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第2幕〜蜘蛛の花嫁・4

 

 ━━対策会議の翌朝


 昨日と同じ心地よい潮風が吹くザザ村……。


 小舟で偵察してきたゴーラ一行が戻って来て、まだ鍾乳洞に居るようだと報告してくれた。


 オボロはグリナから作成してもらったブランコをクロネに紹介してた!

 作りは単純!二枚重ねた板に穴を開け、太く丈夫なロープを括り付けた物。試運転をしてみる。オボロは板に座り、クロネが太いロープをかぎ爪で掴み……飛ぶ!


 まるで空中ブランコのように空を飛ぶオボロ!マーマン達が小さく見える!子供のマーマンは憧れの眼差しで二人を見てる。ほかのマーマンも感心しながら見上げてる。

 地上へ戻るオボロ。かなり満足な雰囲気。クロネもロープの太さは問題無い様子。漁船からはこのブランコで移動するつもりなオボロ。


 被害を最小限にするため、オボロ、クロネ、ゴーラ合わせて10数名で向うことに。長老や村民に見送られて漁船へ……。


 オボロは漁船をちゃんと見るのは初めてであった。

 所々補修された外装……。


 乗り込むオボロ……。


 軋む甲板の床……。


 縫い合わせられた帆……。


 漁の道具も使い込まれ、ボロボロ……。


 文化の進んだ世界に居たオボロとしては……これで大丈夫なのか?と思ってしまうほどの漁船……。

(この漁船もなんとかしてあげたいな……)

 と、情が入るオボロ。


 ゴーラの号令で出発。


 クロネの定位置はどうやら甲板の最先端のようだ。潮風と漁船が進む勢いで黄色のふさふさの鶏冠の毛がなびいている……。

 オボロは甲板の手すりに掴まり波飛沫をもらいながら立っている。

 ゴーラに万が一、シーサーペントが漁船に向かって来たら、俺達の事は良いから、自分達だけでも逃げてほしいと伝えるオボロ。それを受けてゴーラは、申し訳なさそうな顔をしてしまう。


 しばらく進む……。


 ほぼ直進だった岩壁が、曲がり始めた!


 ゴーラが歩み寄り、この曲がった先に鍾乳洞が見えますと、伝えてくれた。

 ギリギリまで行って、漁船が直ぐに逃げられるように船体の向きを変えておこうとアドバイスするオボロ。


 ……


 鍾乳洞が見えるギリギリ手前でゆっくり旋回し後退させて待機する漁船。


 オボロは餌となる魚の布袋を持ち、ブランコに座る。

 後ろにクロネが待機している!

(さぁて、退治に行くか!)


 ━━━━!!


 オボロの耳が何かを察知!

 耳をちょこちょこ動かすオボロ……。


 かすかに笑い声が聞こえる……。


 ゴーラにこの辺りに人が住んでるのかと聞くと、ゴーラはそれは無い!と言い切った。


 クロネは首を傾げている。


 漁船の最後尾へ行くオボロ……。

 後を追うクロネ……。


 鍾乳洞が見える……。


 ━━━━!!


 海面には飛び跳ねているシーサーペント!

 その上には、糸にぶら下がる蜘蛛が!!


 アミュは糸を上げ下げしながら


「あははっ!うっわぁぁぁ!あはっ!」


 ………


 鋭い8本の脚!

 8つの赤い目!

 腹部の赤く細い8本の線!


 オボロもクロネも見覚えがあった!


 クロネは状態を前のめりし

「あれは?……あの洋館で助けた蜘蛛では?」


 オボロは手すりから少し身を乗り出し

「んにゃ!間違いないな……なんであんな所に居るんだ?」


 ………


 アミュは糸を上げ下げし潮風と体重移動で左右に揺れながら

「うっわ━━━!あはっ!あははっ!」


 シーサーペントは海面から大きな口を開けて、アミュを狙っている様子………。


 クロネ

「えーとオボロ様?……襲われているのでしょうか?それとも………遊んでるのでしょうか?」


 オボロは爪を軽く眉間に当て

「どっちにも取れるにゃ……蜘蛛とシーサーペント両方相手にはしたくないかな」


 餌袋を掴み……


「クロネ!まずはシーサーペントを狙おう!」と、賭けに出るオボロ!


 ━━━と、シーサーペントが海面から顔を出し、口に溜め込んだ海水を一気に放った!!


 放った先は……アミュの糸が付着している崖の岩場!!


 オボロは迷わず━━!

「クロネ!助けてやって!」


 クロネは手すりを蹴り魔力を上げアミュ目掛けて弾丸のように飛んだ!!

(どこまでお優しいのかしら……オボロ様は……)


 大きく揺れる漁船!!

 海水が甲板に流れ込む!!

 慌てて掻き出すゴーラ達!!


 放たれた海水が崖に当たりその部分が破壊される!


 そのまま落下するアミュ!!


「あれれ━━?やばいよぉ━━」

 叫ぶアミュ!!


 大口を開けて落下するアミュを待つシーサーペント!!


 錐揉みで落下するアミュ!!


 ひゅん━━━!


 クロネのかぎ爪がアミュの脚をかすめ取り、上空へ!!

 そして旋回し漁船へ戻ってくる。


 シーサーペントは諦めたのか海面へゆっくり沈んで行った………。


 ━━━甲板


 8本の足が折りたたまり、背中を下に丸くなっているアミュ……。


 腹部あたりを、つんつん嘴で小突くクロネ。


 オボロも肉球で触れアミュを揺らす……。


 ━━!


 脚が一斉に開き、正常な態勢になるアミュ!!


 二人距離を取る!!


 ゴーラ達マーマンは大きな蜘蛛に恐れて船室の方へ逃げて様子を伺っている。


 8つの赤い単眼を使い、その場で8本の脚をカチャカチャ動かし見渡すアミュ………。


 ………


 ………


 8つの赤い単眼がオボロを捕らえた!!

 飛び上がり8本の脚を広げオボロへ━━!


「会いたかったー!アミュの王子様ぁぁ!!」


 クロネ

(お、王子様ですって!?)


 オボロ

(なっ?喋れるのかよ?)

 回転レシーブのように交わすオボロ!!


 アミュはそのまま甲板にズシリと落ちる!!

 大揺れする漁船!!


 オボロ

「あーちょっと待って!!この前洋館に居た蜘蛛……だよね?」と尋ねる。


 カチャカチャ脚を動かし振り返るアミュ。


「うん!!王子様に助けてもらったアミュだよ?」


 王子様発言に困惑気味なオボロ………。


 続けてアミュは

「えーとね、アミュねっ……その……お礼言いたかったのと……王子様に会いたかったのと……」

 口の牙をアメリカンクラッカーのようにカチカチ鳴らし、鋭い前脚を重ね合わせくるくる回転させている……。


 アミュの言い方にピンと来るクロネ!

(もしやオボロ様に……一目惚れしたのかしら?)

 と、♀の勘が働く!!


 オボロは1歩引く感じで……

「そ、そうかぁ……元気になったみたいで良かった!」

(こんなに蜘蛛に凝視されたの初めてだよ……)

 少しビビりなオボロ………。


 まだもじもじし、口の牙を鳴らし前脚をくるくるしているアミュ……。


 さっきよりも大きな声で


「王子様!」


「は、はひっ!」

 思わず返事をしてしまうオボロ!


「アミュのぉ………」


 揺れる漁船……



 波飛沫が甲板に跳ねる音……



「旦那様になって!!!」


 クロネ

「はぁぁぁぁ!?」

 と、声に出してしまう。


 オボロ

「えっ?えぇぇぇー?」


 後ろのゴーラ達も、驚きざわついている……。


 漁船の揺れも少し治まる……。


 遠くでグンカンドリの鳴き声……。


 クロネはオボロに近づき、アミュを背にして、羽根で二人の口を覆い……

「ちょっとオボロ様っ?どういうことですの?」


 オボロ

「い、いや俺もわからない……けど助けてお礼が言いたいのは本当だろう……でも王子様って………」

 変な汗しか出ないオボロ。


「私は……王子様と言う呼び方はいかがなものかと……」

 オボロを取られまいと必死なクロネ!


 カサカサカサカサー!!


 二人の後方へ忍び寄るアミュ!


「ねぇ?……クロネお姉ちゃん、で良いんだよね?さっきは助けてくれて、ありがとっ!」

 無邪気に感謝するアミュがいた!


 二人は驚き振り返る!


 クロネ

「あっ……ええ!……オボロ様に言われましたので」


 アミュ

「そーなんだっ!空飛べるって凄いよねっ!!さすがクロネお姉ちゃんだよぉ!!」

 計算なのか天然なのか……お世辞を言うアミュ。


(お姉ちゃん……ね)

 クスッと小さく笑うクロネ。

 ここで上下関係をはっきりさせないといけないと思うクロネ!


「ええ!凄く嬉しいわ!アミュちゃん!!私、オボロ様とは長ぁいお付き合いで、信頼も厚く、とーても!とーても!仲がよろしくてよ?」

 後半は盛り過ぎな言い方をするクロネ!


 アミュ

「うんうん!仲良しなのは良い事だよねっ!」

 と、あっさり返し直ぐに

「あっ!でも王子様はアミュの旦那様にはなってもらうからっ!」

 全く悪気無く言い放つ。


 クロネ

(嗚呼……その無邪気さが……私も欲しい)

 と、痛感。


 やり取りを聞いていたオボロが、やっと会話に入れると

「あ、あのぉ……とりあえずアミュちゃん?王子様とか旦那様って呼ばれるのは……抵抗あるんだよねぇ……」


(さすが!オボロ様!)

 感心するクロネ!


 アミュは8本の脚を地団駄踏むように

「えぇー?やだやだやだやだぁ━━━!!」


 また揺れる漁船!!


 困るオボロとクロネ。

 と、漁船が心配なゴーラ達!


 ………


(何か!何か!良い呼び方は無いのか?)

 このままでは漁船が破壊されてしまう!!焦るオボロ!!


 ━━━!


 と、オボロは、ナナとサキの一人息子のダイキの事を思い出す!ナナとダイキは2歳しか違わなく、小さな頃から交流もあったため兄妹みたいな関係であった。

 ダイキは呼び捨てで『ナナ』

 ナナは『ダイにぃ』

 と、呼び合っていた事を!


(物は試し、だ!)


 恐る恐る口を開くオボロ……。


「アミュちゃーん?」


「なになに?旦那様?」

 無邪気なアミュ。


「お兄ちゃん!」


「なんて呼び方はどうかなぁ?」

 まるで子供をあやす様に言うオボロ……。


 口の牙をもぞもぞ不規則に動かしているアミュ……。

 前脚を上げたり下げたりと、妙な動き……。


 ……


 ……


 この間に耐えられないオボロとクロネ……。


 息を止め……唾を飲み込むオボロ………。


 ピタリと動きが止まるアミュ!


「うん!良いよ!」


 横を向き

 ぷはーっと息を吐き出すオボロ!


「じゃっ!お兄ちゃんでねっ!」

 無邪気さ満点なアミュ!


 クロネは呼び方云々よりも……何かある意味、強敵が現れてしまったと感じていた。



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