩くオボロ。


 砂浜に残っているのはオボロ、クロネ、アミュ。

 岩壁の日陰に移動し、メルから水をもらいゴクゴク飲み干すオボロ。そして、事前に作成してもらったクロネの羽がたっぷり入った枕に身を委ねる。


「お疲れ様でしたオボロ様。あら、私の羽の枕、完成したのですね!」


 バサッバサッとゆったり羽で風を送るクロネ。


「お兄ちゃんっ!クロネちゃん!砂遊びしてくるねっ!」

「マスター私もしてくるぅ!」


 アミュとメルは、そう言い残し波打ち際で砂遊びを始めた。


「トツはもしかして……私達に同行したかったのでしょうか?」


 それとなく聞くクロネ。


(察しが良いな、さすがクロネ!)

「本人から直接は聞いてないけど……ダリルが話してくれたんだよ……」


 黙って聞いてるクロネ。


「サハギン達で酷い目にあってさ……慣れない土地、別種族と生活するんだ……トツが今抜けたら……苦労するのはダリルとミリル。トツだって皆と離れるのは心苦しいと思うよ」

(ふにゃ━この枕……クロネの匂いとぬくもりが……)

 大欠伸してしまうオボロ。


 ……


「オボロ様の、心の広さですね。……私の羽の枕はいかがでしょうか?」

 微笑むクロネ。


 すでに眠っていたオボロ。


(やはり寝顔は……可愛らしいですわ)


 ゆったりと羽で風を送り、寝顔を見つめるクロネ。


 波打ち際では、砂山の大きさを競っているアミュとメル。どちらが大きいかで、揉めていた……。



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