第3幕〜セリーヌの工房・➃ディメンション=ドア
メルの言葉に戸惑っているセリーヌ……。オボロの胸元にいるメルを見ながら……
(この子は産まれた時から……驚かされてばかりさね……喋るし、私に指図するし、水浴びが好きだし、ホムンクルスらしくないさね……)
少しうなされているオボロ……。頭の中でゼクセンの魔法陣が描かれている……。うなされながら無意識で魔法陣を展開したオボロ!お腹の上に魔法陣が現れ━━━
2枚扉のドアが出現!
セリーヌ一同注目する!
(これがゼクセンの固有魔法?)
……
……
何も起きない……
━━と、軋みながら2枚扉がゆっくり開く!
開く扉……
内部はシャボン玉の表面のように虹彩が不規則にうごめいている!
中から1枚の紙が飛び出し床へ落ちる!
セリーヌが拾い上げ、読み上げる……
『偉大なる魔導士ゼクセンの固有魔法を継承した者よ!大いに感謝するが良い!このディメンション=ドアは物質ならいくらでも保管し、取り出すことが可能!いつかわしの元へ戻るまで、貸しておくからの!』
「オボロちゃん、マジもんのゼクセンの固有魔法さね!」
セリーヌは身体を震わせ驚きを隠せない!
……
……
……!!
━━━「メル!起きな!」
セリーヌが大声で呼ぶ!
むくりと起き上がりパタパタ飛びセリーヌの前へ行くメル。
メルを掴みディメンション=ドアへ放り込むセリーヌ!
「え?師匠ぉぉぉう!?な━にす━るのぉぉぉ!!」
ディメンション=ドアへ吸い込まれて行くメル!!
唖然とするクロネ!
(ごめんさね!メル!私の推測が正しければ……)
なにやら博打をしたセリーヌ。
……静まる工房内……
……
ディメンション=ドアから、メルの叫ぶ声が微かに聞こえる!!
虹彩がうごめくディメンション=ドアから、ひょっこり上半身を出すメル!!
「師匠!ひどいよ!いきなり!……そうそう……中、何も無いんだけど?」
ディメンション=ドアを出入りしながら言うメル。
(私の推測は、ほぼ正解だねぇ)
ニヤリとするセリーヌ。
「メル!あんたさっき……外の世界見たいって啖呵切ってたさね?」
「え、あ……はい」
ディメンション=ドアの扉に寄りかかり返事をするメル。
……一瞬、寂しそうな表情をするセリーヌ……
「今から……オボロちゃんがマスターさね!」
━━━!!!
セリーヌは後ろを向き、天井を見上げ……ボソリと
「そうさね……師匠は……もう……引退さね」
セリーヌの周りを飛び回り
「ねぇ?メルがわがまま言ったから?それとも、師匠をたまに小馬鹿にするから?まさか?師匠のお酒に睡眠薬入れたことがバレたとか?」
セリーヌの顔色が変わった!飛び回るメルを掴み取り
「あんた、睡眠薬入れたことあるのかい?」
「そ、そんなこと……言ったっけなぁ━━」
そっぽを向き口笛混じりに言うメル。
羽根を嘴へ当て笑うクロネ。
窓の外でメルを指して笑ってるアミュ。
━━━!
オボロが目を覚まし上半身を起こした。
「ん?なんだこれは?」
ドアに触れるオボロ……。
掴んだメルを離し、セリーヌがオボロに説明し始めた。
固有魔法紙の契約は成功で、目の前にあるのがディメンション=ドアと言う固有魔法。中から飛び出した紙をオボロに見せ……攻撃魔法ではなさそうで、物質ならその中に保管そして出し入れ可能。無限かどうかは不明だが、大きな鞄と思えば良いと。
なんとなく理解したようなオボロ……。
(色々保管出来るなら、薬草とか装備品とか食べ物入れられそうだな)
「ねぇ?オボロちゃん?メルを一緒に連れてってもらえるかい?」
と、メルの羽根を摘み、テーブルに立たせる。
セリーヌを見上げるメル……。
「メル……あんたの思うままに生きるさね……あんたのマスターは……オボロちゃんさね」
メルの羽根を優しく撫でて告げるセリーヌ。
━━と、いい場面でオボロが口を挟む。
「セリーヌさん?メルを一緒にって……守れない事もあるし、それに……人間に見られたら……危険では?」
にたにたしながらセリーヌは再度メルをディメンション=ドアへ投げ込む!
悲鳴を上げてディメンション=ドアに吸い込まれて行くメル……。
文句を言いながら出てくるメル。
「こう言う事さね!」
セリーヌは得意気に言う。
目を擦り、パチクリするオボロ……。
少しため息混じりのセリーヌは
「無知なオボロちゃんには、理解出来るように説明しなきゃさね……前にも言ったが、ホムンクルスは物質から産まれる……そのディメンション=ドアは物質なら保管、取り出しも可能………と、言うことは?」
━━━!
オボロもクロネも、ようやく理解出来た!
「ホムンクルスなら問題無い!!」
拍手するセリーヌ
「正解さね!」
メルはディメンション=ドアから顔を出し
「師匠?私、この中に住むってこと?」
メルを指差し
「そういう事さ、ね!」
オボロの前に行き……後ろに手を組むメル。
「これからよろしくね!マスター!」
と、ほっぺに口づけをし、耳を優しく掴み小声で
「もう手放さないでね?爽太」
鼻歌混じりで飛んで行くメル。
久しぶりに『爽太』と呼ばれ顔が赤くなるオボロ。
(メルは、俺が一時の感情で投げ捨てしまった……マキちゃんからのプレゼントされた翼のネックレスだったんだな)
ようやく確信が持てたオボロ、いや、爽太だった。
メルのオボロへの態度や口づけを、間近に見ていたクロネ……。
(アミュと言い……メルと言い……あんなにも軽々しくオボロ様に!!)
ため息ばかり出てしまうクロネであった。
こうしてメルの新しい住処が出来た。
オボロはソファーから立ち上がり、唸りながらディメンション=ドアを解除したり、出現させたりしている。魔力量が低すぎるからか、容易にあつかえてない様子……。クロネは心で応援し見守っている。アミュはクロネの尾がパタンパタン地面に叩かれてるのが気になるのか……それを見ている……。
工房内では、なにやらセリーヌがやる気を出している様子。メルをはじめ残りのホムンクルスを集めて話をしている。セリーヌはメルにホムンクルスを精製する許可と習得することを認め、指導を始めるようだ。メルを残し可愛らしい鳴き声を出し解散する他のホムンクルス達……。
セリーヌがオボロ、クロネの方へ向き直し
「さて、固有魔法紙はとりあえず済んだが……どうするさね?……血の盟約……」
オボロもクロネも、ピタリと動きが止まる!
「まだ大切な事を言ってなかっさね……」
顔が真剣になるセリーヌ!
「盟主が死ねば、従者も死す。従者が死んでも、盟主は死なず」
ホムンクルス達の羽音だけが工房内に響く……。
……
……
(そうとうな覚悟が必要なのでは?)
中途半端な気持ちではいけないと思うクロネ。
(俺の覚悟もだし、クロネとアミュを守る義務が生じてくるな)
冷や汗が垂れるオボロ……。
セリーヌは自分の机の椅子に腰掛け
「ここに何日居ても構わない。じっくり考えてほしいさね……。話し相手も増えて賑やかなのは良いことさね」
と、飲みかけの酒の瓶を一気に飲み干した。
色んなことが目まぐるしく続き、オボロ自身しんどいとは思っていた。ここはセリーヌの言葉に甘えておこうと。別に急ぐ旅でも無いとも考えていた。クロネに声をかけ庭へ行くオボロ。アミュも呼び3匹揃う。庭の丸テーブルの椅子に腰掛けるオボロ……。
空を眺めてる……。
(アミュに、どこから話せば良いか……)
と、クロネがオボロに、私から話してみましょうか?と提案され、クロネにお願いするオボロ……。クロネがアミュの方を向き『血の盟約』について説明する………。
……
……
アミュは、迷ったり困ったりすると……口の牙をモゴモゴ動かしたり、前脚を上げ下げする事が多い……。最近オボロもクロネも気付いた!小難しい話をされ同じ様な行動してるアミュ……。クロネも理解しやすいよう言葉を選び説明しているのは、オボロでもわかっていた。結局アミュから出た返答は………
「……アミュの王子様はお兄ちゃんで、アミュはお兄ちゃんの旦那様になるのっ!血の盟約……アミュはするよっ!独りぼっちは……寂しいもん……」
クロネは丁寧かつ気を使った説明が無駄とは思わないが、つまるところ『オボロが王子様』と言う根底は揺るぎないものと、思い知らされてしまった。
アミュは、お腹空いたから捕食してくると言い残し、崖へ向かい糸を垂らし……狩りに行ってしまった……。
残った2匹……。
クロネも気分転換にと言い残し、空へ飛び立ってしまった……。
独り残されたオボロ……。
背もたれに寄りかかり、椅子をギシギシ揺らす……。
(血の盟約……リスクはあるが可能性があるなら、価値はある!失敗したとしても、その契約で、俺もクロネもアミュも死ぬことはないだろう……)
オボロの気持ちは、ほぼ決まっていた!
陽が傾き、もうじき夕暮れになる……。
クロネはセリーヌの工房の裏側に位置すると思われる絶壁に立っていた……。
吹き荒れる山風……。
黄色の鶏冠がなびく……。
オボロと出逢ってからを考えているクロネ……。
一生懸命自分の怪我を朝まで手当してくれたこと……自分の事を食事呼ばわりされて、仲間と言ってくれて、自分の事のように怒りを露わにしてくれたこと……。普段は柔らかい顔立ちなのに、いざ戦闘になると凛々しい顔立ちになるところ……。周囲を気遣う優しさ……。愛らしい寝顔……。時折見せる寂しげな表情……。嬉しい事があると子供のようにはしゃぐ時があること……。
そして━━
「私を頼りにしてくれること!」
(はぐれ島で、二度もオボロ様に決意を示したのだから!
三度目も、同じ気持ちで参りますわ!)
アミュやメルが、馴れ馴れしく接したり、素直に気持ちを伝えることは、羨ましいとは考えているが……クロネはクロネなりのオボロへの接し方を決め兼ねていた……。
(オボロ様はあちらの世界のマキと言う方を、まだ想っているのでしょう……。だったら私は頼られたら、受け入れ全力でサポートするだけ!)
真横からの夕日がクロネを照らし、黒い羽根が赤黒く映える……。
工房では庭のテーブルで食事の準備をしていた。メルや他のホムンクルス達が食事を運ぶ。それを見ているセリーヌとオボロ。
(一生懸命働くなぁ)
と感心するオボロ。
セリーヌはすでにワインを飲んでいる……。勧められるオボロだが……やんわりと断る。セリーヌは口を尖らせて拗ねてしまうが、メルがセリーヌに説教する事で事無きを得た。
クロネもアミュも居ないテーブル……。
クロネもアミュも居ない食事……。
少し寂しいなと思うオボロ……。
【能力】
・オボロ
ディメンション=ドア(D=D)
***表記のお知らせ***
「ディメンション=ドア」を
「D=D」と表記する事もあります。
ご了承下さい。




