第3幕〜のんびり行こうよ
ザザ村を後にするオボロ、クロネ、アミュの3匹……。
オボロは不完全な茶トラの猫獣人。
クロネは黒光りする身体、黄色く長いふさふさな鶏冠の黒鳥。
アミュは濃い紫の蜘蛛のブラックウィドウ。
討伐対象に成りかねない3匹……。
村近辺は雑木林で、地面が見えるところが進むべき道、と長老が教えてくれてた。とは言え……雑草やら盛り上がった土やらでわかりにくい………。
波の音も聞こえなくなった……。
潮風ではなく緑の匂いを感じさせる風が雑木林を流れる。
クロネは飛んで先の様子を見たり歩いたり。オボロはマイペースで景色を楽しむように歩く。アミュは……忙しなく動き近くで見つけた獲物を捕食……。この世界『ガイアール』の事を知らな過ぎるオボロは、林の奥に寄り道したい気持ちがあったが……まずはスーデルの町を目指すことにした。
アミュが話しかける。
「ねぇねぇ。お兄ちゃんとクロネお姉ちゃんって、何歳くらなの?」
(そういえば……俺って何歳でいいんだ?爽太なら35歳……今だと……)
悩むオボロ。
続けるアミュ
「んーとアミュはねっ!お兄ちゃんに会った時が……産まれて10日くらい!」
驚くオボロとクロネ!!
(そ、そりゃ幼くて当たり前だよな)
顎に爪を当てオボロは
「そーすると……今はアミュは……産まれて1ヶ月くらいだね」
(生後1ヶ月………成長が蜘蛛は速いのか?)
元気よく返事をするアミュ!
クロネは
「私、気付いたら黒鳥の群れにいましたの。だから正確には……ちょっと不明ですわ……あっ!それなりに大人な♀な事はお忘れなくて!オボロ様」
アミュの方をチラリと見て、さり気なく大人アピールするクロネ!
━━━と、アミュがぴょんぴょん跳ねながら
「えー!アミュだって、蜘蛛の中ではもう大人だよっ?だからいつでもお嫁さんになれるよっ?お兄ちゃん!」
二人の話を聞き、鳥と蜘蛛の世界で大人の基準の違いを思い知るオボロ。
話に入るオボロ
「クロネは体格も精神的にも大人だなって感じるよ!……アミュは身体は大人なのかもしれないけど……精神的には幼いなって俺は感じるな……。だからアミュは俺やクロネを見て、真似したりして学んでって欲しい」
異世界に来てまで幼児教育をすることになりそうなオボロ……。
(私の言いたいことを言ってくれるオボロ様、素敵)
クロネのもやもやが少し晴れた瞬間。
アミュはまた牙をモゴモゴ動かし
「うぅーお兄ちゃんがそう言うなら……」
しぶしぶ理解した様子。
と、クロネがオボロに
「オボロ様は獣人なので、人間とあまり変わらぬ年齢のとり方だと思いますわよ」
と教えてくれた。
「あーそうなると……俺、肉体的には15、6歳くらいかなー。精神的には……」
声を小さくするオボロ
「35歳」
こうして1日目は過ぎ、雑木林に少し入った所で休むことにした。
クロネとアミュはオボロのために獲物を取って来てくれた。有り難くもらい皆で食事……。生肉も慣れてしまったオボロ……。クロネ、アミュは普段通り、啄み飲み込み、齧り付いてモゴモゴ飲み込んで行く……。
寝ようとすると、アミュが周りを見渡し大きな蜘蛛の巣を張った!
「お兄ちゃんっ!クロネちゃんっ!皆で寝よっ?」
きょとんとするオボロ、クロネ。
(あれ?私、今、クロネちゃんって呼ばれた気が……)
アミュは蜘蛛の巣にぴょんと乗る。オボロは爪で糸を触る。粘り気は無さそう……。恐る恐る巣を登るオボロ。アミュは巣の中心で陣取っている!寝そべるオボロ………。
………!
ハンモックのような寝心地……。
オボロが寝そべったのを確認してクロネも巣へ……。
揺れる巣に慣れていないのか、少し落ち着きが無い……。
と、アミュが
「んーとねっ!巣の上なら何か襲って来てもアミュわかるからっ!お兄ちゃんも、クロネちゃんも安心してっ!」
本当に無邪気に話すアミュ。
(あら?またクロネちゃんって呼ばれたわ……)
同格と思われてると感じたクロネ……。
確かにオボロは睡眠や休憩は交代でしようとは考えてたが、アミュのおかげで皆で寝られることに嬉しく思った。
2日目━━━━
まだまだ続く雑木林……。
雑木林が風を遮ってくれるので進むのは困難ではない。
問題は、相変わらずな地面……雑草と凸凹な土……。
(ザザ村までの道筋まで、なんとかしてやりたいよ)
そう思ってしまうオボロ。
後ろを歩いてるクロネとアミュ。何やら話をしている。
「クロネちゃんっ!クロネちゃん!お兄ちゃんとは……どのくらい仲良しなのっ?」
アミュが無神経に聞いている……。
嘴をあんぐり開けてるクロネ……。
「え、ええ……私オボロ様に助けていただいて、それから一緒に狩りをしたり、食事をしたり………隣で寝たり……。それなりに仲が良くてよ?」
本心は隠しつつアミュの問いに答える。
アミュ
「あっ!クロネちゃんもお兄ちゃんに助けられたんだっ!一緒だねっ!一緒!」
クロネの周りをぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
(あら?気になったのはそこなのね?)
少し安心するクロネ。
少し攻めるクロネ
「ねぇアミュ?オボロ様のお嫁さんになれたら……どういうことをしたいの?」
前を歩き聞き耳を立てるオボロは、躓きそうになる!
アミュは牙をモゾモゾさせながら
「えーそこまで考えてないよっ!………でもっ!一緒に捕食したりっ、遊んだりっ、お話したりっ!それから……同じ巣で寝たりっ!」
それを受け安心するクロネ
「アミュは、したいことが沢山あるのね!」
(アミュは♀としてはまだまだ未熟だわ!)
と、確信するクロネ!
自然と歩幅が大きくなる!
━━━!
雑木林の影に猪のような獣がいた!
どうやら仕留めた獲物を食べている様子……。
オボロがシーサーペントの角を抜き取り構える!
「クロネ、アミュ!これを試したい!良いかな?」
小声で伝えるオボロ。
クロネは頷き、アミュは前脚を挙げる。
ゆっくり構えながら獣に寄っていくオボロ……。
尖った小石を踏んでしまい我慢する声が漏れるオボロ!
━━━気付かれた!
獣は振り返りオボロ目掛けて突進してくる!
五感オーラ、身体強化で難なく横へかわすオボロ!
直ぐに角を地面と水平に構え脇腹を突き刺しにかかるオボロ!
━━ジャクジャク!
見事突き刺さる!
そのまま持ち替え肉球で角を押し込む!
━━ジャクジャク、グジュ!
真横に倒れる獣!
突き刺した箇所から血が流れる……。
角をゆっくり取り出し数回振り付着した血を落とす……。
手首を回し、ひゅんひゅん角を回し背中の筒へ納めた!
振り返るオボロ!
歯茎が見えるほどニヤニヤしてる!
クロネは羽根同士を叩いて拍手!
(もう!さすがオボロ様ぁ!)
アミュは前脚を挙げてぴょこぴょこ跳ねている!
「お兄ちゃんっ!強いっ!やっぱりアミュの王子様っ!」
盛大に褒められて照れるオボロ。
クロネが拍手を止め
「ところでオボロ様?その角の武器の名称は、何か決めてますの?」
(そう言えば……決めてなかったな……)
「名称あったほうが良いかな?」
クロネとアミュに聞き返すオボロ。
クロネ
「ええ、それはもちろんですわ」
アミュ
「そのほうが、かっこいいっ!」
しばし思案するオボロ……。
シーサーペントの角を抜き取り……色んな方向から眺める……。
つの……。
ツノ……。
角………。
━━━!
ルーベが加工してくれた四角錐の形………似てるな……アレに!
オボロは持っている武器を突き上げ
「角錐!!(つのきり)」
と声を挙げた!
錐は、木工で下穴を開けるときに使用する道具。その形状が四角錐で似ていたのである。
こうしてオボロの武器の名称が決まった。
もちろん仕留めた獲物は……ほとんどがクロネとアミュの胃袋へ………。オボロは自分で仕留めた獲物なのに、おこぼれ程度しか食べられなかった……。
雑木林を歩くこと2日間……。
ようやく開けた所に出た!
馬車がゆったり通れる、そこそこ整地された道。
見通しの良い平地。
風が通り抜けて気持ち良い!
クロネは広い空を高く飛び旋回して楽しんでいる!
アミュは盛り上がった土に登りキョロキョロしながら、ぴょんぴょん跳ねている!
(あと1日もあればスーデルの町につけるかな?)
目処がつき安堵するオボロ。
夜になりそうなので、またアミュに雑木林に巣を張ってもらい休むことにした。
翌日━━━
背伸びをし、ストレッチをするオボロ。
クロネは嘴で羽根の手入れ。
何故かアミュは脚を折り畳み、地面を行ったり来たりコロコロ転がっていた。
クロネ
「どうしたのアミュ?」
不思議そうに聞く。
転がりながらアミュは
「これから、人間のいる町に行くんだよねっ?アミュ……人間を襲わないか……不安で、心配で……」
━━━!
オボロは、重大なことを忘れていた!!
クロネとアミュの存在!
オボロは獣人として町には入れるかもしれないが……クロネとアミュは獣……。どう町の人を説得しても……無理!
クロネも同じ様なことを思っていた……。自分はよほどの事では無い限り、人間を襲うことは無い……しかしアミュは……幼くて世間知らず!
クロネとアミュを静かに見るオボロ
「ど、ど、どうしようか?」
冷や汗たらたらなオボロ……。
その場を小さく円を描くように小股で歩き回るオボロ……。
オボロの悩みっぷりにクロネが話す。
「悩んでいても仕方ありませんわオボロ様!……私とアミュは町の外でお待ちしてますので、オボロ様だけでも町の中へ」
どのみち獣は町に入れないと言うことは、なんとなく悟っていたクロネ……。
━━ぽん!
と、肉球同士を叩くオボロ。
「さっすがクロネ!うん!良し!それで行こう!」
(俺だけでも入れれば町で話を聞けるしな)
3匹は開けた道を進んで行く。
昼過ぎくらいになるだろうか……町のような塀に囲まれた物が見えてきた!
意気揚々と足に力も入るオボロ!
町の出入り口には、門番らしき人間……。商人っぽい人間や武器を携えた人間が数名ほど居た。
町に進んでいくオボロ達……。
笑顔のオボロ……。
出入り口付近の人間は3匹を見て、驚きと恐れている表情……。
怖がりながらも二人の門番が槍を構えオボロの前に立ち塞がる!
「た、旅の方々でしょうか?」一人の門番が問う。
もう一人の門番はクロネとアミュの存在感に圧倒されそう……。
クロネは気を利かせて、羽根でアミュを誘導しオボロから離れた位置へ移動した。
(やはり……こうなりますよね)
オボロは門番に旅をしてる事を伝え、長老からの手紙を手渡す。さらにクロネとアミュの方を向き、あの2匹に敵意は無いことも伝えた。
門番らは町の外で待つよう言い残し、走って町に戻って行った……。
町の出入り口に居る人間達の騒々しさと視線が刺さるオボロ達……。
(なんとか俺だけでも!)
長老の手紙に希望を託すオボロであった……。
3匹は町の出入り口より少し離れた塀の前で待機することにした。
前方には大きめな岩、細めな木が数本密集している。
そよ風が木々を揺らしざわめく……。
密集している木々の中に、小さな生き物が、静かに身を潜めていた………。
【戦歴】
オボロ VS 野生猪
武器『角錐』で腹部へのひと突きで、圧勝
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