第2幕〜猫+鳥+蜘蛛=?
まだ靄のかかる早朝のザザ村……。
ゴーラ達が漁に出る様子。
長老宅の後ろの林で巣を張り寝ているアミュ……。クロネはアミュを見つめていた。何か思う事でもあるのだろうか……。漁船に先回りをし、ゴーラ達と一緒に漁へ出る。
朝陽が昇り始めた頃、アミュは巣から、もそもそと這い降りる……。長老宅の窓から寝ているオボロを覗き込むアミュ……。お腹に肉球を置き、もう片方の手は枕に当たってる。ベッドから片足が落ち、尻尾の先だけが小刻みに動いている……。
(お兄ちゃん、寝相悪いんだっ!)
アミュは村の入り口付近へ行き餌探しへ向かった……。
陽が真上になるくらいになり、ようやくオボロが大欠伸をしながら長老宅のドアを開け出て来た……。日々の疲れか久しぶりに熟睡したなと思うオボロ。
相変わらず長老は庭の長椅子で村内を眺めている……。
オボロは長老に、ここから一番近くの町か村はあるかと尋ねた。以前話した物々交換をしてくれる町が近いと。それでも歩けば2、3日は必要と。町の名前は『スーデル』と言い、そこへ行くなら長老が手紙を書いてくれるとも言ってくれた。町長、ギルド長ともに知った仲らしい。
(……ギルド?)
オボロはギルドについて聞いた。依頼をし日銭を稼ぐ組織みたいな物で、獣の討伐や商人や旅人の護衛、家の修理の手伝いやら、野草の採取など内容は広いと。
(狩りなら問題無さそうだな)
と考えるオボロ。
━━!
長老がポツリとオボロに
「若い獣人よ……あの蜘蛛のお嬢ちゃんを導いてやってはくれぬかの?まだ幼く世間を知らぬし、善悪の区別も間々ならぬと見受ける……それにあの魔力量……誤った使い方をすれば……脅威ぞえ?……まぁ……老人の独り言だと思ってくれていいぞえ?」
━━と、村の入り口からアミュが来る。
糸を網にし、その中に無数の獣を引きずって来た!
「ねぇっねぇっ!おじいちゃん!おじいちゃん!アミュねっ!獲物取ってきた!みんなで食べて欲しいっ!」
と、口元を血に染めて無邪気に言うアミュ。
にっこり微笑む長老。
健気なアミュを見るオボロ
(長老のことを……おじいちゃんって……)
村中央の大木の前に網を広げマーマン達に自慢し喜んでいるアミュ!
(……無知ってある意味怖いんだよな……確かに幼い雰囲気は感じてた……。長老の言ってたことは今のアミュではなくて……これからのアミュのことなんだな……)
物思いにふけるオボロ……。
転生したオボロには、この『ガイアール』の事はほとんど皆無に等しい……。頼れるのは……クロネと長老くらい……。
(クロネに相談してみるか……)
漁から戻ってくるクロネ。
オボロが手招きしてるのを発見し向う。長老宅の脇に移動する二人。クロネに長老に言われた事を伝えた……。驚くクロネ!同じ様なことを考えていたとオボロに告げる!今後の事もあるので相談したいとオボロは言う。
まだ捕獲してきた獲物をマーマン達に自慢しているアミュ……。
その姿を二人は見ながら……。
クロネが口を開く
「アミュがこのまま単独で生きていくのは……危険かと私思いますの……きっとどこかの町や村で暴れたりして……討伐対象にされたり……権力者に飼われ無理矢理戦わされたり……あくまでも可能性ですのよ?」
オボロは腕組みしながら
「アミュの経緯はわからないが……俺は……なんか放っておけない……転生する前は父親だったから……雰囲気が小さい頃の娘と……重なってしまう……」
(オボロ様は子供好きなのかしら?)
クロネは思ってしまった。
オボロはクロネに、まずはアミュの話を聞いてから判断しようとまとめた。
…………………
獲物を自慢しているアミュを呼ぶオボロ。
アミュは気付き、そこから高く飛び上がり体操選手のように空中で回転しオボロの前に登場する!
(俺と同じくらい跳躍あるのでは?)
と感じるオボロ……。
8つの赤い単眼をキラリと光らせてるアミュ!オボロは3人で砂浜散歩しようと提案。アミュは迷い無く提案に乗る。
━━━━岩肌が近くにある砂浜
アミュが左、オボロが真ん中、クロネが右で並んで砂浜を歩く3匹………。
穏やかな波打ち際……。
すこし強めな潮風……。
「そろそろお話してくれるかな?アミュ?」
と、オボロから問いかける……。
止まるアミュ……。
口の牙を、モゾモゾ動かしている……。
「アミュはね……ブラックウィドウでマザーから産まれた眷属のうちの、一匹なの……」
振り返るオボロ、クロネ。
「マザーが、たっくさんこの世界の事、アミュ達にお話してくれたの……マザーは優しくて……強くて……アミュの事を一番可愛がってくれてたっ!」
静観して聞くオボロ、クロネ。
全ての8つの赤い単眼の縁に水分の様なのが見える……。
「……いきなり……あのナルシストの蜘蛛が眷属引き連れて……アミュ達の巣に……攻めてきたの!!」
(あーあの灰色の蜘蛛の事な)
オボロ、クロネは、そう判断している。
「マザーは……アミュ達の事を頑張って守ってくれたのっ!!でもっ!!……マザーはアミュを逃がすため……庇ってくれたのっ!!……でもねっ……ナルシスト野郎の眷属達に………マザーもっ!みんなもっ!食べられちゃったの━━━!!!」
転生前の歳のせいか、目頭が熱くなっているオボロ……。
クロネは黄色い目を細めて聞いている。
全ての8つの赤い単眼の縁の水分が、表面張力で、ツーっとアミュの顔を滑り落ちて行く……。
「それでっ!!勝手にナルシスト野郎のお嫁さんに……されてたっ!!」
悔しさと悲しみとが、混同して語るアミュ……。
━━━━口の牙のモゾモゾの動きが変化した!
アメリカンクラッカーのように左右に動かし、牙同士を当ててカチカチ鳴らす!
前脚は……鋭い先端同士を絡めるように、くるくるし始めた!
「それで……あの屋敷で……王子様に出逢ったのっ!!……そう……お兄ちゃんにっ!!」
ここは、照れながらも、嬉しそうに話すアミュ!
強めな潮風が3匹の間を通り抜け、砂浜の表面を薄く拐って行く……。
「……だからアミュ……独りぼっちなの………」
全ての脚を折り曲げ砂浜に留まるアミュ。
隣に行くオボロ……。
アミュとオボロの後ろに立つクロネ……。
「話してくれてありがとうアミュ!」
オボロは前脚に手を添える。
オボロはアミュに出逢う前までを理解できるように話した。
クロネとの出逢い。
はぐれ島での猿達との戦いと生活。
そして、自分が別の世界から生まれ変わって、生きてるかも知れない娘を探す旅で、ここにいる事。
アミュは多くの情報を処理しきれなそうである……。
オボロの方へ身体全体を向け口が砂浜に付くくらい下げ、腹部を持ち上げ、前のめりで
「アミュの王子様はお兄ちゃんでっ!旦那様になるのっ!!だから……一緒に連れてってっ!!」
腕組みしてるオボロ……。
━━と、沈黙していたクロネが
「オボロ様っ!少しよろしくて?」
アミュを見下ろしているクロネ。
「アミュ?一緒に行くと言うことは……オボロ様に迷惑かけないこと!勝手な単独行動はしない事!……それと……王子様でも、旦那様でもかまわないですが……オボロ様は……みんなのオボロ様よ?」
なんか後半は私情が入り込むクロネ……。
クロネを見上げるアミュ!
アミュの8つの赤い単眼と……
クロネの2つの黄色い目が……
眼力で争い始めていた……。
二人を交互に見るオボロ……。
後頭部を掻きながら
(これからの旅のことを考えると……賑やかなのは良い事だし、アミュは戦力になりそうだし……クロネの同意?も得られたし……)
サッと立ち上がるオボロ!
海を背にクロネとアミュの前に立つ!
「良し!わかった!」
爪をしまい右手をアミュに差し出す。
「俺の我儘に、付き合ってくれ!アミュ!」
鋭く細い前脚を出すアミュ!
それを肉球で包み込むように握るオボロ!
クロネも羽根先をその上に添える!
夕陽が3匹を照らし
猫
鳥
蜘蛛
の、3つの影が砂浜に長く伸びる………。




