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第1幕〜別世界での日々・2

 

 ここへ来て三週間ほど経つだろうか。


 オボロは日々、自分流体術の稽古と走り込み・狩り・砂浜の清掃と、変わらぬ日々を過ごしていた。


 腰には、先日、酒樽から見つけたベルトを巻いて。


 活動範囲も少し広がった。


 砂浜は見通しが良いので問題は無い。


 方角はわからないが、森の中も奥の方まで行けるようになった。草が倒れて獣道っぽいのもあるが、道らしい道は無いため、迷わぬように、木に目印をつけている。


 欲しい物・必要な物、元いた世界では当たり前の物が無くて、不便極まりない。


 作ろうとしても、材料は無い。あってもこのまん丸肉球お手手では、細かな事は出来ない。


 妙なジレンマが襲う、今日この頃。


 砂浜での訓練的なのを終え一度、寝床の洞窟へ戻るオボロ。


「この酒樽が、もう少し小さければなぁ」


(採取した木ノ実や野草を沢山入れて持ち運べるのに)


 そう思うオボロ。


 今では貯蔵庫的な役割になっていた。


 湧き水をぺろぺろと舌で掬って飲む。


「さて、森の方行こうかな」


 洞窟の外へ出て、恒例の伸びを数回。


 砂浜の方を見ると━━


 何やら黒い生物が砂浜にぐったりとしている。


「んにゃ?あれは……鳥?」


 砂浜の上の方でカモメっぽい鳥が数羽、ゆっくり旋回している。


 と、その時━━━


 黒い鳥めがけて一斉に急降下を仕掛けてくる!


「助けないと!!」

 自然と身体が反応するオボロ!


 四つ足で威嚇しながら、向かう!!


 ━━━「んにゃー!!」


 ━━━「ふしゃーー!!」


 全速力で向かう!


 すでに2匹が、黒い鳥をくちばしで突いている!!


 オボロは考える!

 今出来る最大限の策を!

(やっぱ突っ込んで爪出して猫パンチ、か?)


 迷ってる暇は無い!!


 ━━━「ん、シャーー!!」


 威嚇しながら、カモメっぽい鳥の所へ、爪を出して飛び込む!!!


 四本足を砂浜に埋まるほど踏みしめて歯をむき出しにし、威嚇する!


「ウゥーー!シャーーーー!!」


 カモメっぽい鳥らは、少し怯み離れるように後ろへ下がる。


 まだ引かなそうなので、さらに睨みを利かすように威嚇する!


「シャー!!シャシャーーー!」


 諦めたのか、全て海の方へ飛んで行った。


「ふぅ……」

 オボロは、気が緩んだのかその場でしゃがみ、黒い鳥を背もたれのようにしてしまう。


「ガ、グガガ」


 黒い鳥が、気づいてしまったようだ。


「あっ、ごめんよ」

 オボロは態勢を変えて、黒い鳥を見る。


 間近で見ると、オボロよりも大きな黒い鳥!


 黒く大きな羽は、抜け落ちていたり、ボロボロ。


 頭の上には、黄色とも黄金色とも言える長いふさふさな鶏冠とさかのようなのがある。


(とりあえず手当てくらいはしないと)


 オボロは、弱っている黒い鳥を背負って、よろめきながら寝床へ向かった。


 その間、黒い鳥は疲れているのか、痛みを堪えているのか、唸り声をあげていた。


 寝床に黒い鳥を運び終えたオボロは、とりあえず湧き水近くへ引っ張った。


 くちばしを無理やり開けて、肉球のお手手で湧き水の池を弾いて口の中へ飛ばす。


 そして、薬草を鷲掴みにして傷ついた羽の所へ、ぐりぐり擦り込む。


「グググ!グガガッ!」

 染みるのか痛そうに声を出す黒い鳥。


 実は薬草は、偶然にも、最初に発見したのである。


 包帯なんてここには無い。


 オボロは、肉球で薬草をずっと押し付けたり、擦り込んだりしていた。


 合間を見て、くちばしを開け湧き水を飲ます。


 その繰り返しを明け方までしていた。


 ………


 ………!!


 オボロは、黒い鳥の身体に伏せて寝てしまっていた。


 傷はまだ、完治していなそう。


 とりあえずまた、くちばしを開けて湧き水を流す。


 息づかいはあるから、死んではいないようだ。


「まぁ、様子見、かな」

 オボロはつぶやく。


 と、オボロは薬草が無いことに気付く。


「昨日ほとんど使ったんだな」


 オボロは黒い鳥の顔に近づき

「ちょっと薬草取ってくるから休んでてな」


 言葉が通じたかわからないが、とりあえず礼儀として言ってみた。


 そしてオボロは薬草を取りに行った。



 黒い鳥はと言うと━━━


 砂浜での出来事から今までを見て感じていた。


 砂浜で助けてくれた事。


 重いであろう大きな自分を背負ってここまで運んでくれた事。


 ずっと手当てをし、見守ってくれていた事。


 特に鮮明に記憶にあるのは、砂浜で、自分よりも小さな身体なのに、勇敢にも助けてくれた事。


(なんて勇敢で、優しい方!)


 黒い鳥は、今までのオボロの行動に、尊敬・感謝・胸の奥がときめくような感情、色んな気持ちが巡っていた。


 起き上がる事は出来そうだ。


 が、羽を広げる事はできも、飛ぶことはできなそう。


 黒い鳥は、オボロを待つ事にした。


 しばらくしてオボロが両手いっぱいの薬草と、口にウサギのような小動物を加えて戻ってきた!


(おっ!少しは元気になったか?)

 そう思いつつ、オボロは近づく。


「ガガー」

 黒い鳥は、それに応えるかのように鳴く。


「こへ、くへる、か?」

 ウサギっぽい小動物をくわえながら、話しかけるオボロ。


 と、口元に獲物を落としてあげる。


「グガ!グガ!」

 黒い鳥は、喜んだかのように獲物をくちばしでついばむ。


「うげ!!」

 ついばむ姿を見て思わず声をあげるオボロ。

(動物ってこうなんだよな……)


 獣の食事と言うのを目の当たりにして、ビビるオボロであった。


 と、黒い鳥が、羽を広げ首を持ち上げ鳴いた!


「カカー!!クカカー!」


 雄叫びとも取れる鳴き方。


 すると黒い鳥はオボロに歩み寄りくちばしをオボロの顔に擦り付ける。


「おっ!満足したか?」


 くちばしを撫でながらオボロは言う。


 黒い鳥は、くちばしを撫でられほんのり照れていた。


「んにゃ、痛いけど薬草擦り付けるけどいいかな?」

 オボロは薬草をチラつかせて優しく問う。


 伝わったのか、黒い鳥はその場に座り込む。


「にゃ、我慢してにゃ!」

 やたら「にゃっ、にゃっ」と出てしまうオボロ。


 そこは気にせず、薬草を擦り込む。


 少し痛がる黒い鳥。


「我慢にゃ!」

 オボロは、優しく叱る感じで話す。


 その献身的な手当てに、優しさと温もりを感じる黒い鳥。


 手当てをしてるオボロの姿をじっと見つめていた。


「今日はこれで終了、にゃ!」

 と、軽く羽をたたくオボロ。


 ちょっとビクつく黒い鳥。


(なんて優しい方なのだろう……)


 目がうっとりしてる黒い鳥であった。


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