第3幕〜はぐれ島と小さなホムンクルス
船着き場の祠━━
目の前に海神の鱗で呼んだ亀孔雀、細長い嘴、頭から首へ鶏冠なのか背びれなのか判断できない……飾りのような物。細目でオボロ達を直視している。
『……わって……か?伝わってますか?』
━━脳に届く声!
(ブレインマウス使えるのか!)
オボロはクロネとアミュを見る。二人とも伝わっている様子。
オボロ
『あの時は助けてもらってありがとう!また会えるとは思わなかったよ!』
亀孔雀
『海神様のお願いですので、お気になさらずに。それに……貴方はとても勇敢で心穏やか。海神様が認めた数少ないお方ですから。さぁ甲羅にお乗り下さい』
と、細長い嘴でオボロの首根っこを掴み甲羅へ乗せる亀孔雀。クロネはアミュを抱っこして甲羅へ。方向を変え亀孔雀ははぐれ島へ向かって動き出す。乗り心地は漁船と違い揺れは少なく波飛沫も何故か飛んで来ない。速度は漁船よりは出てるように感じる。
しばらく進み、亀孔雀がブレインマウスで話かけて来る。はぐれ島でサハギン達が勢力を広げて来てて、手長猿達が危険なことを海神様から伝言されたと。サハギンは温厚なマーマンと違い、凶暴性が強く狩り場で獲物が少なくなると次の狩り場へ移動する種族。最近になりはぐれ島へ出入りしているらしい。オボロはそれを聞き、群れの全滅だけは避けたいと願う。クロネは一応世話になったからオボロの顔を立てるつもりで同行。猿達には荒っぽい歓迎されたことを、まだ根に持っている。アミュはオボロとクロネに、猿のことを色々質問していた。
D=D内━━
虹彩揺らめく内部。回収した素材や薬草、木材、鉱石、オボロの武器の角錐……などがふわりふわり浮いている……。それらを、赤、青、黄とカラフルで、もじゃもじゃな短い癖毛な、ぽっちゃりしてるホムンクルスがせっせと整理している。
ザザ村に到着した頃に、メルが初めて生成したホムンクルス第一号である!
(はぁ…未熟な私じゃ師匠が生成するみたいなホムンクルスは…まだまだ先かもぉ)
会話はできないがメルの指示をしっかり聞き、失敗はするが頑張り屋さんなホムンクルス。他のホムンクルスよりも身体が小さいためメルは勝手に『チビちゃん』と呼んでいた。
メル
「チビちゃーん、ありがとう。少し休もう。後でマスターに紹介するね」
(この子をちゃんと教育すれば!なんとかなるかな)
「ピピッピ」
チビは、メルの周りを飛び可愛く鳴く。
メルとチビは空間にふわふわ浮きながらしばし寛ぐ。
はぐれ島・猿の集落━━
オボロが島を脱出してから、しばらく平和だったダリル達。集落の生活の基盤や防衛体制もようやく一段落した頃に、島の変化は始まっていた……。オボロがトレーニングで使っていた浜辺にサハギンが数匹上陸し始めていた……。
ダリルはやきもきしていた……。島を脱出したオボロに群れを再度頼まれたのは良いがオボロがいた頃のように上手くはいかない……。言われた通り教えられた通りするが、今ひとつ……。唯一の救いは妹のミリルやトツが、頑張って自分を助けてくれていることくらい……。とは言え、昔のように高台でふんぞり返る訳にもいかず、集落内を練り歩く日々……。集落の境目の丸太の山は大人猿くらいの高さとなり、外からの外敵に効果はある。小猿と遊び、メス猿や老いた猿と談話する……。得るものはある。猿達が何を望み、どうしたいか……。その解決策が中々見つからないのが現状……。コッソリ岩影に隠れ悔し泣きをしているダリル……。
(こんなみっともねぇところ、オボロのアニキにゃ見せられねぇ)
そんな姿を度々見守る妹ミリルがいた。
━━海上
照りつける陽射し、穏やかな潮風……。亀孔雀ではぐれ島を目指すオボロ達。暑さでダウンしそうなアミュはひんやりした甲羅にうつ伏せになっている。オボロも大の字で寝転がる。そんな二人をクロネは羽をゆったり動かし風を送っている。
『マスターマスター!紹介したい子いるの』
メルからブレインマウス。
だるそうに腕を上げD=Dを出すオボロ。
扉からメル……その後ろに隠れるようにチビちゃんが!
起き上がるオボロ、アミュはバテてうつ伏せのまま。メルはチビを前に押し出し、オボロの前に連れて行く。恥ずかしそうに、もじもじして下を向いてるチビ。
「ほら、チビちゃん、前に居るのが私達のマスター。後ろにいるお姉さんがクロネ。下にいるお子様がアミュ」
と、淡々と紹介していくメル。
オボロはチビを見つめ手をゆっくり出す。
「チビちゃん、おいで。怖がらなくても平気。メルの言うこと聞いて頑張ってね」
チビはメルを見る。
手のひらに誘導してあげるメル。
チビはワンピースの裾をギュッと握り
「……ピッ……ピッピッ……」
言いながらメルの後ろへ飛んでしまう!
「チビちゃんは、少し照れ屋さんだな」
オボロは微笑む。
メルはチビをD=Dへ戻し、中からコップと樽を持ってきた。クロネにアクアボールで水補給をお願いする。樽に水が補充され、コップに水を汲み皆に配るメル。やたら気が利くメル。オボロもクロネもアクアボールで水分補給出来ることをすっかり忘れていた。メルは海上が初めてなため、甲羅の上を所狭しと飛び回り楽しんでいる。アミュも水分を摂り元気になった様子。オボロは水の樽をD=Dへ押し込む雑用をする……。
━━と、はぐれ島が遠くに見える!
生活していた頃が懐かしく思えるオボロ。ダリル達に再開出来る喜びはあるが、どういう状況かは上陸しないとわからない。オボロはメルに薬草や薬丸を直ぐに出せるように指示。
脱出した入り組んだ入江に近づく……。
クロネは羽扇子を手に取る。
オボロは五感オーラで耳を研ぎ澄ませる……。
アミュは亀孔雀の動く背びれを眺めてる……。
入江へ到着━━!
オボロは叫び声や猿の吠える声を聞く!穏やかではない!
亀孔雀の体型では入り込めない!ここから走って行くしかない!
「クロネ!先に飛んで行けるか?」
焦るオボロ。
クロネは頷き、入り組んだ入江を縫うように飛んで行く!
━━オボロが到着する少し前
「昨日までは数匹しかいなかったよな?トツ」
息を切らせながらダリルは聞く。
槍を地面に刺しそれを支えにしてるトツ
「砂浜の偵察時ではそのように聞いてます……警戒はしていましたが……この数では……」
集落の広場では、手長猿とサハギンの群れの戦場となっていた!ダリルやトツ戦える猿は必死に抵抗。サハギンは武器は持たぬが鋭い牙の噛みつきで猿達を喰らい、硬い鱗で中々倒れない!大柄なローグが吠えながら丸太を振り回しサハギンをふっ飛ばす!トツは持ち前の槍さばきでサハギンを薙ぎ払う!ダリルはオボロから譲り受けた歪な牙を振り回し牽制しながら、弱ってる猿を高台へ避難させている。身動き取れない猿はサハギンが集まり食われてしまう!その光景をただ見届けるだけのダリル達……。
高台には老いた猿やメス猿や小猿。その中には妹ミリルが身体を震わせながら木の棒を持つ。小柄なリップとヤップは高台で両手で持てるくらいの石を持ち、高台からサハギン目掛け投げている。
ミリルは木の棒を握り締め、海神へ祈っている。
(海神様……どうか私達と兄さん達をお守り下さい!)
と、繰り返し祈っているが時折オボロの顔が浮かんでしまうミリル。
「おめぇらー!死んでも高台には近寄らせるな━━!」
ダリルの激が飛ぶ!
森の奥から不規則に集落へ侵入してくるサハギン達!
猿の悲鳴とサハギンの噛み千切る音。そしてダリル達の勇ましい雄叫び!
サハギン達に押し流されるように高台の下まで追い込まれるダリル、トツ、ローグ。
立って居るのがやっとなくらい。
槍を強く握り構えるトツ
「ボス!皆を連れて入江の岩場の上へ!」
トツを見るダリル
「それを言うなら、ボスの俺が残らねぇとだ!これからの群れは……任せたぜ、トツ!」
と、大口を開けダリルキャノンを発射しようとする━━!
入江へ通じるほうから黒い竜巻が!!サハギン、倒れた猿達を巻き込み広場中心へ!黒い竜巻からサハギン達が放り出され地面に落とされた!!
ダリルとトツの前に、黒い羽の女性が立つ!
「見るからに不味そうな魚ですわね!……オボロ様の横に立つにはまだまだですわね、トツ」
━━━!
「ク、クロネの姉さん?」
驚きのダリルとトツ!
「少し休んでなさい!オボロ様も直にきますわよ」
飛び上がり向かって来るサハギン達に翼針羽釘弾を浴びせるクロネ!大きな目に刺さり倒れ込みうずくまるサハギン、鱗の隙間に羽が刺さり叫ぶサハギン!やはり鱗は頑丈なようだ!
座り込み休んでいるダリル。
(すまねぇ姉さん……助けてもらってばかり……)
クロネと共に戦いたく槍を構えるトツ
(惚れたメスにばかり戦わせては……情けない)
サハギンと戦いながらも、羽根を前に広げられ、クロネに止められてしまうトツ!
「休むことも戦士の務めではなくて?」
襲って来るサハギン達を剛翼打で、弾き飛ばすクロネ!
入江のほうから、アミュをおんぶしたオボロが走ってくる!
「よーしアミュ!あれだ!あの不味そうなサハギン達を懲らしめて良いぞ!」
「あれだねっ?お兄ちゃん!」
オボロの背中を足場にサハギンの中へ飛び込むアミュ!
撚糸輪を両手に持ちサハギン達をばっさばっさと切りかかる!
「こ、子供?」
ダリル達は目を疑う!
「なんとか間に合った!久しぶりだなダリル!」
オボロはD=Dから薬丸を取り出しダリル、トツ、ローグに渡す!
「あにぎぃー!ずばねぇ!」
泣きながら薬丸を噛むダリル!
「あぁ、とりあえずサハギン駆除すればいいか?」
角錐を構えるオボロ!
泣きながら頷くダリル。
高台の上でミリルは、海神様へ願いが通じたのだと安堵するとともに、またオボロに逢えたことを密かに喜んでいた。




