第3幕〜セリーヌの工房・②メルの出生と血の盟約
思わぬ繋がりから一夜明け……。
オボロはクロネとアミュに挟まれて寝ていた……。葉っぱから朝露が垂れクロネの頭に落ち目が覚める。昨夜の会話の事を考えてしまうクロネ……。寝ているオボロに、そっと羽根を被せ温める……。
……
目が覚めるオボロ……。
クロネもアミュも起きていた……。昨夜泣きじゃくったためか瞼が腫れ、目も赤い!アミュはオボロを見て、目がアミュと一緒だ!一緒!と無邪気に笑う。クロネは顔でも洗って来ては?とアドバイスする。工房脇の水場へ向うオボロ……。
鼻歌が聞こえる……。
水場を覗き込むと……タライに水を張りメルが水浴びしていた!
目があってしまうオボロとメル!
オボロは肉球で自分の目を隠す!
メルは悲鳴を上げ、タオルを取り身体を隠し
「ちょっとぉ?レディが水浴びしてるとこ、覗かないでよっ!」
膨れっ面になり、頬を染めてオボロを責める!
後ろで見ていたクロネは……
「オボロ様……それは失礼ですわ」
メルの悲鳴を聞きセリーヌが工房から何事かと見に来る!それくらい減る物じゃないから、良いじゃないか!と軽く笑い工房に戻ってしまう……。
メルはワンピースを来て、オボロから遠ざかるように飛び工房へ戻る……。
水場で顔を洗うオボロ……。
(間が悪かっただけだ)
と、自分に言い聞かす……。
顔をくしゅくしゅと手で拭うオボロ。山頂から見える澄み渡る空を見る……。
(……セリーヌやメルに話す、か)
工房へ向うオボロ……。
扉をノックし…中へ入る……。
棚には無数の古そうな本、細長いテーブルには試験管のようなガラス製品が立てられ、転がっている……。セリーヌの机は…お酒の空瓶が所狭しと乱雑に放置されている……。床やソファーに脱ぎ捨てられたセリーヌの衣類……。工房内をホムンクルス達は協力して片付けていた……。
この散らかり具合に呆気に取られるオボロ……。
セリーヌは、独り者の女なんてこんなもんだよ?と、ニヤニヤしながら話す。
オボロは手を強く握り、セリーヌに自分の事を話す決意をした……。クロネは開けられた扉で、アミュは屋根から糸を垂らし窓から、セリーヌは自分の机、メルはセリーヌの机の角に座った……。
静かに口を開くオボロ……。
(全て伝わらなくても話を聞いて貰えれば良い)
と言う気持ちで……。
自分は別の世界で死んで、目が覚めたらこの猫獣人の身体だった事。はぐれ島でクロネと出会い、ザザ村でアミュと出会い、スーデルの町へ来たこと。別の世界では妻の『マキ』娘のナナ、飼い猫のきぬと楽しく暮らしていた事。事故で自分とマキは亡くなっていること。その事故現場から娘のナナを逃し、この世界で度々ナナの声を聞くこと。そして、この世界に居るか不明だが、娘のナナを探す旅をしていると。
メルは『マキ』と言う言葉が発せられた時、ヒラヒラ動かしていた羽が止まった!
(マキ……頭の中で懐かしく温かな感覚……)
……メルの中にある言葉が浮かんできた!
オボロを見る目が変わったメル!
━━━ア、オ、バ、ソ、ウ、タ……?
メルの口から一音一音、言葉になり発音された!
━━━!
目を見開いてメルを見るオボロ!
(俺の名前!)
メルに近寄り、口元を震わせ
「俺の……名前だよ?……なんで……知っている?」
……
「……頭に……浮かんで……きたの」
メルはオボロの湿った鼻を手で触れ告げた。
オボロは昨夜セリーヌとの会話で、メルはシルバーの翼から産まれた事と、それは自分が別の世界で海に投げ捨ててしまった物であると、メルに伝えた。
それを聞いたメル……
両手で顔を隠し、我慢するように泣き始めた……。
セリーヌはワインを飲みながら聞いている……。クロネ、アミュも静かに聞いている……。
泣いているメルが、突然飛んだ!オボロを通り抜け、扉に居るクロネの隙間を縫うように駆け抜け、外へ行ってしまった……。
「大丈夫さ、そのうち戻ってくるさ……」
慣れているのか堂々としているセリーヌ。
続けてセリーヌが
「メルとオボロちゃんが、何かしら接点があるのは理解したさ……あの子も色々話されて困惑してるのさね……」
机に両手を立て、椅子から立ち上がるセリーヌ……。
机に腰を掛け、2枚の魔法紙を見せる。
(魔法紙?)
オボロ、クロネは思った。
セリーヌは、ただの魔法紙ではないと告げる。と、被っていたキャスケット帽を脱ぎソファーへ投げた。
━━━!
右側……耳の少し上……黒いくの字に折れ曲がった角らしき物!
「オボロちゃんは……わかるはずもないさね!……クロネとアミュは……どうさね?」
角を指差し問いかけるセリーヌ。
クロネとアミュが身構えてる!
意味がわからぬオボロ……。
「……魔族、でしょうか?」
クロネが、小声で言う。
「惜しいね!」
と、右の前髪を上げてクロネとアミュに見せた!
━━━!
左目は……黒目、右目は……真っ青!!
興味深く見るオボロ……。
「私はさ……半分魔族……半分人間……半魔ってやつさ」
クロネは納得した様子。
(半魔……だから人間臭さがあまりしなかったのね)
アミュは糸を上げ下げして、理解したのか不明な行動をしている。
「まぁこんなんだから人間の町には居づらくてね……ここに隠居してるのさね……」
と、片手を挙げて言うセリーヌ。
セリーヌは話を戻した。
この2枚の魔法紙は魔族の屋敷から、昔盗んで来たもので……
━━『血の盟約』
と、呼ばれる特別な魔族紙。
魔族が魔獣や反抗する魔族を永続的に従わせる魔法紙。
盟主の血、従者の血を魔法紙の魔法陣に垂らし、盟主の魔力を捧げ、従者に魔法紙を与える。反抗的な者には強制で盟約させるが、一般的には魔獣を飼い慣らすようなイメージで構わないと。実際、成功率はあまり高くなく、何十回もして成功率することもある。
セリーヌの持論だと、盟主が従者よりも強い、もしくはそれに準ずる信頼や従う強さがあれば成功率は上がると考えてはいる。
アミュはもう頭がパンクしそう……。オボロも、理解仕切れていない……。クロネはやっと話に付いていける程度………。
と、オボロが質問する
「あのセリーヌさん?クロネとアミュを盟約したとして、どんなメリットが?」
天井を見るセリーヌ……。
「可能性だが……従者が魔獣だった場合……ごく希に……人型に変異する……私は……1度だけ見たことがあるさね」
かすかな望みがオボロに舞い降りた!
(そうなれば、クロネもアミュも町に!………ん?確か魔獣って言ってたな……)
「えーとセリーヌさん?クロネは鳥で黒鳥、アミュは蜘蛛で虫?なんだけど……」
自信無く質問するオボロ。
「あっひゃっひゃっ!アハハハ!」
笑い出すセリーヌ。
「なぁに言ってるのさ!クロネもアミュも……魔獣さぁね!」
━━━!
事実に驚くオボロとクロネ!
オボロは、獣と魔獣の違いを聞いた。セリーヌは笑いを堪えながら……獣はその辺にいて目が黒い。魔獣は目の色と基本的に黒い角で、ある程度判別できると。クロネとアミュの目を指し……目の色でおよその魔力の量がわかる。魔力量が少ない順に……緑、青、黄、赤と。
クロネとアミュを見直すオボロ。
……………!!
(魔力量多いんだ………どうりで強い理由だ………)
首を落とすオボロ。
「ねぇ?オボロちゃん?あんた凄いのさ!魔獣2匹も引き連れてさ!」
と、オボロのなで肩をポンポン叩くセリーヌ。
クロネがセリーヌに
「セリーヌさん?私もアミュも、角は無いと思うのですが……」
クロネに近付くセリーヌ。
頭上を観察する……。
「ほら、あるさね!」
と、黄色のふさふさの鶏冠を掻き分けると……低く小さい角が!!それを指でつまむセリーヌ。
羽根で角を触るクロネ……!
(あら?ありましたわね)
外へ出てアミュを呼ぶセリーヌ。屋根の糸を離し、カサカサ寄ってくるアミュ。
アミュの頭部を観察する……。
「これかしら、ね?」
と、頭部の両脇にコブの様なものが盛り上がっている!
前脚で、ちょこちょこ触るアミュ。
セリーヌは振り返り
「クロネもアミュも、これから角が角らしくなると思うさね!」
腕組みしているオボロ……。
(ここまで色々教えてくれて、俺やクロネの知らないことまで知っていて……ありがたい……)
━━━!
と、長老の言葉を思い出す!
(固有魔法紙を見せるなら相手を選べ)
クロネとアミュと何やら談笑してるセリーヌ。
オボロは腰の鞄から固有魔法紙を取り出す……。
そして━━━
「セリーヌさん!これを見てどういう物なのか教えてほしい!」
と、固有魔法紙を広げセリーヌに見せるオボロ。
近付き、じっくり見るセリーヌ………。
………
………
セリーヌの目付きが鋭くなった!
「オボロちゃんは、つくづく面白い男さね!益々興味が湧くさね!」
と、固有魔法紙を取り上げ、工房へ入るセリーヌ!
オボロもクロネも、不思議そうにセリーヌの言葉を待つ……。
もうアミュは話が飽きたのか……一人庭で遊んでいる……。




