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第1幕〜記憶の旅・2

 


「パーパー!」

「マーマー!」

「起きてぇーーー!」

 半べそなナナが、そこに居た。


「起きてよぉーーー!」

 ナナは、泣きじゃくりながらも、精一杯の声で叫ぶ。


 その声で、爽太もマキもなんとか意識を取り戻す。


「パパ!ママ!」

 安心した顔のナナ。


(どういう状況だ?今)

 爽太は見渡す。


 ━━━唖然とした


 爽太とマキは土砂崩れで二人とも両足は土砂に埋まり、潰されたであろう車両に固定されていた!


(くっ!抜け出せない!俺もマキちゃんも、抜け出せない、な)


 爽太もマキも、抜け出そうと試みるが、無駄に体力を消耗するだけと考えて、動かないようにした。


 弱々しく泣いているナナ。


 ………土砂崩れに巻き込まれ、どのくらい時間が経ったかのか。


 周りは土砂と他の車両。そして倒れた木々。そこから見えるかすかな太陽の光。


 車の中を見渡す爽太。

 ………

 ………


 幸か不幸か、ナナは、土砂にも埋もれず、車にも挟まれていない!


 爽太はマキちゃんの方を向き

「マキちゃん!ナナに救援を頼もう!今動けるのはナナしか居ない!」


 ………


 ぐすぐすと、泣いているナナ。


 ………


 それを見つめる爽太とマキ。


 ━━━しばし沈黙


 遠くで小鳥の鳴き声。


 マキが口を開く。

「爽太さん。私は爽太さんの考えに従うわ」

 目は真剣だが、口元は、少し震えている。


 マキの気持ちを汲み取り爽太は━━━

(ナナには、危険な事をさせてしまう)

 そう思いつつも


「ナナ!ナナちゃん!」

 大きめな声で投げかける。


 袖で涙を拭きながらナナは答える。

「なぁに?パパ」


 爽太は軽く息を吐き


「いいかい?ナナちゃん!お願いしたいことが、パパたちはあるんだ!」


 目をパチクリするナナ。


 続けて爽太は自分とマキの()()()()を外した。マキはすかさず、土砂にまみれた自分の()()を手を震わせながら差し出す。

「これ、は?」と爽太。

「ナナに…何か…あったら…困る……でしょ?」悲しくも微笑みを浮かべ、マキは言う。


「わかった!」爽太はそう答え━━


「ナナちゃん!そのポーチを渡してくれるかい?」


 ナナがお出かけの時に、いつも使っているお気に入りなポーチである。


「……はい。パパ」


 少し泥だらけのお気に入りポーチを渡す。


 そのポーチに先程の二人の結婚指輪とマキちゃんの財布を押し込む。


「ナナちゃんは、今からパパたちが、ここに居るよって大人たちに伝えて来て欲しい!」

 ナナの目をしっかり見て、優しくポーチを渡す。


 ……

 ……



(もしかしたら、助けが呼べるかも)

 そう願う爽太。


 ナナは、俺たちをじっと見ている。不安そうに。


 マキちゃんが、ナナに話しかける。声を震わせながら。

「ナナちゃん!パパとママたちは、動けないの。ナナちゃんだけが、今は頼りなの。ナナちゃん頑張り屋さんだから……ね?」


 爽太も、マキちゃんの内容に賛同するように、沢山頷く。


 そんな俺たちを見て、ナナが答える。


「うん………わかった………」

 まだ不安そうだ。


 当たり前である。

 突然の事故の連鎖。不運にもほどがある。大人ですら、パニックになるほどの。


 爽太はナナに話しかける。

「ナナちゃん!パパはナナちゃんの笑ってる顔が……大好きだよ!いつもその笑顔で、明日もお仕事頑張ろう!って気にさせてくれる!」


 爽太は、これが最後の会話になるかも知れないと思い、さらに続ける。


「ナナちゃんは、その笑顔で……周りの皆を幸せにして欲しい!」

 マキも、爽太の言葉に頷いている。


 ━━━ギシ……ギシギシ


 車両が少し傾く。


 覚悟を決めたのか、ナナが微笑んだ!

「ナナ、助けを呼んでくる!」


 お気に入りのポーチを背負い直す。


 爽太は運転席のシートを無理やり倒す!


 後部座席の窓ガラスを力一杯叩き割る!!


「うぉぉりゃぁぁーー!」


 なんとか窓ガラスは割れた。が、爽太のその手は破片で血だらけ。


 また泣きそうなナナ。


「さぁ、お願いだナナちゃん!そこから上へ登って行って大人たちに……」


 ナナの手を引っ張り車両の外へ出す。


 ガラス片がナナの服に引っ掛かる。


 爽太は破片を血だらけの素手で取る。


「ぐぁぁ!」


 ナナは振り返る。


「心配するな!パパは大丈夫!」

(手の感覚が、無くなりそうだよ)

 続けて爽太は

「ナナーーー!頼んだぞーー!」

 息が上がる。


 叩き割る衝撃で、さらに車両が傾く。


 ………ギギ


 ………ギギギ



「俺たちは、何があっても家族だからな!ナナの……笑顔が大好きだぞ!」


 さらに息が上がる爽太。


 思い出したかのよう

「きぬのことも、頼んだからな!」


 マキは爽太の言葉を噛み締めながら、涙を浮かべながら聞いていた。


 ナナは、チラチラこちらを見ながら、一生懸命土砂を登って行く。


 爽太とマキは手を重ね合わせ祈るように、ナナが見えなくなるまで、涙目で視界が緩みながらも見届けていた。


(これ以上被害が大きくなる前に……間に合ってくれ!)


 そう願う爽太とマキ。


 と、その瞬間━━━


 車両が傾きかける。


 ギギギ━━━


 ギシギシギギ━━━


 車両が傾き、さらに土砂の崖を転がり落ちる━━━


 転がろうとする車両の中

 マキが、ボソリと話す。


「なんとなく」

「なんとなくだけど、悪い連鎖があると感じていた……」


 爽太は驚き、マキを見た!


 ━━━━━!


 息はある!気絶している様子。


 そして車両は土砂の斜面を転げ落ちて行く。


「くっ!」

 手の痛みで目を覚ました爽太。


「マキちゃん!マキ!マキ!」

 身体を軽く揺すりながら話しかける。


「んん……」

 なんとか意識を戻したマキ。

「……爽太、さん?」


「あぁ!俺だよ!青葉爽太!」


 痛みと薄れ行く意識の中二人は会話する。


「ナナ、助けを呼べただろうか?」爽太はボソリと発する。


「ええ、きっと、きっとあの子、なら……」マキもボソリと発する。


 しばしの間━━━


「俺はマキちゃんとナナ、それから、きぬに出逢えて……幸せ、だよ……」爽太はつぶやく。


 頷くマキ。

 二人強く手を握りしめている。


 マキも声を絞り出すように

「私も、爽太さんと……同じ……気持ち……」


 二人とも車両に脚を挟まれて、すでに感覚は消えかかっている。


 爽太はマキを抱き寄せる。

 少しでもお互いを感じていたいから………。


 抱き寄せたまま

 二人の意識は消えそうだ。


 そんな中、爽太は━━━


(家族を守るとか啖呵切っといて、このざまかよ!何やってんだよっ!俺!)


 後悔である。


 続けて爽太は━━━

(このままくたばったら、ナナを守れない!どんな形でも良い!………ナナを!………家族を!………守りたい!)


 サイレンの音は……聞こえない。


 聞こえるのは……木のざわめき、のみ。


 そして━━━



 ━━そのまま意識を失う爽太とマキ


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