第2幕〜蜘蛛の花嫁・3
洋館の外は陽が落ち始めていた……。
破壊されたステンドガラスから、わずかに明りが差し込む……。
未だうずくまってるオボロ……。
そんなオボロに、蜘蛛の巣に張り付けられたままのクロネが心配し話しかける。
「オボロ様、お怪我は?……長老から頂いた薬丸を使ってみては?」と。
(そういえば……貰ってたな)
ポケットから薬丸をひと粒取り出し……ガリッと噛み……飲み込むオボロ!
……
……
(チャクラよりも効果あるのかも!)
痛みも出血もだいぶ和らいだ!
ロビーの階段を登り、手すりを伝ってクロネの元へ……。
(手が届きそうだな)
爪を出し腕を伸ばし、恐る恐る蜘蛛の巣の端を斬る……。
多少へばり付くが、半分ほど斬った。剥がれ落ちる蜘蛛の巣……。そのまま床へ落ちるクロネ……。
むくりと起き上がるクロネ……。先端の羽が一部分無くなっている……。
(はぁ……今回もオボロ様のお役に立ててなかったわ)
そんな事を思うクロネ。
いやいや相当な働きぶりですよ?クロネさん?
手すりを滑り台代わりに、お尻で滑り落ちてくるオボロ!
クロネに駆け寄り気遣う。
心配なのはオボロの左肩くらい。
もう1つの蜘蛛の巣をロビーから見上げオボロは
(さて、どうしようかね?)
ゆっくり丁字の踊り場中央の蜘蛛の巣へ寄っていくオボロ……。
張っていた蜘蛛の巣の一部分が剥がれ始めた!
ゆっくり剥がれていく蜘蛛の巣……。
捕獲されている蜘蛛の重みで蜘蛛の巣を巻き込み丁字の踊り場から階段へ転げ落ちてくる!!
━━!
「んにゃ!?」
避ける体力も無く、それに巻き込まれてしまうオボロ!
2匹揉み合いながら転げ落ちて来る!!
そのまま洋館の入り口ドアまで揉み合い、そこで止まった!
舞う砂埃……。
入り口脇の大きな額縁が、衝撃でガタリと傾く……。
その額縁の裏から━━
1枚のボロボロな紙切れがストンと落ち、オボロの近くに向かって床を滑って行った……。
蜘蛛の巣まみれのオボロとアミュ……。
状態としてはアミュの下敷きになりかかっているオボロ……。
転げ落ちドアに衝突した衝撃で、ほぼ同時に目を覚ます2匹……。
重なり合う蜘蛛と猫……
目が合い見つめ合うアミュとオボロ………。
アミュは8つの赤い目を輝かせ
(あっ……王子様)
口の牙を合わせくるくる回転させている……。
オボロは蜘蛛の顔面に驚き
「ん、にゃ━━━━!」
必死にもがいて、蜘蛛の巣を払い、アミュの胴体からずりずりと抜け出す!!
抜け出す時に、額縁から落ちた紙切れを無我夢中で掴んでいた。
小走りで駆け寄るクロネ。
「オボロ様ぁ!」
オボロは心配ないとアピール。
……
蜘蛛の巣まみれのアミュ……。
オボロは爪で、クロネはかぎ爪と嘴でそれぞれ絡まってる蜘蛛の巣を取り払って行った……。
蜘蛛の巣を取り終えた二人。
その間ジッとして身動きしないアミュ……。
オボロとクロネはアミュから少し離れ背を向けてコソコソ話す……。
オボロ
「とりあえず命には別状無さそうだし……」
クロネ
「……衰弱はしてそうですわね……」
オボロ
「あっ!薬丸もう一つあるから食べさせようか?」
クロネ
「ええ、私は平気なので、あちらの蜘蛛に差し上げても問題ありませんわ」
背を向けて話しているオボロが気になるアミュ……。
━━!
と、オボロがアミュに近づいてくる!
何かドキドキしてるアミュ!
オボロは手に持っていた紙切れをポケットへしまい、別のポケットから薬丸を取り出し、目の前に見せる……。
(言葉通じるかわからないけど……)
「薬丸ってやつでポーションみたいなものだよ!」
と、牙のある口元へ運ぶ……。
アミュは牙を広げ口を開く。
ポロンと放り込むオボロ。
━━んぐ!
飲み込んだようだ!
アミュは初めてな味で、少し吐きそうになるが、蜘蛛なので表情が読みてれないオボロ。
(大丈夫そうだな)
オボロは蜘蛛に物怖じもせず、前足を触り
「しつこい奴は退治したよ!早く安全な場所に行きなよ!近くに村があるけど……襲いに来ないでほしいな……」と。
アミュは触れられてる前足に優しさを憶える……。
オボロはクロネの方へ行き振り返り
「変な奴には注意しろよぉ!」
クロネのかぎ爪に掴まり、突入したステンドガラスから洋館を飛び立って行った……。
独り残されたアミュ……。
ステンドガラスからは満月が見える……。
(……王子様が行っちゃった……。ちゃんとお礼を言わなきゃ!……オボロ様って呼ばれてたな……近くの村……そこに行けば……また、逢えるかな?)
薬丸が効いてきたのか、身体が少し楽になってきたアミュ。
追いかける体力がまだ無いため、その場でへたり込み眠りにつく………。
洋館を後にしたオボロ達━━
クロネの羽先が怪我をしているせいか、フラフラと飛んでいた。大事をとり、森を歩いて村まで戻ることにする。お互い怪我、体力の消耗で歩くペースは遅い。
村に着いた頃には、満月も空高く、マーマン達は皆寝ている……。
オボロとクロネは、村中央の大木にもたれ掛かり、安心したかのように眠る……。
満月が輝き、2匹を包み込む………。




