第1幕〜別世界での日々・3
黒い鳥を手当てして3日目。
すっかり回復し、狭い洞窟で羽をばたつかせている。
(そろそろ頃合い、かにゃ)
オボロは決心していた。
黒い鳥が巣立つ時である。
オボロは黒い鳥に近づき
「そろそろ、仲間のとこへ行くにゃ」
身振り手振りも、織り交ぜて話しかける。
オボロをジッと見つめる黒い鳥。
構わず洞窟の外へ行かせようとするオボロ。
「さぁ、おいで」
黒い鳥は、ぴょこぴょこ跳ねながらついて行く。
━━洞窟入り口
岸壁に打ち寄せる波の音。
眩しいくらいの太陽と思える物の光。
オボロは、意思疎通は伝わったか不安な所はあったが、心を鬼にし
「ほら、仲間の所へ戻るんだ」
大きな背中を、肉球でポンポン軽く叩く。
黒い鳥は、動こうとしない。
オボロを首をかしげながら見つめる黒い鳥。
今度は両手で、黒い鳥の背中をグイグイ押す。
「ほーら、仲間の所へ行くにゃ!」
グイグイ押しながら、オボロは手当てをして今までの事を思い返していた。
(言葉ではなかったけど、話し相手ができて、嬉しかったな。意思疎通はなんとなくだったけど………)
ちょっぴり切ないオボロ。
同じように黒い鳥も、今までの事を思い返していた。
(助けてもらい手当てまでしてもらって、何も返せていない………一緒に居たら迷惑?でも、この猫の獣人から目が離せない……)
オボロは心を鬼にして
「さっさと━━仲間のぉ━━所へ━━いっけぇ━━━」
思い切り体当たり!
黒い鳥はよろめく。
先の大きな声で、黒い鳥はなんとなく察した。
(自分のことを思っての衝突、だと)
黒い鳥は、振り向きジッとオボロを見つめる。
オボロは咄嗟に身構え
「しょ、勝負、するのか?」
なおもジッとオボロの目を見る黒い鳥。
(きっと本心ではない)
獣の本能で理解したようだ。
ゆっくり首を下げ
くちばしをオボロの鼻に軽く当てる。
(黒い鳥なりの感謝の態度)
「んん?」
オボロは軽くびっくりする。
黒い鳥は振り返り
「くかかか━━!!」
透き通る鳴き声を発し、羽を広げ飛び立った!!
光に照らされる艷やかな黒い羽。
優雅に飛ぶ姿に、オボロは感動と別離の入り混じる涙が、溢れた………
(俺の気持ち理解してくれたのかな)
何度かオボロの前を、鳴きながら飛んで、海の彼方へ、優雅に飛んで行った黒い鳥。
しばらく、見届けるオボロ。
「……一期一会ってやつだ!!」
と、自分に言い聞かせ、洞窟へ戻るオボロ。
……ピチョン
……ピチョン
洞窟内で響く水が落ちる音。
(なんだろ?子供が親を離れて行くって……こんなにも、複雑な気持ち……なのだろうか)
頬を伝う涙を拭い、娘のナナのことを想うオボロ。
(ナナの安否が気になる。だが、知る手段すらない)
オボロは膝まずき、肉球と肉球をムニュッと合わせ、神に祈るように、静かに願った。